prologue
これからよろしくお願いします!
はじめは誰もが無力だった。
時代を救った英雄も、世界を混沌に陥れた魔王も、巨万の富を築きあげた大富豪も、自慢の王宮菓子職人も。
誰しもはじめは無力だった。
しかし、彼らは善悪を問わず、誰よりも強く夢、野望、大志を抱き己が信念のまま追い続けた。
だからこそ、世にその名を轟かすほどの存在となったのだ。
夢は、追い続ければ必ず叶うものだから・・・・
私は英雄だった。
そう、気づいた。気づいてしまった。
きっかけは些細なことだった。農作業中に転んで頭を石にぶつけたと思ったらなにら奇妙な映像が頭のなかに浮かんで見えた。勇者のような人間が魔王のような悪魔を打ち滅ぼしていたのだ。偶然石を頭にぶつけてこんな映像を皆さん見ると思いますか?答えはNo。これは必然。
そうです!私の前世は英雄だったのです!
聞けば王都では魔王が復活したとかいう噂が立っているとかいいますし、タイミングもばっちり!これは神様からの宣告からに他ならない!今一度英雄になれという宣告!
ならば行くしかないッ!世界を救いに!
幸いというか私に家族はいない。今だって地主の元で馬車馬の如く働かされる代わりに住まわせてもらってるだけの未来はない生活を送っているにすぎないのだ。だから私を心配する人なんてどこにもいない。それに私一人がいなくなったところで、別になんの変わりもないでしょ。
右手には農作業用の鍬を持ち、左手には畑からかっぱらってきた芋を持ち、着のみ着のまま旅に出よう。予定?そんなの、英雄ならなんとかなるよね!
夜の闇に紛れ、意気揚々と私は旅立った。視線の先に光を見て・・・。英雄の道を歩みだす・・・
・・・・・と、思ってたのに!
「まずい・・・このままじゃ死ぬ・・・」
歩き始めて約1日、行けども行けども青々とした草原がひろがるばかりだ。よくよく考えたら私、あの地主の領から出たことなかったんだ。いくら私が英雄だとはいえ、すこし迂闊だったかも・・・。
「あれ?というかここで魔物が出たらヤバくない?」
いや、私は英雄だ。魔物に襲われたら眠れる力が覚醒するシナリオが濃厚だ。そこは問題ないのよ!それよりも今は・・とにかく・・・・。
「おなかへった・・・」
畑から持ってきた芋はとっくになくなっている。水だってもうない・・・。このままじゃあ本当に死んじゃうかも・・・あれ?もしかして私、やばい?
いいや私は英雄だ。それに昔から悪運は強い方だ。両親に捨てられ生まれて初めて目を開ければそこはゴミ捨て場、私拾ってを8歳まで育ててくれたおじいさんが死に、それから3年間裏路地で純潔を守りながら生き残り、街がゴブリンに襲撃されて大半の人が死んでも生き残った。親を名乗る人に騙されて稼いだお金を全てなくしても一人草原を1週間歩き地主の元にたどり着き生き残った。
そんな私が!ここで死ぬはずがなぁい!ましてや今の私には英雄補正がある。これで私が助からないという方が無理、誰もこの世を踏み外さないように、私も助かるしかないのだ!
力の抜けた身体に力を入れて、立ち上がる。歩こう。不思議と身体が軽かった。なんで・・・。
少しの間、仰向けになって考えてみた。しばらくすると、雲の隙間に隠れていた太陽が現れた。思わず目をそらしたけれど、その時その理由が分かったんだ。
ああ、そうか。英雄が云々よりも、私は今この目の前に広がる無限の世界に対しての好奇心で満ちているんだ・・・。
一歩踏み出す。嗚呼、私が進む道の先には・・・
どんなセカイが待っているのだろうか。
いかがでしたでしょうか。