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市場調査と、それから

町中編とでも言うべきでしょうか、スタートです。

「んっ……まぶ、しい……」

 格子窓から差込む光を顔に受け、セラは深い眠りから目を覚ます。

「んん――っはぁ……」

 上半身を起こし、思い切り背伸びをした後、余韻に浸りながら数秒、ボーッとする。

 そこに、扉がノックされる音が響く。

「あ、はい」

 セラの返事と共に扉が開くと、顔を表したのは昨夜の衛兵――セラの容姿に過剰反応していなかった方――だった。

「ゆっくり眠れ――たようですね、安心しました」

 衛兵は苦笑しながらジェスチャーでセラの髪を差し示す。

「……?」

 頭の天辺を触り、そのまま両サイドへ下ろし、後ろに流れた髪に手が触れたとき、それがゴワゴワに膨らんでいる事に気付く。

「うわっ、ええ!」

 顔を紅潮させながらセラは後ろ髪を鷲掴みすると、荷物の中から手鏡を取り出し確認する。

 見事に、毛玉が出来るかの如く、寝癖が付いていた。

「あ、あの、井戸か水場ってありますか……?」

「あぁ、裏に水道が引かれてるからソコを使うといい」

 頭を下げながら、荷物を抱えて衛兵の脇を通り早足に扉を抜ける。

「あぁ、ちょっと」

 背後から、声をかけられ、足を止める。

「町に出る時は、一度声をかけてくださいね」

「はい!」



 その後、水では中々治らない強情な寝癖を、隠れて沸かしたお湯で治した後、セラは町に出る事を衛兵に告げた。

 快く送り出してくれた彼らに何度も頭を下げていると、最後には苦笑されていた。

 なんでも、強盗等に襲われて、偶然助けられたりした人でも、後々までそのショックを引き摺る人が多いらしい。

 その事を心配していたらしいが、セラ本人は対して気にしていなかったし、周りから見てもどこ吹く風の様子で、安心されていたらしい。

 ……いい人達だった。

 そんな事を思いながら石畳で舗装された町を歩いていく。

 日はまだ登りきっておらず、正午までにはまだまだ時間がある。

 やる事は山積みだ。



 この大陸は共通の通貨で経済を統一化されている。

 かつては色々な通貨が存在したらしいが、随分昔に統一国家として一つの国となり、中央統治性になってからそうなったらしい。

 らしいというのは、セラ自身その事は話でしか知らないし、本当に昔の事らしいからだ。

 今はギザルという硬貨で統一されている、最も、それも銅貨、銀貨、金貨の三種類、更にその銅貨と銀貨にも中銅貨と大銅貨、中銀貨、大銀貨というものが有り……と中々にややこしい。

