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たまねぎ勇者の冒険譚  作者: シロッコ
第一部 Shine Blood
2/6

第一話 冒険譚の始まり

side  ???


僕が王から魔王討伐の依頼を受けて、早3か月になる。だが、魔王の城に着くまだまだ半分以上道は残されている。実に長い道のりだ。途中何度やめたいと思ったことか。


いや、何度もやめようとした。でも、やめられなかったのだ。みんな僕に向かって勝手に期待を押し付けてきたから。


 僕は元々ただの農民だった。貴族ほど裕福ではないけれど、農奴ほど貧しくもない。そんな平凡だけど幸せな生活を送っていたっていうのに・・・。ある日突然勇者の力なんかに目覚めて・・・それからは思い出したくもない。


 みんなは笑顔で俺を送り出そうとしていた。一人見知らぬ大地に赴く僕の気持ちなんて聞いてくれずに。家族も友達もみんな笑顔だった。


 だが、僕に勇者として世界を救う気がないかといえばそうではない。きっかけは初めて俺が魔物との戦闘をした時だ。結果からいえば楽勝だった。自分でも驚きだった。自分でないような身体能力と魔力量。まさに勇者の力だった。


 この力があれば、たとえ俺のようなたかが12歳の少年でも世界を救える。そう思った時、自分が大きく思えて、やってやると。


 それから今に至るまでは早かったような気がする。まあ、これからもこんな感じでやってけるだろう。それよりも今は眠い。


「勇者様、ちょっといいですか?」

「ん・・・・・?どうした?」


 これから眠ろうという時、僕の仲間の一人であるボウゲンが姿を現した。彼は僕と同じ歳でありながら王宮から遣わされた人間で、実力は相当だ。尤も、僕には劣っているけど。性格も真面目で容姿もイイ絵に描いたような優れた人間だ。


 仲間はあと二人いるけど、今は分け合って別行動している。


「草原に農奴と思われる俺たちと同じ頃と思われる少女が倒れています。どうしますか?」

「・・・・・農奴の少女?」


 馬車の窓から顔をのぞかせる。ボウゲンの冗談かなにかかと思ってみれば、本当に少女が一人、草原に横たわっていた。最も、距離があるため性別も年齢も若干あやしいけど。


「・・・とりあえず、中に入れよう」

「・・・いいんですか?」

「いいんですかって、アレほおっておけば死ぬよ?それを見捨てるほど僕は地に落ちちゃいない」

「・・・わかりました」


 そう言いボウゲンは少女の回収に取り掛かった。それから数分後、少女は馬車の中に連れ込まれた。





「どうやら息はあるみたいだね」


 馬車に横たわる少女の胸に手を当てて、僕はひとまず安堵した。にしてもこの少女、どこから来たのだろうか?汚れていてもわかる綺麗な茶髪、目は閉じられているけれど整った顔を見るにどこかの貴族?でも身なりが完全に農奴のソレだ。劣悪な労働環境からの逃亡だろうか?


「んっ・・・・。ぅう」

「どうやら、目を覚ましたみたいだね」


 いろいろ気になることはあるけれど、丁度目を覚ましたことだし彼女から直接聞けばいいだけの話だ。



 side out




side   ベル


 目を覚ましたら知らない女の子が私の顔を覗き込んでた。んでもって辺りを見回してみるとどうやらここは馬車の中みたい。


 やっぱりね!流石私!途中意識が遠のいた時はどうなるかと思ったけど、やっぱりこれが英雄の成せる技よね!


「やっと目を覚ましたみたいだね」

「ふぁ?」

「大丈夫かい?君はついさっきまであそこの草原に倒れていたんだ。どこから来たんだい?」

「えーと・・・」


 不味い、さっきとは別の意味で不味い。このまま強制送還なんてことになったら世界が滅ぶ。英雄である私はなんとしてでも魔王を倒しにいかなければならない!


 ・・・というか、この人たち何者?今話してる人はなんか凄い綺麗な剣装備してるし、横にいる人だって大層な甲冑を装備してる。というかこの馬車どこに向かってるの?


「もしかして・・・記憶がないとか?」

「・・・・あ?ええっと・・・そ、そうです!ワタシキオクガアリマセン!」

「・・・・・・・・」


 あ、やばい?というかすごい睨まれてる!なんとかこの設定のままこのハードな場面を切り抜けないと・・・。


「どうします?勇者様、この少女。このままずっと連れていくわけにもいかないし」

「取り合えず、この先の村まで連れて行こう。運が良ければ身元が分かるだろうし」

「ですね、ではそのように」


 わわっ、なんか私の知らないところで勝手に話が・・・。まっ、これはこれで都合が良いからいいんだけどね。近くの村につれてってくれることにもなったし万々歳だね!・・・・あれ?


 ・・・・・・・・ん?隣の人なんて?『勇者様』・・・?もしかして私に言った?いいや、会話の流れと視線からしてどう考えてもあの男に向かって言っていた。流石に私もこれぐらいは分かりますよ。そうなるとあの男が勇者?おかしくないですか?それは私・・・。


 ああ、なるほどね!


 ようするにこの男たちはカン違いしてるのね!大方何かの偶然から自分は勇者だなんて痛い妄想を現在進行形でしてるに違いないわ!間抜けね!


「ああ、そうだ。君の名前はどうしようか・・・」

「え?ああ、ベルです。姓はありません」

「え?名前は覚えてるの?」

「え?あっ!えぇ!ちょまうぇ!!そうです!名前だけは覚えてるんです!」


 危ない危ない、もう私に話しかけないでよぉ・・・。すぐにボロがでてしまいそう。


「分かった。ベル。もう村が見えてきたよ。見てごら」

「わ、わかった!」


 窓から目いっぱい首を出して村を見る。木製の柵に囲まれた、特別大きいわけではないけれど平和そうな家々や人々も近づくにつれ見えてきた。


 あんなに人がいる・・・、私の知らない人が。みんなどんな人なんだろう。今から話すのが楽しみで仕方がない!


 私の知らない世界が目の前にある!

 


 






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