預言者と救世主
初投稿ですのでおかしなところが無いか非常に不安です。
私の29年の人生は生きて、恋して、失った。要約するとこの三つの言葉にあてはめることができる。
すべてを失った私は東京を去り故郷へ帰路に就くことにした。商店街を歩いてると路地のほうから声がかる
「そこのお兄さん寄っていきませんか?」
見ると占い師の女性が手招きしている、周りを見渡すが他に客はいない、どうやら私のようだ。会社の行き帰りに彼女が占いをしている場面をよく見かけた。彼女の前を通り過ぎるたびに、なぜか見られているような気がしていたのを思い出した。
占い師の女性は、ただならぬスピリチュアル的波動を放っていた。
行列ができるほど繁盛していたはずだが、今日に限って閑散としていることに疑問を抱いた。だが最後の東京生活の記念としても悪くないし、今後の人生に一抹の不安を覚えた私は、占ってもらうことにした。
「じゃあ見てもらっていいですか?」
私はそういいながら席に着き手の表を差し出した。
占い師の女性はローブを被っていて目元は見えないが、口元が笑っているのが見えた。
彼女は有名な占い師で手相を見るだけで、過去視、未来視が出来る美人占い師とテレビの特集で見たことがあった。彼女が私の手を両手で掴むとすぐにポタポタと私の手のひらに涙が落ちてきた。
「・・・あなた・・・やっぱり・・・」
消え入りそうな声で呟く彼女に驚いて私はひどく狼狽した。
「え!?あの・・・?もしかしてもう結果出ました!?」
有名占い師が泣くほどだ、どうやら私は死ぬらしい、私の余命はいくつだろうか?願わくば魔法使いになる前に死にたい!
「あらあら、ごめんなさい、まだ占ってませんよ、これからこれから」涙を拭きながら笑う占い師
緊張の糸が切れ体から力が抜けた後、すぐにフツフツと怒りが沸いてきた。有名占い師からヘンテコ占い師ヘ降格である。
占ってもいないのに泣くんじゃないよ、むちゃくちゃ心的ストレスをおっただろうが、この占いの姉ちゃん大丈夫なんだろうか?
そんなことを思っているとまたポタポタと私の手のひらに涙が落ちてきた。私はまたか!と思ったが、彼女は真剣に私の生命線や運命線をなぞりながら涙を流していた。私の心は無心になり彼女の次の言葉を待つことにした。
「・・・あなたは恋人と大変辛い別れをしましたね」
その言葉に私の心臓は大きく跳ね上がった。
「同じ会社の忘年会で知り合い、その後仲を深めていったようですね、あなたは彼女の木や花や生き物などを愛でる姿に惹かれ、彼女はあなたの理屈っぽいところや乾いた性格、そしてたまに見え隠れする優しい心に惹かれていたようですね・・・」
身に覚えありすぎて私の目は泳いでいた。
「ですがあなたの恋人は、地元に戻ったあの日を境に命を落と」
「やめろ!!!」
私は思わず右腕を机に叩きつけ彼女の言葉を遮った。私は我に返り自己嫌悪し、うろたえながら右腕を引っ込めた。
「か、彼女は恋人ではないですよ、俺が一方的に好きだっただけで・・・まだ告白もしていませんでした・・・。そ、それに彼女はまだ死んだと決まったわけじゃ・・・遺体も見つかったわけじゃないし、行方不明扱いだから・・・まだどこかで生きてるかもしれないじゃないですか・・・」
彼女は私の話を聞き終えると両手で私の手をギュっと握って私に顔を近づけた。
「過去をのさばらせてはいけません!過去を見つめず心を閉ざしてしまったら、やがて体調を崩し、心が病んでいきます!このままではあなたの未来に光が射すことはありません!」
彼女の助言は正論かつ具体的すぎた。耳が痛い限りである。私は返す言葉もなく肩を落とした。
――――「ごめんなさい急に声を荒げてしまって・・・でも過去は重要なことなのです。あなたが過去を見つめ直すことで、さらに昔・・・そう、あなたの前世の記憶さえ甦らせることができるのです・・・辛い過去でしょうが、それだけはご理解ください、イザ・・・いえイサザ様」
確かに私は過去を忘却し、できるだけ思い出さないようにしてきた。だが前世の記憶とは?行き過ぎではないだろうか?それは置いておいて彼女の最後の言葉が気になった。
「あの?俺、名前言いましたっけ?」
彼女はクスクスと妖艶に笑った「私があなたの名前を言い当てることが不思議ですか?凪原伊佐々さん。」
不思議ではない、彼女は本物だった!
彼女が本物であると分かった今、私は一方的な信頼を彼女に寄せ、まじまじと見つめていた。
こうして引いて見るとグラマラスな非常に性的な体つきをしている、特に彼女のローブから見える胸元には釘付けである、そのローブを引っぺがしてこの身を委ねてみたい衝動にかられている私は、まさに変態以外の何者でもないだろう。
「あ、あの・・・イサザ様・・・そんなに見つめられては困ります・・・」
煩悩退散!煩悩退散!10回くらいは唱えたであろうか?
