仕事の受け方、そして宿
大変遅くなりました、続きになります。
活動報告にも書きましたが改めて、本年度もまたよろしくお願いいたします。
「ともかく、登録は完了です、冒険者ギルドに登録した者の証明として、これを」
そう言ってミーシャは魔法盤に付いていた、青に変色した謎の金属棒を外しセラに手渡す。
手に持つと、違和感を感じる。
「やわら、かい?」
いや、実際には爪を押し当てると金属の硬さがある、しかし手の中でその棒はグニャグニャと曲がり、あまつさえ引っ張れば伸びた。
「特殊な金属で出来ていて、曲げる事も伸ばすことも、ある程度自在なんですよ」
そのセラの様子に、笑顔を取り戻したミーシャが説明する。
「端と端を合わせるとくっ付くので、腕に巻いたり首に巻いたりできます。どこに付けるかは自由なのですが、冒険者の証なので一応目に付きやすい所に付けておくことをお勧めしますよ」
言われたとおり、試しに左手首に巻いて端同士を合わせてみると、ぴったりとくっ付く。
巻いた場所に合わせてサイズも自動で調整されるのか、手首にぴったりとフィットする大きさに変化する。
本当に不思議な金属だ。
「その色ですが、簡単なランクを現す色になっています」
先ほど、十段階評価と言っていたランクのことか、と頷く。
「一から二を緑、三から五を青、六と七を赤、八と九を紫、そして十が金と銀のまだら斑色になります」
「冒険者とあったら、これでその人の大体のランクが分かるって事ですね」
「そうですね」
自分の手元を見る。
青色、しかも先ほどの情報からすればランクは五、青の最上位と言うことだ。
「……やっぱり何かのミスですよねぇ」
とりあえずそう言って苦笑しておくと、ミーシャも合わせて苦笑してくる。
「どうしたんですかイクスさん、さっきから無言ですけれど?」
ミーシャの言葉に合わせてセラもイクスを見る。
確かに先ほどから彼は一言も言葉を発していない、ただ腕を組んだ状態でこちらを見ているだけだ。
……これは、誤魔化せてないかなぁ。
嘘をつく、と言うのは大切にしてくれた両親の教えにも反するし、セラ自身としてもあまりやりたくない事だ。
だが現状としては、どうにかして自分のいる場所を作らなければならない、その為には嘘をつく事もまた必要な事だ。
どうしても、誤魔化し様が無いほどに問いただされたら、できるだけ穏便に済ませてもらえるように頼むしかない。
だからセラも、今は何も知らないフリをするしかない。
「イクスさん?」
覗き込んだその顔が、一瞬だけ眉をしかめたように見えた。
「気にするな、なんでもない」
そう言ったイクスの表情からは、何も読み取る事は出来なかった。
●
「仕事に関しては、あちらの大きな掲示板にいくつか貼られていますので、ご自身のランクにあったものを剥がして、こちらのカウンターに持ってきて頂ければ受理の処理をさせて頂きます。また、掲示板に出ていないもの等もありますので、こちらのカウンターに直接来ていただいても大丈夫です、その場合はこちらからランクにあった仕事を幾つかご紹介させて頂く等いたしますので」
なる程、とセラは頷く。
「まぁまず最初は常駐で置かれている依頼の、簡単なモノ等でご自身がどの程度なのかというのを確認されてみるのも良いかと思います。勿論受けれるランクの依頼であればどれを受けるかは自由ですので、いきなり高難易度のモノに挑戦する事も可能ですが……」
「失敗すると何かペナルティとかってあるんですか?」
ミーシャは頷く。
「依頼にもよりますが、特に討伐任務や護衛任務にはペナルティとして失敗すると罰金やランクの見直し等が起こる事がありますので、きちんとご自身の実力にあったものを選ばれた方がよいと思います」
……罰金!
