Ⅰ
多分2話か3話で終わります
テトーリオ・アルズファート侯爵は複雑な心境でビロードのソファに座っていた。長い脚を組み、眉間にくいっとシワを寄せて…。
テトーリオ・アルズファート侯爵は今年十八を迎えた。ついでに花嫁も迎えた。
全体的に色素の薄い少女。可愛いわけではない。美人なわけでもない。
彼女はそのどちらにも属さない“綺麗”な少女だ。
だがしかし笑顔がない。常に笑っていろとは言わないが、花婿を前にしても無表情だったことには少なからず傷ついた。加えて初対面の、しかも花婿への態度は淑女とは思えないほど突飛なものだった。
───『お初にお目にかかります、テトーリオ・アルズファート侯爵閣下。あなたとわたしは政略結婚ですがそのことに関してわたしに不満はありません。だからといって世間一般でいう“仲睦まじい夫婦”になる必要はないと思っております。お互いに不干渉ということでお願いします。ついでにわたしのことは空気か塵だとでも思ってください。では。』───
そう言って“花嫁”はアルズファート家の家令に案内され、そそくさと退出してしまった。
『………』
『…随分と変わった………あー………えっと………個性的な方ですね。』
執事であり幼馴染みであるユーシスが硬直しているテトーリオに話しかけてきた。
『あぁ………』
ロルファ・ディアレーン男爵令嬢の噂は社交界でたびたび耳にした。
『にこりとも笑わないらしいわ』
『しかも非情だとか』
『容貌だけが取り柄なんですのよ』
『そうそう、わたくしも小耳に挟みましたわ』
『まぁ』
『まさに“ブリキ令嬢”ね!』
『『ブリキ?』』
『えぇ。心がなくて冷たいぴかぴかのブリキ───』
社交界の令嬢達は間違ってはいなかった。
まさしく彼女は“ブリキ令嬢”ならぬ“ブリキ花嫁”だ。
このままでは、まずい。非常にまずい。
───私は! 甘い結婚生活に憧れているのに!!!
まさかっ!私の悪名が彼女にこういった態度を取らせているのでは!!!?
× × × × ×
「はぁ………」
テトーリオ・アルズファート。彼と会うのは二度目だが、わたしのことは覚えていないだろう。
───『お嬢さん、夜会は初めてですか? …お疲れのようですね、どうぞ、こちらへ』───
慣れない賛美の言葉や堅苦しい雰囲気に嫌気がさしたときの彼のさりげない優しさにキュンときた。いわゆる一目惚れだった。そして幸運なことに、政略結婚というかたちで再会した。
そして、ロルファも例に漏れず幸せな結婚を夢見た。
───彼との新生活……!!!
だが、その喜びは儚く崩れた。
彼には愛人が複数いて、その愛人らを養うために男爵令嬢を迎えた、とか、実は裏社会に片足を突っ込んでいる、とか。
そんな噂が流れるのも分からなくはない。
テトーリオは八方美人なところがあるから…………
そんな噂より、もっと決定的なことがある。
───『なぁ、ユーシス……男爵の娘の、あー……ロルファのことなんだが…。離婚、しようと思う──』───
式を挙げ、夜を共にした後、三日目のことである。
あり得ない…! とんだクズ!!
と思ったのもつかの間、怒りは諦めに取って代わった。
好き、だったのはわたしだけ──────?




