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最終話

 途中、暴動が起きかねない事態に陥りはしたものの、秋祭りはそこそこの盛り上がりのうちに閉幕。近藤さん達が目を覚ました頃には日も暮れはじめ、片付けに追われて僕らの労がねぎらわれることもなく、めいめいに家路についた。事務所に戻れば夜見子君が土下座して謝罪。行きがかり上ステージに立たずに済んだ水魚サンは怒ってる風もなく、あこや君もみんなの衣装を作れただけで満足しており、まとめもステージの顛末を聞いて笑いを堪えているようだった。タカシは落ち込んでひと言も喋らない。トイレからはいまだに北國の奇声が聞こえてくる。とりあえず記念撮影を済ませ、事務所で解散。みんなが事務所を後にし、まとめと二人、とり残された。

「なんか、グダグダのデビューになっちゃったね。やすピンとの約束、果たせるのはもうちょっと先かなあ」

「約束? 前にもそんなこと言ってたよね? 僕、まとめとなにか約束してたっけ?」

「え? 覚えてないの? じゃ、やすピン、あの子供の頃の約束守るためにレクイエム立ち上げたんじゃなかったんだ」

 まとめに説明され、僕の記憶の奥底が掘り返されるのに、さほど時間はかからなかった。

 小学生の頃、夢中で見てたTVアニメ、「アイドルエージェントぴかり」芸能界の悪を滅ぼすためにアイドルとして潜入した国際エージェントぴかりは第一話でいきなり殺されるも宇宙人に改造手術を施され、魔法アイドルサイボーグとして復活。自分を売った上官や悪徳スポンサーにアイドル的な制裁を加えていく……といった、予想を裏切りまくるジェットコースター展開に当時の僕はたちまち虜になったが、空前の低視聴率と大人の事情、製作サイドの不和、日本の公序良俗を守るウンチャラ団体からの抗議が殺到、等々の理由で、わずか六話で打ち切りとなった。そのときの僕の落ち込みようは半端ではなく、見かねたまとめが、大きくなったらアイドルエージェントになる! とかなんとか言って僕を励ました、らしい。僕は全く覚えてないのだが、まとめが覚えているということは相当な覚悟を決めての発言だったのだろう。

 僕がアイドルユニットを作ったのはその約束をまとめに守らせるためだと思っていたらしい。僕がそこまで粘着気質だと思われていた事実に軽いめまいを覚えつつ、玄関にまとめを促した。

「でもまあ、これでよかったのかもしれない。みんなには悪いけど、僕はまとめにセンターやってほしかったんだ」

 僕が言うとまとめは少し驚いたようだった。

「無理無理。平坂さんも北國さんもすごくうまいし、オーラあるし、そんな高望みしてたら、それこそ一生かかっちゃうよ? もう、やだなあ」

「そんなことない。今度こそ約束してよ。まとめがセンターを、いつかきっとやるって。僕はいつまでも待ってるから」

「う、うん。やすピンがそこまで言うなら……がんばってみるよ」

 心の中でほくそ笑む。これでまとめの言質は取った。僕の深謀に気付きもせず、相変わらず無防備な奴だ。まとめをお帰り屋に送り届け、まとめが自分の部屋に引っ込むのを確認すると、僕は親父さんにかねてからの悪だくみを打ち明けるとともに、賄賂のギャルゲーをしっかり手渡した。

 やがて月も改まり年末の到来となった。世間ではクリスマスソングが流れ、世の男女が聖夜の勝負に出るのだろうが、年の瀬は葬儀屋とて書き入れ時。従業員のみんなに休暇を与える暇もなく、そのまま年越し。一月のうららかな日に、レクイエムはまとめの家の座敷に集合。小さな祭壇にはまとめのお母さんの遺影。

 そう。この日、僕はまとめのお母さんのお葬式をやり直すために、秘密裏に準備していたのだ。会葬者は親父さん一人。エレキギターを弾きながらの西園さんの読経が終わると、司会進行役の僕のスピーチとなる。

「今から九年ほど前、故人、小豆沢まともさんは咲元夫妻と移動中、不幸な事故でこの世を去られました。故人はよき妻、よき母として、家業のお帰り屋を切り盛りしているさ中、突然の他界。ご本人の、そしてご遺族の無念は察するに余りあります。特に、当時中学生だった一人娘のまとめさんを遺して逝くことはなにより辛かったのではと思います。しかし、あれから九年。まとめさんは健やかに成長し、故人の愛した家族を、そしてこのお店を、精一杯支えてきました。それでは、その成長した姿を見ていただきましょう。アイドルユニット、レクイエムのセンター。小豆沢まとめさん、お願いします!」

 住職がラジカセのスイッチを入れ、エレキで伴奏。僕とタカシが呼吸を合わせてふすまを開く。するとそこには決めポーズでスタンバイするレクイエム。

 やがて曲が始まる。水魚サンが、あこや君が、夜見子君が、北國が踊っている。そしてその中心で、まとめが踊り、歌っていた。この日のために用意した、僕の歌を。

 僕とタカシはライトを照らしてレクイエムのステージを盛り上げる。が、曲の真ん中まできた頃になって、まとめの声が震えだす。歌うのも辛いようだ。ラストまで、あと少し。がんばれ、まとめ。僕の願いに応えるように、周りのみんながまとめを励ますように踊る。

