十七話
後日、夜見子君と共に音曲寺に向かうとすでにみんなは勢揃い。まあ、そういうタイミングを選んだのだが。特に水魚サンとあこや君は驚いていた。
「平坂。とうとうお前まで社長の手に落ちてしまったのか。なんてことを」
「平坂さんだけは大丈夫だと思っていたのに。社長に弱みを握られたのですね」
僕に弱みを握られ、下劣な取引を強要されたお二人の言葉だけに反論できない。僕が返答に窮していると、突然夜見子君がとんでもないことを言い出した。
「えっく、えっく。私、アイドルなんてやだって言ったのに、社長が怖い顔して怖いことするって言うから仕方なくアイドルやるの。怖かったよお」
いきなり背後からの銃撃にたちまち敵中孤立。僕はしどろもどろで弁解。
「ち、違う。誤解だよ。これは平坂君のいつもの困ったちゃんジョークだ。アイドルやりたいって言ったのは平坂君なんだよ」
すると夜見子君が僕を肘で小突き、顔を近付けてきた。
「おいゴルァ。カネのことは言うんじゃねぇつったよな? テメー、バラしたらバラすぞ。オレが折角助け舟出してやったのに、なに沈めてんだよ。沈めるぞこの豚ァ。もうこうなったらうまく辻褄合わせろよ。オレがフォローしてやっからよお」
今まで見たことない夜見子君の姿に目をぱちくりさせる。小声でそう命令され、仕方なく口裏を合わせる。
「えっとお、僕が催眠術使えたのはみんな知ってるよね? それでこの前、たまたま平坂君が催眠術にかかりやすい状態だったから、試しにかけてみたらたまたまかかっちゃったんだ。で、ついでにアイドルユニットに参加させようって暗示にかけたら、たまたま記憶の混濁を起したみたいで、ちょっと話がこんがらがってるみたいだね。そう、全部たまたまなんだよ。たまたま」
うむ。我ながら隙のないロジック。これならばみんなも納得せざるを得まい。しきりに耳打ちしたり考え込んでいるようにも見えるが、多分気のせいだろう。
「ええっと、一番こんがらがってるのはやすピンの言い分だというのはおいとくとして、とにかく平坂さんは催眠術でアイドルやるって決めたと。それでいい?」
「やだなあ、疑ってる? 今まで内緒にしてたけど本当なんだって。ほら、平坂君、君は犬だ。犬になって吠えるのだ」
夜見子君が四つんばいになって犬の鳴き真似をする。
「さあ、次は猫だ。猫になってゴロゴロするのだ」
夜見子君が床に寝転がって猫になりきる。
「ね? これで分かったでしょ? ああ、君達はみんな催眠術にかかりにくい性格っぽいから、僕みたいな素人には無理だなあ。あくまで平坂君限定だから、安心して」
「ま、まあ、二人とも熱演してるし、そこまで言うなら平坂さんの名誉のためにそういうことにしとくよ。よろしくね、平坂さん」
「まとめちゃん、ありがとー。あ、あと西園さん、これからお世話になる訳だし、お近付きのしるしにプレゼント持ってきたんですよお」
「あら、女からの贈り物は受け取らないことにしてるんだけど、なにかしら」
夜見子君は住職に二、三個の三連プラグを渡した。コンセントに差し込むだけで差込が三つに増えるスグレモノだ。うちの事務所にもいつの頃からかあちこちに転がっており、いくつか使っている。夜見子君め、さては事務所からくすねてきたな。まあ、まだ沢山あったし、いいか。が、住職は受け取るなりそれをゴミ箱に捨てた。
「ありがたいけど、このテのブツは盗聴器の疑い濃厚だから使わないようにしてるの。いえ、疑ってる訳じゃないのよ。気持ちだけ受け取っとくわ」
「え、そ、そうなんですか? それって盗聴器になるんですか?」
「ちっ」
夜見子君が小さく舌打ちしたのを僕は聞き逃さなかった。
