第二話 奇妙な村人たち
side ベル
入る前から大きい村だなぁと思っていたけど、実際中に入ってみると大したことはなかった。といっても私はあの地主の領のことと、私が生まれた町のしかも路地裏のことしか分からないし村の入り口までしか入ってないから良く分からないんだけどね。
石造りの太い一本道に大小あるけど家が並んでいて、たまに脇道があったりしてる。前に私がいた町と大体同じだ。
「勇者様、これからどうしますか?」
「とりあえず、村長のところへ行こう。話はそれからだ」
とりあえず、この人たちはカン違いしてくれてるみたいだし、このままついていこう。その内私の眠れる勇者の力が覚醒するだろうし、それまではこの自称勇者君にいい思いをさせてあげようではないか!
「こっちだよ、ついてきて」
「あっ、はい!」
まあ色々不安はあるけど、なるようになるでしょ!明るく生きま・・・。
「ゆ、勇者様ですか?」
「・・・・・ん?」
突然、私たちの目の前におじいさんに片足を突っ込んだおじさんって感じの人が現れた。村の人間だとは思うけど・・・なぜか目が血走っていて口を開け、手や足をわなわなと震わせていた。
「ええ、僕が勇者ですけど・・・」
「そ、そうですか・・・。勇者が来た・・・勇者が来た・・・これでやっと・・・が・・・」
謎のおじさんは質問の答えを聞くと、血走った眼を飛び出しそうなほど見開いて俯いた。それから譫言のように呟きながらトボトボと力なく私たちに背を向けて去っていった。残された私たちはというと、何が起こったのか全くわからずその力なく曲がった背中見つめるしかなかった。
「・・・・・・・ッ!」
ふと、周りを見つめて私は唖然とした。周りの家々から顔を出している人が何人もいた、ここまでは何の問題はない。だけど、その人たちの表情は、先ほどのおじさんの表情と同じだった。生気を失い、眼を血走らせて私たちを見つめていた。
この村は、どこかおかしい。
「・・・ひとまず、村長の家にむかいましょう」
「ああ、そうだね。行くよ、ベル」
「あっ、はい」
いきなり呼び捨てかいな・・・。まあいいけど。
石造りの道を歩き、村長の家に向かう。その間、私はずっと下を向いていた、周りの家々の人の表情を見たくなかったから。こんなの、前の町でも感じたことのない異質なものだった。
英雄の道に困難はつきものね!・・・と、普段なら思えたけど、今はそんなことまったく考えられなかった。
「着いた、ここが村長の家だ」
「一本道で助かりましたね。村人に道を訊けそうにありませんでしたので」
「ああ、そうだね。大丈夫だった?ベル」
「へ!?ああ、そうだね・・・ええと・・・」
あ、そういえばこの自称勇者くんの名前知らなかった。どうしよう・・・いっそのこと『そうだね!自称勇者くん!!』とでも言ってあげようかな。
「ああ、僕の名前を言ってなかったね。僕の名前はアラス。アラス・シルバーウィンド」
「わ、わかった。アラス」
なんか妙にかっこいい名前だなぁ・・・。自称勇者のクセになまいきだ。
「よし、じゃあ村長の家に入ろう。村人からの視線もたまったものじゃないからね」
私もボウゲンも無言でうなずく。ただ村長の家に入るというだけなのに妙な緊張感を感じていた。なにか嫌な予感がする。ここにいる三人全員が思っていると思う。けれどだれもそれを口に出さなかった。
そして、扉が開かれた。
side out
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side アラス
この村に対する違和感は、前々から感じていた。一週間前に村の副村長と念話で『ここにしばらく滞在させてくれないか』と頼んだ時が最初だった。頼んでいるのはこちらだというのに、彼は涙まで流しながら狂気じみた声で『おねがいします・・・おながいします・・・』とこちらがやめてくれと言っても言い続けていた。
それでも、この村を逃すと近くに滞在できる場所はない。村を除いて一番近い場所でも一か月以上はかかる。流石にそれは避けたかった。
「・・・・・・」
しかし、扉を開けた今、それを後悔した。例え一か月野宿したとしてもこの村に来るべきではなかった。どう考えてもこの村はおかしい。僕たちを見る眼が以上だ。あの様子だと僕たちをこの村から逃がす気はないだろう。退路は既にないのだ。
村長の家は他の村人の家とそう変わらない。変わったところといえば納屋があることくらいだ。木造の二階建ての何の変哲もないソレだ。それは内装も例外ではなかった。
「・・・・・事前に来ることは伝えていたんだけど・・・妙だな」
あれだけ僕たちが来ることこ願っていたのにも関わらず出迎えの一つもない。そもそもこの家の中にいるのか?
