第四話 鬼と人と
前の話とこれを合わせて一話分と考えてください。次の話から文字数を元に戻します。
side ベル
吸血鬼を倒そう。そう思った後の行動は早かった。隣の部屋で寝息を立てているアラスたちに適当に置手紙を残して、鍬を片手に夜の闇に紛れて村を出発する。
正確な方向は分からないけれど、崖のある方向は北だからそっちの方へ向かっていけばなんとかなるでしょ。館っていうぐらいなんだからそれなりに大きいはずだし。なんとかなるでしょ。
「うぅ・・・寒いぃ」
もう外も真っ暗だし、流石に寒い。あの家から上着の一つでもかっぱらってくれば良かったかも。なんて、今思っても仕方ないか。
「とりあえず、誰かに見つかる前に・・・」
「こんな時間にどうしましたんじゃ?お嬢ちゃん」
「・・・・・・へ?」
後ろから声が聞こえた。振り返る前に誰だかわかったけど、振り向きたくなかった。あんたこそなんでこんな時間にいるのよ!もう!
「村長こそ・・・な・・・なんで、こ・・・こんな時間に?」
ああ、ものすごい動揺してる・・・。なにやってんのよ私!英雄なのに・・・。
「いやいや、儂のようなジジイになるとの、深夜に目が覚めることがおうて、少し散歩をと思ってな。もしかしてお嬢ちゃんも散歩か?儂と同じじゃな」
「む!私ババアじゃないよ!いいから村長は寝ててよ。目が冴える?大丈夫よ!近いうちに永い眠りがやってくるから」
「・・・・・・・・」
あれ?怒っちゃった?まずいかも・・・?いや!そっちが私がババアなんて言うから悪いんだよ!ふーんだ!言い返されてやんの!
「永い眠りか・・・確かに、『人間として生きている』からにはそれは避けられん」
「え・・・・」
村長の雰囲気が変わった。うまくは言えないけれど、どこか遠い眼をして、まるで生きてないって言ったら変だけど・・・そう!達観!達観したようだった。
「少し、昔話をしても良いかな」
「・・・・・」
「儂が若い頃じゃった・・・」
返事訊けよ・・・・・。
「儂は騎士だった。それはもう生気にみなぎっておった。闘うことが好きでたまらなく、死ぬまでこうして生きていたい、闘いの中で死んだとしても本望だと思ってた。だが・・・それはならなかった」
「・・・・・・・・・・・」
「やはり老いには勝てなかった。今もこうして生活しておるが、あの時が愛おしくてたまらない」
村長は淡々と語っていたけど、結局なにが言いたいんだろう。単なる自分語りなのかな?なら早く逃がしてほしいんだけど・・・。
「もし、あの時に戻れるのだとしたら、儂はどんな手段も厭わないつもりじゃ・・・。例え、人の道を外れようとも・・・」
「・・・・・・・・・・・」
私はその時の村長の表情を見て愕然とした。人の目をしていなかった。瞼を一パイに見開いてどこか遠くを見つめていた。
「・・・つまらない話をして悪かったの、お嬢ちゃんも早く寝るんじゃよ。儂は家に帰る」
「・・・・・うん」
私は依然呆然としたまま村長の背中を見ていた。北の方向へ姿を消した村長の姿を・・・
「ん・・・?北・・・?」
ちょっとまって!よく考えたらあっちって村長の家じゃあないじゃん!
慌てて村長が消えた方向を見てみる。夜の暗闇があるだけで誰の姿もなかった。あるものと言えば、小さい風の音だけだった。
「まあ、いいか・・・」
不安を押し殺し、私は北に向かって歩き出した。