十四話
季節は夏の到来となった。お盆が近付くと葬儀屋は目の回る忙しさとなる。というのもお盆に焼く灯篭の製作作業が入るからだ。最近は組み立てキットのようなものもあり、随分楽にはなったが期日が決まっているのでノルマはこなさなければならない。加えてお盆の法要の手配もあるし、これに飛び込みで葬儀が入ったりすると途端にスケジュールが厳しくなる。そして思いがけず、もうひとつの期限を決められることになった。
「おう、きたな、咲元君。まあ座りたまえよ」
そう言って遅れてきた僕を隣の席に勧めてくれたのは商工会の若手会長、近藤さんだ。御歳三十五。独身だが人望あり、器が大きく地域の若手のリーダー的存在だ。
町内にある花吹雪商店街はご多分に漏れずシャッター街と化し、若い跡継ぎ達はなんとかしようと躍起になっているようだがジリ貧状態なのが実情だ。我が咲元葬儀社は商店街には所属しないが商売柄、懇意にさせてもらっている。若手会の頼母子に参加するのは義理のようなものだ。案の定、会の幹部クラスがあまり好きではないビールを勧めてくる。仕方なく応じていると近藤さんが助け舟を出してくれた。
「井上さん、永倉君、そう無理強いしないでやってくれ。咲元君が困ってるじゃないか」
近藤さんの野太い声に助けられる。呑みの場でゲストを酔い潰そうとするのは慣習のようなものだが、正直ありがたい。人払いが済み、近藤さんが膝を寄せてきた。
「ところでな、ウチの山崎が言ってたんだが、咲元君が我が町内のマドンナ、油谷さんや蛤ちゃんを口説いてアイドルユニットを作ったそうじゃないか。君もやるなあ」
相変わらず耳が早い。こういう話はどこからか漏れ伝わるものなのだろう。まあ、出所はタカシか夜見子君だな。
「そこでひとつ相談なんだが、毎年河川敷で行われている秋祭りの出し物、ウチとしても色々考えているんだが、資金の問題もあって今年はそう大きな催しもできない。ついては咲元君の、そのアイドルユニットのライブをお願いできないだろうか」
降って湧いたような話に当惑したが、周囲からの突き上げもあり、押し切られる形で了承してしまった。僕は早速音曲寺でのミーティングを余儀なくされた。
「なんでそんな無謀な見切り発車するの? 今の状態でライブなんかできると思って?」
住職に呆れられ、自らの軽率を悔いる。
「うん。でも近藤さんや土方さんには日頃からお世話になってるし、商店街にも協力してあげたいし、それに秋祭りのイベントで葬式ライブの告知ができればデビューのステージにはもってこいでしょ。それに商工会からギャラも出るし、いい話だと思ったんだよ」
「あ、秋祭りで歌って踊るのか? 私は嫌だぞ。そんな話は聞いてない」
「そうですね。私と油谷さんでステージに上がっても寒いだけでしょう」
水魚サンもあこや君も後ろ向きなこと言ってる。住職が聞いた。
「で? そのステージって、持ち時間はどのくらい?」
「三十分」
「やっぱり無謀ね。二分の曲が十曲以上歌える計算だわ。今から断れないの?」
僕が話を受けたときのみんなの喜ぶ顔が浮かび、力なく頷いた。寝そべっていたタカシが口を開く。
「そんなん楽勝や。僕とヤスシ君で前説やったら会場はドッカンドッカンやで」
「冗談はよせ。暴動が起きるのは必至だ」
「そうね。繋ぎのトークが半分以上も占めてたらなんのライブか分かりゃしない」
辺りが沈黙に包まれる。僕が後ろめたさと申し訳ない気持ちでいるとまとめが口を開いた。
「あの、私、やります」
「あら、せめて三、四人のメンバーが揃わなきゃやらないんじゃなくて?」
「こうなったらそんな悠長なこと言ってらんないでしょ。今までの練習で油谷さんも蛤さんもすごくアイドルっぽくなってきてるし、やすピンだって良かれと思って引き受けたんだし、商工会のみんなも楽しみにしてくれたんだよね? じゃあなんとかなるでしょ。それに、こんなチャンス逃がすのもったいないよ」
「まあ、小豆沢さんが加わってくれれば、少しは見られるのではないでしょうか」
あこや君が追従すると水魚サンも渋々、
「小豆沢が前に出てくれるなら、私も、やってやらんでも、ない」
「じゃあ、決まりね。秋祭りは十一月十一日。それまで四ヶ月弱。かなり厳しいけど、ひとつずつクリアしていくしかないわね。蛤さん、衣装のほうは大丈夫?」
「頑張ればなんとかなるかと」
「なら、細かいところは後で詰めるとして、とりあえず三人で一曲通してやってみましょ」
住職の鶴の一声で図らずも三人のステージが見られることになった。みんなすでにいくつかの練習曲をこなしている。まとめを中心に三人が並び、ラジカセから前奏が流れる。
初めて見るメンバーの雄姿に僕はしばし見とれた。が、曲が始まると嘆息に変わる。
水魚サンは二人のダンスをカンニングしつつ踊り、やがて盆踊りのようになり、あこや君はガス欠を起こしてその場にへたり込む。まとめは最後まで踊りきったが、それが逆に痛々しい。住職もお手上げだった。
「蛤さんが衣装にかかってたらこれ以上の無理もきかなくなるし、油谷さんにもこれ以上を求めるのは酷ね。やっぱりこれは無理よ」
するとタカシが小指で鼻腔をまさぐりながら言った。
「なあ、さっきから思てんねやけど、わざわざ三人で踊る必要あるのん? 一番まともな小豆沢をセンターに決めて、姐さんとターミネーターをサブに回せば済むんちゃうん」
「なるほど。アンタ、一万回に一回はいいこと言うじゃない。どうして気付かなかったのかしら」
「ワイはリズム漫才師やからの。アンタらみたいなトーシロとは年季が違うんじゃい」
「どうでもいいですけど、ターミネーターとは私の……ゼエゼエ」
「でもその場合、センターに小豆沢さん一人はいかにも絵的に辛いわね。平坂さんの目処はまだ立たないの? 時間はあまりないのよ」
「うん、今まで何度か誘ったんだけど、その度にラーメン屋ができたとかUFO番組があるとか言ってけんもほろろだったんだよ。でも、これからは真面目に誘うよ」
「汚い手は使うなよ」
水魚サンに釘を刺され改めて罪悪感。住職が新たな問題に気付く。
「それは任せるとして、ダンスの構成を一から見直す必要があるわね。センターとバック。これは結構時間がかかるわよ」
「ワイがやったるでえ」
「ありがたい話だけど、一体なにを企んでるの? 咲君にどんな条件突きつける気?」
「みくびんなや。ワイはヤスシ君のダチやで。見返り求めたらダチ失格じゃい」
などと言っているが、いい奴を演じて僕のハートを鷲掴みにしようという魂胆はミエミエである。鷲掴みにさえされなければ済む話なのでありがたく受けた。ユニットの方向性もおぼろげながら見えてきた。期限は厳しいがまとめが加わり、なんとなく一体感が出てきたような気がした。