「あ、いや・・・あの・・・占い師さん・・・いえ!先生!過去視はもういいので未来視をお願いします」
ヘンテコ占い師とか思ってた自分を過去に戻ってぶん殴ってやりたい。
彼女は「はいよろこんで!」と言いゴソゴソと机の下から大きな水晶玉を取り出した。どうやら未来視は水晶で行うらしい、彼女が水晶の上に両手をかざし左右に動かす。
この占い師は私の過去を見事に言い当てた。さらに私の過去を知った上であまり同情的でないのも好感がもてた。私の中の彼女の株はすでにストップ高であり、どのような未来が語られても粛々と受け入れる覚悟ができていた。
しかし、この後彼女の語られる未来は私の想像をはるかに超えるものであり、私の覚悟というシールドを木端微塵に粉砕するほどのものであった。
「見えました・・・あなたはこの世界を救う救世主になります!」
「なん・・・だと・・・?」
私の頭の中はクエスチョンマークで一杯である
「この世界に大いなる災いが降りかかろうとしています。あなたは知恵と勇気で、その災いに立ち向かい人類を、いえ!この世界のすべてを導く者になります!」
彼女の言うことがあまりにも稚拙すぎるので、私の頭は氷点下に下がるほど冷静になった。
「あの~・・・先生?それはつまり、俺がこの国を支える役職に就くって事ですかね?自衛隊になって国を守るとか、政治家になって敵国からの脅威を防ぐとか?」
私は具体的な未来図を彼女に要求した。
彼女は「いいえ!国ではありません世界です!規模が違います!あなた様は世界を救うのです!」と畳み掛けるように言い放った。
実に解釈に困る返答だ、私が一方的に抱いた信頼も疑念に変わり、彼女の株も暴落し始めた。
「いやいや、世界とか言われましてもね?ロールプレイングゲームの主人公じゃあるまいし、そんなのできるわけないでしょう!」
すると彼女は私のエコバックを指刺し不敵に笑った。
「そのバックの中に入ってるのはあなたの恋人の形見ですね」
確かにそのエコバックの中に梱包されているものは彼女の形見と言えなくもない。
「まぁそうですけど・・・それが世界を救うことと関係があるんですか?」
「あります、それは鍵です。あなたはその鍵に導かれ、ここから別の世界へ旅立つことになります」
別の世界?これが先ほどまで私の過去を言い当てた占い師の言葉だろうか?あまりに支離滅裂である。
「ちょ、あんたいったいどうしちゃったんだよ?未来視あんまり得意じゃないのか?もうちょっと建設的な事いってくれないと納得できないよ!」
私は思わず声を荒げた、さっきまで期待に胸を膨らませていたのに、これでは馬鹿みたいではないか。
「イサザ様が納得していただけないのもわかります。しかしこれが真理なのです、過去視はイサザ様が体験したことですので、私とあなたで意思の疎通ができますが、未来視はイサザ様がこれから体験することですので、あなたと私で共有ができません。納得していただけないのも無理もないのです。」
「なるほど、わからん!」
このままでは水掛け論になってしまいそうだし、正直ばかばかしくなってきたので私は話を切り上げることにした。
私は席を立ちふてくされながら「いくらですか?」と言い放った。
「お代はいりません」
不快を感じるほど奇天烈な未来を語られたが、キャバクラのお姉ちゃんと東京最後の思い出を作った。と思ったら悪くない気がしてきたので、私は財布から一万円を取り出して彼女の前に差し出した。
しかし彼女は私の腕を自らの胸に抱き寄せ「この世界を救う救世主様からお金をいただくことはできません」と私の耳元で呟いた。
彼女の胸が私の腕に食い込み、あまりにもムラムラしてしまったので、一万円を彼女の胸の谷間に差し込み、彼女が怯んだすきにエコバックを掴みその場を後にしようと後ろを向いた。
「あぁ・・・イサザ様・・・」
「あんたの話なかなか面白かったし、真剣味もあった。お金いらないならコンビニの募金箱にでも突っ込んでくれや」
しばらく沈黙が続き二人の間に木枯らしが吹き込む、男は背中で語るものである。
「わかりました・・・一つ忠告を、あなたのバックに入ってる生き物が新たなる世界への鍵です、決して無くさぬようお気をつけください」
この中に入ってるものが生き物だと分かるのか?やはりただ者ではない、しかしこれが別世界に繋がる鍵になる要素は皆無である。
やれやれといった感じで右腕を持ち上げて親指を立てグットラックのポーズをして見せた。後ろからクスクスと笑い声が聞こえてくる。
「それにしても綺麗ですね、メダカでしょうか?」
驚いて「いやグッピーだよ」と私は振り向きざまに言ったが、すでに彼女の姿はどこにもなかった。
「ええぇ~・・・」
私はしばらく立ちつくし、グッピーの入ったエコバックを目線の高さまで持ち上げた。完璧に梱包してあるので透けて見えるということはない、あの占い師、透視能力も持っていたのか。
「すぐに帰って水槽に入れてやらないとな・・・メグミ・・・」
そう呟いて商店街を歩きだすといつもの活気が戻っていた。現実世界への開放である。
私自身アクアリウムをやっているのですが、いかせん素人なもので数多くの失敗を重ね、そこで学んだことを小説にしてみれば面白いんじゃないだろうかと思い執筆しました。アクアリウムはお魚たちの世界を作ることです!皆さんもぜひやってみましょう!