「ヤスシ君、今更なに言うてんねん。そんなの今時小学生でも知ってるで。まあ、僕もこの前事務所に行ったとき何個か仕掛けてんねやけど」
「なに、さらっととんでもないこと言ってんだよ。そしてやってるんだよ。それストーカーじゃん! もうタカシは事務所出入り禁止な」
事務所に帰ったら早速増設プラグの類はすべて粗大ゴミとして処分しようと心に決めた。それでも全く安心できないのだが。
紆余曲折ありながらも夜見子君の紹介が終わり、ひととおりのテストをする。やはり僕が思ってたとおり、すべての能力が高次元で融合。まとめが僧侶なら夜見子君は司祭クラスといったところか。それから何度か練習を重ね、夜見子君の実力はいともあっさりまとめを凌駕。ひと月も経たないうちにフォーメーションの再考を余儀なくされた。
「平坂さんの加入でレベルアップはしたけど全体のバランスがおかしくなったわね。この際平坂さんをセンターにしたほうが無難かもね。小豆沢さんには悪いけど」
「ま、そのほうが本人のためやろ。今の状態じゃ見るモンも納得せえへんからな」
「あ、私なら気にしないで。平坂さんのほうがうまいのは事実だし」
「ごめんねぇ、まとめちゃん。後から来た私のほうが目立っちゃって」
夜見子君が舌を出して自分の頭をコツンと叩く。みんなも異論はなさそうだったが、僕はなぜか釈然としなかった。
「じゃあ、平坂さんとペイペイがダブルフォワード。小豆沢さんがディフェンシングハーフ。油谷さんと蛤さんがサイドバック。これなら五曲のノルマどころか、八曲はいけそう。これがベストの布陣でしょうね」
北國が多少ゴネたものの、その方向で落ち着いた。練習も終わり、住職から与えられた課題をみんなの前で開陳。僕の歌詞をまとめが興味深そうに読み上げた。
「えーと、なになに? 夕暮れの河川敷、橋の下で君は座っていた。声をかけようと思ったけど君の顔を見ると怖くてできなかった。あははー。これ、結構いいかも」
「もう、いいだろ。こんなところで読まなくても。これから西園さんに曲に当て嵌まるよう手直ししてもらうんだから」
「でも、なかなかいいわよ。これなら手直しの必要はほとんどなさそうね」
一人で書いたときはなんとも思わなかったのに、みんなの目に触れると途端に恥ずかしくなってしまった。続いて、ない知恵を絞って考えたユニット名の選考となった。まとめが読み上げ、僕がそれぞれの決めポーズを披露する。
「どれどれ。『神様ウエディングエンジェルズ』長っ。『冥土の土産』時代劇か。『ザ・カマキリズ』昭和のGS? 『エスカルゴ夫人』X指定じゃん。『女神過ぎる』これユニット名? 『ポーチンの罠』ロシアに謝れ。『遅春期』なんかもう、ロクなのないね」
読み上げるごとに決めポーズを取ってた僕を徒労感が襲う。みんなの反応も概ね同じだ。と、まとめがもう一枚の紙に気付いて目をとおす。
「ねえ。ここに書いてるティラミスとか、ミックスフルーツパフェってのは?」
「ああ、それは第二候補。なんかありきたりで面白味がないからボツったんだ」
「ふうん。こっちのほうがいいじゃん。食べ物の名前ばっかりなのが気になるけど。あれ? ひとつだけ違うのもあるね。レクイエム……」
「ああ、それの決めポーズはこう。レクイー……」
僕は両手を伸ばして一回転。
「エム!」
同時に両手を頭に乗せ下半身はガニ股。みんなの冷たい視線に晒される。
「ま、まあ、決めポーズはともかくとして、名前的にはこれが一番まともじゃない?」
まとめがあこや君に耳打ち。
「そうですね。お葬式のアイドルなんて、終わった企画にはピッタリかと」
「まあ、あの猿みたいな決めポーズさえなければ、私も異存はない」
水魚サンも了承。
「じゃあ、決まりね。ユニット名はレクイエム。決めポーズはおいおい考えましょう」




