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理取未 03

「他にはないのかよ。ワビサビの括りなしで、僕にして欲しいことって」

 勢いで口に出してしまい、いつの間にか僕がイマダさんに奉公する立場みたいになっていたが気にしないでおこう。

「うーん、うーん、うーん……。だったらクギミンちで――」

「一回、僕んちから頭を放せよ!何度も言うが、僕んちはお前の思っているような奇想天外屋敷じゃない」

「やーだー!つーまーんーなーいー!」

「つまらないの一言で勝手に僕の家を増築するな。後言っとくが、家には別荘もなければ、自家用ジェットも自家用クルーザーもないぞ」

「うむむ、うむむ、うむむむむ。先手を打たれちゃったよ。ボケ潰しだー!穀潰し予備軍だー!」

 誰がニート予備軍だ、誰が。

 僕はこれでも将来設計を持って、真面目に生きているのだ。

 それが果たして常識的かつ社会的に良い人間になるとは限らないけどね。

「さてさてさて、はてはてはて、困った困った困った。特にしたいことが思い浮かばないよ……」

 頭から怪電波を飛ばさんばかりの勢いでイマダさんが悩み始めたので、僕は適当な妥協案を出すことにした。

 このままイマダさんを悩ませておくのも非常に面白そうだったが、放っておくとそのまま未確認非行物体でも呼び出しそうだし、やめておこう。

 UFOなんか、そうそう見つけるものじゃない。

 テレビで見るくらいがちょうど良いのだ、あれは。

「イマダさん、思い付かないんだったら、僕が一つ提案してあげるよ」

「何かな?何かな?何かな?」

「今度勉強を教えてあげるのは?言っちゃ悪いけど、イマダさん、今度あるテストほぼ赤点間違いなしだろ?」

 イマダさんの面倒を見れて、さらに理不尽に徴収される恩も返せる。僕にとって一石二鳥の案。

「むぅ、むぅ、むぅ!クギミン、あたしの事を馬鹿にしてるね!私だって日夜勉強して、日々成長してるんだよ!」

「へぇ、そうなんだ。じゃあ、その証を見せてよ」

「あ、あ、あ、証っ!?ちょ、ちょ、ちょ、ちょっと待って!ファイト・ア・モーメント!」

 瞬間と戦う。

 どこかの少年漫画のサブタイみたいだ。

 もちろん、ウェイト・ア・モーメントの間違い。

 英語で格好よく言おうとして失敗しただけ。

「よしっ!よしっ!よしっ!日本史で行くよ!」

 なんかオチが読めた。

 言わぬが華なんだろうけど。

「いい国だと繕う鎌倉幕府!」

「てめぇ、源頼朝を馬鹿にするな!」

「だって朝廷と幕府の二つも政府があったら、上手くいくわけないじゃん!」

「いや、まぁそうかもしれないけど、ここでまともに返すなよ」

「次、次、次!虫殺しの大化の改新!」

「いや、確かに645年なのは覚えられるけど、しょぼい!大化の改新が一気にしょぼく思えてきた!」

「虫殺しは、虫の息になるまで痛めつけてから殺した、の略だよ?」

「怖ぇよ!つか、略しすぎだ!」

「蒸し殺されて耐火の改新っていうのもあるよ?」

「建築革新みたいじゃねぇか!すでに大化の改新じゃなくなってるだろうが!」

 楽しい日本史の授業だった。

 日本の教育は何処へ向かっているのだろう……。

 ちなみに、標津高校における一年生の社会科二科目は現代社会と世界史の二つ。

 日本史は含まれていない。

 今度そこら辺も合わせて、教えなければ。

「うーん、それじゃあ……」

「ならならなら!クギ君と一緒に帰りたいかな!」

 僕の妥協案はあえなく潰されてしまった。

 僕の考えていた妥協案よりずっと楽な案だから別に構わないけど、喋り出した途端に口をはさまれたので、若干不機嫌になる。

 僕もさっきやったし、お相子か。

「それぐらいだったら別に良いよ。そうと決まればさっさと帰ろう」

「ちょっと、ちょっと、ほんのちょっと待ってて!鞄とってくるから、それまで待って!微動だにしないでね!」

 そう言い残して、イマダさんは校内へと走り去っていく。

 僕は今更ながら、イマダさんが鞄を持っていないことに気付き、走り去るのを見送った。

 イマダさんのスピードなら、僕には見送る他ないが。

 イマダさんの鞄は教室にはなかったし、おそらく保険室においてあるんだろう。

 それなら、十分も経たない内に戻ってくるはずだ。

 イマダさんの足ならもっと早く、五分とかからないかもしれない。

 僕は座って待つ必要はないと思い、路肩に避けて、脳内詰め将棋でもして時間を潰すことにした。

 ところで、詰め将棋ってどうやるんだっけ……?


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