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燎原の火

残酷な描写があります、苦手な方はご注意ください。


プロローグ後半的な所です。

まだしばらくシリアスが続きます。

*一部間違った表現を使用していた部分があったので修正しました。

「――え?」

 最初に声を上げたのはセラだった。

 突然燃え上がった男に、自由になった身体で慌てて距離を取る。

 同じように声を上げたのはセラだけでは無かった。

 野盗の男たち全員、燃えている本人を除く三人が、同じように間の抜けた表情で固まっている。

 そしてその空間は次の瞬間、絶叫によって切り裂かれる。

「ぎぃやぁあああああ、あつ、あづあああぁじいいいい!!」

 人の声とは思えないおぞましさすら感じる、おおよそ聞いた事のない絶叫にセラの身体がびくりと震える。

 その場から動くことも出来ず、ただ固まる。

 数瞬後にはその絶叫も止み、そこにはただ燃える人型がのたうちまわっていた。

 時折、ヒューヒューと風を切るような音が聞こえてくる。

 それがのたうち回る男の呼吸音だと気付いた瞬間、セラの背中に冷たいものが走った。

 絶叫を上げないのではない、上げれないのだ。炎上する炎が空気を奪い、彼が叫ぶために必要な空気までを回さない。

「お、おい、なんだよこれ……」

 野盗の一人がその惨状を見て誰にいうでもなく呟く。

 その時、

「舞われ、イグニス」

 野盗のモノとは違う、別の声が一つ響く。

 その瞬間、燃え転がっていた野盗の身体から火の粉が一つ飛び上がり、セラと野盗の周囲を燦きながら一周する。

 次の瞬間、その火の粉から発生したとは到底思えないような、人の背丈を優に超える猛烈な火柱がいくつも上がり、セラたちを取り囲む。

「お、おいなんだよこれ……!?」

 その場の全員の言葉を代弁するかのように、一人が大声を上げる。

 地面で転がっていた男はいつの間にか、物言わぬ黒い塊になっていた。

「野盗、『黒狼の牙』で、お前はその頭のゲルウェン・グイースで間違い無いな?」

 先ほどと同じように、声だけが先に響き、一瞬遅れて炎の壁を断ち割って、一人の青年が姿を現す。

 無造作に伸ばされた黒髪と黒衣、赤い瞳だけが炎の光に揺らめいてギラついているように見える。

 その片手には手配書らしき紙が握られている。

 この炎の中よく燃えないものだ、と馬鹿な事を思った瞬間、セラは自分の荷物の事を思い出す。

 振り返れば、ギリギリの所で炎には触れていなかった。

 今や完全に赤目の青年に意識を奪われた野盗達を刺激しないように、ゆっくりと荷物に近づくと手元にたぐり寄せる。

 その際黒い塊の前を少し通ったが、できるだけ目を向けないように手を合わせながら通り過ぎた。

「当たってるんだろ? 返事くらいしろよ、ゲルウィン・グイース」

「赤目の炎使い……テメェまさか……」

 お頭――青年が言うにはゲルウィン――が青年を見ながら何かを呟く。

「て、めぇ、賞金稼ぎか! 畜生よくもやってくれやがったな!」

「ぶっ殺してやる!」

 残っていた二人が、声を上げ青年に向かって剣を振り上げ飛びかかる。

 あれだけの惨状と、この光景を見せつけられ臆しない気概は賞賛すべきなのか、それとも正常な判断が出来ていないと言うべきなのか。

「――馬鹿が」

 嘆息と声と共に、何もなかった青年の左手の中に、炎の塊が、そしてその中から真っ赤な直剣が姿を現す。

 それを無造作に、正面から飛びかかってきた男に振り下ろす。

 その動きは、剣技というものを知らないセラからすれば全く無造作な動きであり、ただ真っ直ぐに振り下ろしただけにしか見えなかった。

 振り下ろされた男は、悲鳴を上げる間もなく、落ち葉か何かを斬るように、抵抗もなく真っ二つになり炎上し、一瞬にして灰になった。

「ヒッ――」

 その横から、同時に仕掛けていた男は、僅かに悲鳴を上げた後、そのまま横に薙ぐように振られた剣に上半身と下半身を分断され、同じように炎上し灰になった。

 わずか数分の間に、三人の人間が、その内二人は跡形も残さず死んだ。

 実感がない訳ではない、身体は震えているし、すぐ脇を見れば今でも、嫌な臭いを放ち直視できない黒ずんだ塊が転がっている。吐き気を催さないだけマシだとさえ自分で思う。

 人殺しをしていいなどとセラは思っていない、もし目の前で何も知らない人が死に瀕していれば手を差し伸べただろう。