 金貨に関してのみは例外らしく、一つの種類しか製造されていない。

 そもそも金貨などは、市井の民にはほとんど縁が無いと言っていいほどに高額な金額らしい。

 さておき、今セラは市場と思しき場所に来ていた。

 まだ一部の店は開いていないが、それでも村の世界しか無かったセラにとっては大きな市場であった。

 ……こういうの、おのぼりさんって言うんだろうなぁ。

 自嘲と言うか、苦笑しながらもとりあえず店々を見て回る、勿論買う気は無いので冷やかしだが。

 今開いている店の大半が食料品を扱う店だった。





「ふぅ……」

 市場から少し離れた、広場のようなところで、そこにあるベンチに腰掛けながら水筒の水を飲みながら、一息つく。

 そして広場の中央、噴水から少し離れた場所に立つ質素な時計台を見る。

 驚いたことだが、この町には時計台と噴水が――つまり井戸ではなく共同水道――が三箇所ずつあるらしい。

 それとは別に元々町になる前にあった井戸も数箇所あるという。

 門の衛兵に聞いていたのと、もらった町の地図で確認はしていたが、実際に見ると何とも。

 ……町って凄いなぁ。

 という単純な感想しか出てこない。

 何しろセラがいた村には中央の広場に一本の時計台――柱に時計を付けただけのようなモノ――と、井戸が二箇所しか無かったのだから比べるまでもない。

 改めて時計台を見る。

 衛兵達の所を出た時間はわからないが、日はそんなに登っていなかった。

 時計は後三十分もすれば正午を指そうかという時間を示している。

 ……結構な時間見てまわってたのかな。

 実際かなり色々な物を見て回ったとは思っている。

 しかしそれはあくまで市場に出ているものだ、屋内でやっているような商店の物になるとまた価格は変わってくるはずだ。

 ……それにしても。

 広場の端、屋台から流れてくる香ばしくほのかに甘い香りに鼻くすぐられる。

 昼が近いからだろうか、急に食べ物を売る店が活気を持ち始めた。

 よくよく考えるとセラもここ二日、食べたのは乾物系と果物だけだ。

 そこに漂ってくる強烈な肉の香り。

 考えるほどに香りは意識を支配していく、最早殺人的と言えるような誘惑だ。

「う、ぐぐ……」

 ……節制しないと、いけないのだけど。

 唸り声と同時に、腹が鳴る。

 周囲を見るが、幸いにも近くに人はいなかったようで、聞かれてはいなかった。

「ハァ……」

 ……ここまで頑張ったご褒美って事でいいよね。

 立ち上がると、屋台に近づく。

「いらっしゃい!」

 威勢のいいおじさんの声も耳に入らず、セラは網の上で香ばしい音を上げる串焼き肉を凝視する。

 テラテラとした光沢と、独特な甘い香りを放つソレはタレのせいだろうか。

 肉と肉の合間にある野菜もこんがりと焼けて実に美味しそうだ。

「お嬢ちゃん?」

「――ハッ!? あ、えぇっと、ごめんなさい」

 おじさんの声にハッと我に返り謝る。

「おじさん、これは幾ら?」

「そこに書いてあるが……まぁいい、左のキュエイ()肉を使った方は十五銅貨、反対のオグピグ()肉を使った方が中銅貨二枚だ」

「オグピグ?」

 キュエイは村でも食べた事がある、四十センチくらいまで成長する鳥だ。村で飼育されているくらいだからかなり一般的な家畜なのではないだろうか。

 味は部位にもよるが、淡白な部分が多い。

「オグピグ知らんか? どっかから出てきたお上りさんか」

「あ、はい……」

「なぁに気にするな、オグピグはブタっつー家畜で割と手間がかからん種の事だな、鳥なんかかより脂がのって柔らかい肉だから人気はあるぞ、ちょっと高くなるがな」

 お上りと言われて少し凹んだセラにおじさんは笑いながら説明する。

「知らねぇーっつ事は食ったことも無いんだろう?」

「はい、キュエイの肉は食べたことありますけど、こう言う調理では食べた事無いです」

「んじゃあせっかくこの町に来たんだし、嬢ちゃん美人だから記念にサービスしてやろう、二本で二十五銅貨。中銅貨二枚と銅貨五枚だ」

 そう言っておやじは串を二本、セラに渡してくる。

「え、あ、いいんですか?」

 鳥串一本分ほぼタダにされた値段だ。

「気にすんな、記念だ。それに――」

 おやじは新しい串を両手で焼きながら、顎でセラの後ろを指す。

「嬢ちゃんが早く買ってくれねぇと、次の客が買えねぇ」

 いつの間にかセラの後ろに数人の行列が出来ていた。

「ぅわっ、すみません!」

「何、嬢ちゃん綺麗だからな、客寄せ効果もあっただろうから気にすんな」

 慌てて空いてる左手で硬貨袋を漁り、料金をおじさんに支払うと、「毎度有り、また来いよ」という笑顔が返ってきた。

 小走りに屋台をあとにすると、先程まで座っていた場所に戻る。

 スカートがシワにならないように腰掛けながら、荷物を脇に置く。

 さてとと間を置くのも惜しみ、手に持つ熱冷めやらぬ串を見る。

 まずは鳥串の方からいこう。

 先端に刺さったひと切れを思い切って一口する。

「あっふ!」

 熱さに声を上げ口からこぼしそうになるがなんとか耐える。

 同時に舌の上に広がる、表面に塗られたタレの独特な甘辛さ。

 肉自体は村で食べたモノと同じように淡白なのだが、こちらの方が少し柔らかい気もする。

 何よりこの塗られたタレのおかげで淡白さが解消され実に美味しい。

 ……今度見かけたら、タイミング見て教えてもらえないか頼んでみよう。

 そう思いながら肉を飲み下すと、今度は豚串の方を見る。

 片方を残したまま、もう片方に口を付けるというのは、少々行儀が悪い気がするが、どうしても好奇心に勝てない。

 今度は熱さに気をつけながらゆっくりと肉を口に運ぶ。

「!」

 肉の柔らかさがまるで違う。そして一噛みする事に肉から肉の旨みと脂が流れ出してくる。

 その甘い脂が、タレと絡み合い、また一層美味い。

 歯ごたえで言えばキュエイ()の方があるが、味の濃厚さで言えばオグピグ()が圧倒している。

 どちらも一長一短、でもどちらも美味い。

 そしてどちらもちょっと濃い目の味付けなのだが、間々に挟まれた野菜が良い感じに舌をさっぱりさせてくれる。

 ……町って怖い。

 こんなに美味しいものが他にもゴロゴロしているのだろうか? 村で質素な食事を主としていたセラとしては、己を律せるかどうかと情けない不安を感じる。

 数分、二本の串に刺された食材は全てセラの胃袋へと収められた。

「はぁ……美味しかった」

 指に付いたタレをこっそりと舐めながら、満足げに空を見上げる。

 晴天、日は登りきった頃だろうか。

 時計台を見れば正午を指している。

「よし」

 空腹も、満腹とは言えないが美味しい物を食べれて満足した、後は仕事探しと、宿だ。

 気合を入れなおすと、ポケットから衛兵にもらった地図を取り出し、マークの場所、仕事斡旋所を目指して歩き出した。




誤字脱字等ありましたらご指摘下さい。

感想ご批判等も気軽にいただけると、今後の励みになります。


Nightcoreのメドレーなんかを聞きながら書いていました。

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