「勇者様、居間の方から人の気配がします」
「・・・・・・・そうか」
ボウゲンはこういったことに関しては僕より数段上だ。間違いない、人はいるんだ。じゃあなぜ・・・僕らを無視する?扉は音を立てて開いたのだから気づいているはずなのに・・・。
「ねえ・・・アラス。大丈夫なの・・・これ・・・」
「・・・・・・」
奇妙と言えばこの少女もだ。・・・まあ今気にすることではないのだが。というかこの村に泊めさせてもらうつもりでいたが・・・いいものなのだろうか。
「・・・・・・ッ!勇者様、あれ」
「なんだ・・・っ!」
「ひぃ!」
ボウゲンの声に反応して居間の方向を見ると、いつの間にか僕らの視線の先に初老の男が立っていた。年季の入った白髪に無精ひげを生やし、左手に杖をもっている。この人が村長だろうか?
「あ、あの・・・だれ?」
ベルが消え入りそうな声でそう尋ねた。怖がるのも無理はない。この男だって先ほどの村人に近い狂気じみたものを感じる。眼は垂れ下がり澱んでいるし、しわだらけも顔は何を考えてるか分からなかった。
「わしか?わしはこの村の村長だよ。悪いね、最近耳の調子がわるくて」
「・・・・・・・」
「まあ、どうぞ奥へはいってまっていてくれ。簡単だが茶をだす」
「・・・・・・」
僕たちは何も言わずに居間へ入っていた。
side out
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side ベル
ウソだ。この村長はウソをついてる。
さっきの私の小さい声が聞こえたんなら、あの扉が開く音が聞こえないはずがない!ウソをついているんだ。理由はわからないけど、こんなウソをつくんだからなにかあるんだ。
「・・・・・・・」
居間のいたるところに目を凝らしてみる。一切変わりがないのが逆に不気味だった。まあ、何かがあるんなら居間になんて置かないと思うけどね。
「粗茶だが、まあいただいてくれ」
「・・・ありがとうございます」
「・・・・・どうも」
私たちにお茶を出すと、村長はテーブルを挟んで対面の位置に腰かけた。相変わらず何を考えてるかはまったくわからない。
「・・・・・さて、勇者殿、こんなところまでわざわざご苦労様です」
「いえいえ、私たちも宿泊場所に困っていたので、こちらがお礼を言いたいくらいです」
「さて、今日はどのようなご用で?いや、挨拶だけというならそれでも別にいいのですが」
「・・・・・・・・・・・」
アラスはしばらく考え込んでいた。そういえば私の泊まる場所を何とかしようとしてくれてるんだっけ?それはありがたいんだけど・・・この村に泊まるのはなぁ・・・。
「はい。今日は挨拶だけです。特に用はありません」
・・・・・あれ!?私は!?いや、自分でもあつかましいことはわかってたけどさ、そこまできっぱり言う?自称とはいえ勇者としてどうなの!?
「そうか・・・ならばこれでさよなら・・・」
「はい・・・それじゃあ・・・」
「と、言いたいところなのだがねぇ・・・・・」
「・・・・・・」
え、もう私のことは完全無視ですかスルーですか!ひどくない!?というかこの空気・・・なんとなくだけど村長が怖い・・・。
「私の方に用があるのだよ。・・・いや、用というよりお願いかのぅ、嫌なら断っても構わん」
「・・・・・・その用・・・とは?」
「・・・吸血鬼を・・・殺してほしい」
「・・・・・・!?」
私はこの人が何を言っているのか分からなかった。吸血鬼というもの自体は本で見たことがある。けど、それが本当にいるっていうこともにも、それを殺してほしいと真面目に言ったこの村長に対して、私は呆然とするしかなかった。
「この村の少し先の崖にな・・・洋館が建ってるんだか・・・そこに住んでるんじゃ、吸血鬼が」
「・・・・・本気で言ってるんですか?」
「ああ、毎年犠牲も出ている。生贄を捧げぬと村を襲うと言って脅すんじゃ。今年で十人目じゃ」
「・・・・・・」
「まあ、ここで結論が出ないなら数日間、しばらく考えてくれ。だが、できれば早い方がいい」
「・・・・・・わかりました」
その時の村長はやはり、何を考えているのか全く分からなかった。
それから村長の家を後にした私たちは、道の真ん中でどうすることもできずに立ち尽くしていた。
「どうしますか、勇者様」
「・・・・とりあえず、今日は事前に伝えられた宿泊場所で休もう。今日は色々疲れた」
「・・・・・そうですね」
あのぉー、あなたたちはそういう場所があると思いますけど私は一体どうすればいいんですか!?野宿しろと!?この鬼、悪魔、アラス!
「なにぼーっとしてるんだい?」
「へ?」
「ああ、そうだ言ってなかったね。ベル、君にはこれから僕たちと一緒に行動してもらう。偶然とはいえこうして出会った仲だし、このまま一人でこの村に泊まらすわけにもいかないし」
「・・・・・えぇ!!!」
さすが勇者さま!いやぁ言うことがちがいますねぇ!!流石です!
「じゃあ、ついてきて」
「あっ、はい!」
自称勇者、奇妙な村、謎の村長、吸血鬼・・・・。色々不安のたねは尽きないけれど・・・まあなんとかなるでしょ、それよりも今は眠い。家にいったらすぐにでも寝よう。