ランクの見直しとやらは正直どうでもいい気がするが、罰金と非常に怖い、出来る限りそんな事態にならないようにしなければ、とセラは心に誓う。
「依頼の受け方としては簡単にこんなところでしょうか。後は不明な点があればその都度こちらで聞いて頂ければお答えしますので」
「わかりました」
とりあえず仕事を探す時はここに来なければならないのだから、後はわからなくなった時に聞けばいいか。
幸か不幸か、恐らく先程の出来事で顔は覚えてもらえただろう。
そこで、セラはもう一つ、絶対に聞いておかねばならない事を聞くことにする。
「あの、ここで聞くことじゃないかもしれないんですけど、いいでしょうか……?」
「なんでしょう?」
「宿を探してるんです、出来る限り安い宿を……」
セラの言葉に一拍の後ポンと手を叩き、ミーシャは笑顔で頷く。
「そういう事でしたらこちらで聞いて頂いて正解ですよ、冒険者は外からの方も多いですから、そういった方に宿を紹介するのも一つの仕事ですので」
その期待以上の返答に、セラは顔を輝かせる。
「地図はお持ちですか?」
「はい、はいはいここに!」
何かあった時すぐ見れるように、取り出し易く、かつ落としにくい荷物の外側のポケットに入れた地図を手早く取り出すと、カウンターに置く。
「ありがとうございます」
地図を広げながらミーシャは赤いマーカーをポケットから取り出す。
「そうですねぇ……安い宿といいますとピンからキリまでありますが……出来るだけお安い方が?」
「えっと、はい……お恥ずかしながら手持ちに余裕が無いので、出来るだけ節約したいんです」
「なる程ですね……しかし――」
顎にマーカーを当て、こちらをジッと見てくるミーシャ。
「……えっと、あの?」
「あまりにも安い宿ですと、やはり防犯やそういう面で多少不安が出ますので……セラさんの様な方がそういう場所に一人で宿泊されるのは、正直あまりおススメ出来ないのですよね」
確かに女の一人身など、たちの悪い連中からすれば格好の獲物だろう。しかもセラは素人の田舎娘だ、カモ以外の何ものでもない様にしか見えないだろう。
「そうですね、安さで言えばココ『トバの葉亭』や『ミツバの宿』等もいいですが……」
そう言いながら地図にマークをするミーシャの目が、一瞬隣に立つイクスを見たような気がした。
「今なんかでしたらこの『宵闇亭』も防犯レベルが上がっているので良いのでは。というよりも同じ値段でしたら一番良いと思いますよ」
「おいちょっと待てお前」
今まで黙っていたイクスが急に声を発する。
「なんで”今なら”なんですか?」
イクスの反応で、何となく、何となくだが察しはついているが、一応確認しておく。
そしてその答えをミーシャは笑顔で言う。
「今丁度、そちらにイクスさんも宿泊していますので。『炎剣』のイクスなる方が宿泊してる施設ともなりますと、そこらのゴロツキは下手に手を出そう等とは思わないでしょうから」
「はぁ、なる程」
隣を見ると、憮然とした、でいいのだろうか、何とも言えない表情でイクスがこちらを見ている。
……そんな気はしていたけれども。
「そんなに凄い冒険者さんだったんですね、イクスさん」
「どちらかと言えば、賞金稼ぎとして知れ渡っていると言った方が正しいかもしれませんが」
ミーシャが笑顔で補足するように言う。
●
「それで、宵闇亭でしたっけ、そこってどれくらいのお値段なんですか?」
「そうですね、確か一泊二食付きで大銅貨二枚だったかと。そうですよね?」
ミーシャの問いかけにイクスは黙って頷く。
……大銅貨二枚……。
流石に宿泊施設ともなればそれなりの値段とも言える。
しかしミーシャの話から考えるにそれなりに安い値段の場所のはずだ、そして、その中でもイクスのお陰で安全が保たれやすい場所だと。
町の外で襲われたこと、そしてここに来るまでの視線の数々や雰囲気を思い出す。
「じゃあ、私そこにします」
「!」
「それが良いと思いますよ」
渋い顔をするイクスと対称的に、微笑むミーシャ。
「イクスさんも、折角こんな美人な後輩さんができたんですから、しっかり面倒見てあげたらいいじゃないですか」
「…………」
無言。
「セラさんも、色々教えてもらうといいですよ」
「えっと……はい、よろしくお願いします先輩」
とりあえず雰囲気に流されて頭を下げてみる。
「やめろ。その呼び方は絶対にやめろ」
片手で額を抑えながらヨロメく様な素振りでイクスが手を振る。
「恥ずかしがってますけど喜んでますよ、よかったですねセラさん」
「ふざけんな、恥ずかしがってもいねぇし喜んでもいねぇ」
今にも噛み付きそうな表情でミーシャを睨むイクスに、
……仲いいなぁ。
などとズレた感想を抱きながらセラは笑っていた。
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