星の夜を駆ける
かなり短いですが今週最後の更新です。
次回更新は来週火曜以降予定です。
「馬二頭はやるが、輸送料はきちんともらうからな」
「……はい、すみません……」
疾走する馬の上、青年の腰にしっかりと掴まりながら申し訳なさそうに言う。
結局あの後セラは馬に乗れなかった。
二頭の馬に近づいてみれば、なぜかわからないが妙に懐かれ、背中に乗るところまでは順調だった。しかし結局バランスの取り方や操馬の仕方がわからない、根本的に馬に乗る技術が足りていないのでどうしようもなかった。
それではと思い青年の方に振ってみれば、顔を背けるばかりで馬はウンともスンとも言わない。
結局一頭にゲルウィンを載せ、もう一頭に荷物を載せて牽引するという方法になった。
最早完全に馬の気分の問題なのだろう、青年後ろにセラが乗馬した状態であれば、馬達も青年の指示に大人しく従うようだった。
そうして今は二頭の馬を後ろに牽引しながら、青年の元々の馬に乗って道を進んでいるところだった。
「そういえば、あの――」
「なんだ、あまり喋ると舌噛むぞ」
確かに、初めて乗る馬上と言うのは結構な振動がくる。長時間乗っていればお尻が痛くなりそうだ。
……そうではなくて。
「あの、お名前伺ってもいいですか?」
「なぜ?」
青年は当然かの様に即答でそう返してくる。
まさかの疑問形返し。予想していなかった形にセラは一瞬唸る。
「え、えっと、ほら、もしもの時とかに咄嗟に呼んだりする事が出来ないかな、と」
「そんな事あるのか?」
……と聞かれましても。
馬上で襲われることだってあるはず。
うん、無いなんてことはありえない、だから自分が言っている事は別におかしくないぞ、そう思考していると。
「……イクスだ」
セラが思考のため黙りこんだ後、数秒かの間を置いて、青年が答える。
「え?」
予想外の唐突な名乗りに反応が遅れる。
「呼び名、イクスだ。アンタは?」
「あ、あ、はい、私は、セラっていいます」
名乗ってもらえたことに多少の驚きと、不思議な喜びを得ながら、セラはどもりながら名乗る。
「……確かに、ずっと『アンタ』って呼ぶのは面倒だしな」
青年――イクスの言葉が微妙に言い訳のように聞こえて何だか可笑しく感じる。
「で、セラ、アンタはこんな時間にこんなところで何してたんだ」
結局アンタだしイキナリ呼び捨てだし、と思ったが、そういう人っぽいと言えばそうなので、セラは深く考えない事にした。
「えーっと……その、住んでた村にちょっとした理由で居られなくなったので、とりあえずルザイールの町に行ってみようかな、って考えて歩いてたんです」
「徒歩で? 馬鹿なのか?」
……言い方が一々ストレートだなぁ……。
とは思いつつも言われても仕方が無い、実際無謀と言えば無謀な行動ではあったのだから。
「急だったので、馬とか足を容易できなかったので」
実際はそんなお金やアテが無かっただけだが。
村では馬のような家畜は貴重な労力であり移動手段でもある、そして飼料代も馬鹿にならない。中々個人が飼えるものではなかったのだ。
そんな事を考えているとふと、何だかこちらだけが探りを入れられている様で釈然としない気分になる。
ならば、と。
「イクスさんは、なぜこんなところに?」
会話をしながらも馬は絶えず駆けている、前方にはいつの間にか町の外壁らしきものが大きく見えていた。
「外の見回り、としては結構な距離がある様に思えるのですが」
実際、町の周辺、というには距離が有りすぎる気がする、馬で駆けてこれだけ時間がかかっているのだから。
しかしその質問に対し、イクスは。
「――偶然だ」
一拍の間を置いて、ハッキリと答えた。
「偶然、ですか」
「偶然だ」
それ以外に何も無いと断言する口調。
嘘か本当か、それは本人ではないセラにはわからない、口調から察せるほどに彼を知っているワケでもない。
どちらにせよこれ以上聞いた所で答えてはくれないだろう。そんな雰囲気だけはハッキリと言葉に現れていた。
言いたくないのなら無理に聞き出す事もない、助けてもらっただけでも大きな恩なのだ。それに、本当に偶然という事だってある。
そう自分を納得させると、セラは小さなため息と共にイクスを掴む手に力を込めた。
やがて馬が町の門へと辿り着く。
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