そしてついにフィニッシュ。まとめは最後まで歌いきった。親父さんも目頭を押さえている。ステージの余韻が残る座敷で、僕は一人、拍手をしてレクイエムに歩み寄った。

「ごめんよ、まとめ。このお葬式のやり直しはずっと前からプランとして暖めてたんだけど、実現するまで十年近くもかかっちゃった。僕がもっとしっかりしてればよかったんだけどね。でも、最高のステージだったよ、まとめ。お疲れ様」

 まとめはなにか言いかけたようだったが、目に溜めた涙がついに溢れ出し、僕に抱きついてきた。ずっと今まで押さえ込んできた感情がひと時、解放されたようだった。まとめは泣きながら、僕にお礼を言っていた。お礼を言いたいのは僕のほうだ。

 周りに目をやるとタカシ、住職、北國が僕とまとめを引き離しにかかっていたようだったが、水魚サンと、あこや君と、夜見子君がこれをガードしてくれていた。

 その後、夢見心地の僕が気付いたのは事務所のソファの上だった。水魚サンが言うにはまとめの腕が僕の頚動脈に入り、そのままオチたとのことだった。その間、僕の貞操は大丈夫だったかと不安になったが、水魚サンとあこや君が鉄壁の守りで僕を連れ出した旨を聞かされ、安堵した。

 

 僕がレクイエムの結成を発表してからほぼ一年の月日が流れた。僕は両手で頬を叩いて気合を入れる。いや、なにも幕下付け出しでデビューする訳じゃない。しかし、それに勝るとも劣らぬプレッシャーだ。意を決して事務所のドアを開く。と、あこや君が声をかけた。

「おはようございます、社長。今日もまた一段と太ってますね」

「駄目ですわよ、蛤さん。そんなことを言っては。社長、蛤さんの言うこと、あまり気になさらないでやってくださいね。本当のことですけど」

「なんだ? いつも搬送トラックに無理矢理積み込まれる豚みたいな目で出社するくせに、今朝は随分上機嫌じゃないか」

 あれから一年、レクイエムが結成されてもみんなの態度はほとんど変わっていない。強いて言うなら夜見子君が天然キャラから天然ニセお嬢様に進化したくらいか。だが、大きく変わったこともある。

「オッス。ヤスシ君。休みやのに、僕の顔を見にきてくれたんやな」

「さっきゅんおはよー。ボクね、昨日遺品の整理をしてたら、突然死んだ持ち主の記憶が見えたんだよ。今度はホントだよ」

 あれからタカシは大阪に帰ってお笑いスクールへの入学を志し、その資金作りのためにウチでバイトを始めた。隙あらば僕を大阪に拉致ろうとはしているようだが。北國もバイト先が店舗整理の対象になったとかで、僕に雇ってくれと頼み込んできた。まあ、レクイエムのセンターの座を狙っているのは明白なのだが。

 ともあれ、このご時勢、最低賃金で雇える臨時のバイトが二人も確保できたのは棚ボタである。この二人を馬車馬のごとく酷使して、せいぜい使い倒してやろう。

「あー、レクイエムが発足し、アイドル葬の依頼はポツポツあるものの、我が社の業績に劇的な変化をもたらすまでには至っていない」

「でしょうね。このままいけば、二年後には給与の未払いでも発生するかもです」

「あら、営業の私の責任ではなくてよ。社長に人望がないからじゃありません?」

 あこや君と夜見子君が身も蓋もないことを言う。最奥のデスクで水魚サンがくっくと笑っている。

「うむ。そこでだ、僕はこの難局を打破する、起死回生の一手を思いついた。いや、正確には夕べ、夢で見たんだ。発表しよう。その一手とは」

 事務所のみんなが冷ややかな視線を僕に向ける。が、ここで引き下がる訳にはいかない。

「我が咲元葬儀社専属の、着ぐるみユニットを結成する!」

 言い終わるとほぼ同時に、みんなが声を揃えた。

「いいかげんにしろ!」

 軟らかな一月の陽が窓から差し込む。そこに座ったぷるりが、大きくあくびをした。

挿絵(By みてみん)

 最後まで読んでくれてどうもありがとう。


 ちなみに……この作品が完結してからなんと5年後に蛤あこやのファンアートを頂きました。


 いや、お願いして描いて頂いたのですけどね……


 快く描いていただいた塩谷文庫歌様、この場を借りまして、改めてありがとうございました。


 挿絵(By みてみん)



 ロザリオありバージョン



 挿絵(By みてみん)




そしてメインヒロイン、小豆沢のFAを個人企画にてSbnb様から頂きました。


挿絵(By みてみん)


線画


挿絵(By みてみん)



 いや~、しかし、長いこと続けてみるもんですねえ~。

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