 しかし、青年と盗賊団、彼らの関係は、その枠から外れているモノだと先程の短い会話から理解もしていた。

 勿論、だからと言って、問答無用で三人を殺したあの青年に、好感を持つワケでもない、例えそれで命を救われているのだとしても。

 そう簡単に割り切れるものではない、甘いのかもしれないが。

 険しい表情で青年を見ていると、その視線が一瞬交差する。

 しかし青年は気にした様子も見せず一瞥すると、残った一人、ゲルウィンに視線を向ける。

「さて、どうする? お仲間は全滅したが。お前の賞金についても生死問わずになってるな。俺としては別にお前の首を換金所まで持って行ってもいいんだが」

 生死問わずとは、随分と酷い悪行でも積んだのか。

 ……さっきの会話からすればお察し、というやつなのかな。

「……降参だ、抵抗はしねぇ、だから命だけは勘弁してくれ」

 そう言い、ゲルウィンは腰にさした剣やナイフを外し、目の前に投げ捨てると手を上げた。

「……そう言って無抵抗になった奴を見逃したことが、お前はあるのか?」

「…………」

 青年の冷ややかな声にゲルウィンは沈黙する。

 まさか、とセラが思う中、ふっと青年が息をつく。

 同時に、周囲を囲んでいた炎の壁が一瞬で鎮火し、熱気だけを残して消え失せる。

「まぁ、生憎俺はそういう相手をいたぶる趣味はないからな、投降してもらえるなら手間が省ける」

 さっきの二人はどうなんだとセラは突っ込みたくなるが、恐らく彼の中では自己防衛とかそういう部類になるのだろう。

 それに現実として、この瞬間この青年に救われたのは事実なのだから、あれこれ言うのは見当違いだという事も理解していた。



 投降したゲルウィンは青年の取り出した縄によって簀巻きにされ、おそらく青年のであろう、木陰から連れてこられた馬の後部に雑に載せられる。

 そうした後、青年は盗賊の落し物を探し出す。

 と言ってもゲルウィンが落としたモノ以外、ほとんどは青年の炎によって消し炭になっているのだが。

 斬られた二人は、金属類で出来た装備品もあっただろうに、欠片さえ残っていない、馬鹿げた火力だ。

 そこまでの様子を、荷物を抱えたまま呆然と見ていたセラはハッとする。

 ……さっき目線があってから声すらかけていない。

 少なくとも青年から声をかけられてはいないし、目線すら合っていない気がする。

 お礼くらいは、言わねば。

「あの――」

 そう思い、意を決して青年に声をかけると、

「あぁ、礼とかそういうのは要らないからな、こっちは金目的の仕事でやってるだけだ」

 ぶっきらぼうに、視線さえよこさず作業を続けながら青年はそう告げる。

「え、あ……えっと……」

 予想外の返答に次の言葉が出てこず、セラは口ごもる。

 ……いや、ここで引いたらダメだ。

「それでも、えっと、ありがとうございます。おかげで助かりました!」

 そう言って頭を下げる。

 そうして数秒、青年の反応は無い。

 頭を上げながらチラリと青年の方を見ると、いつの間にか青年が近く、そして正面からセラを見据えていた。

「ほぁあ!?」

 そこまで近かった訳ではないが、急な接近と視線に、セラは頓狂な声を上げながら数歩後ずさる。

「……何してんだアンタ」

 青年が怪訝な表情を浮かべる。

「あ、いえ、ちょっと驚いただけと言うか、その」

 なんだか妙な気恥かしさを覚え、顔が熱くなるのを感じながらセラは視線を逸らす。

 と、ふと違和感を感じて青年を見る。

 怪訝な顔をした黒髪の青年。

 ……目が、赤くない?

 先程は確かに赤く見えたが、炎が反射して赤くでも見えたのだろうか、今の青年の瞳は、残った焚き火の僅かな光ではハッキリとはわからないが、少なくとも赤ではない。

「叫んだかと思えば凝視してきたりと、なんなんだ。残念美人ってやつかアンタ」

「な、なんですかその言い方、初対面に向かって失礼――」

「あーあー、そうだな悪かった悪かった、んじゃ、俺はもう行くが、アンタどうすんだ?」

 手をヒラヒラさせながら、あしらうような動作で踵を返した青年は、顔だけ振り返り問うてくる。

「あ――」

 そうだ、とセラは青年に言われてハッとなる。

 青年はどうやら賞金稼ぎらしい、なら向かうのは町の方だろう。そうだとすればセラの目的地と一致している。

 このまま何もしなければ、

「ここで野営して、朝一にでもまた町に向かって出発する予定です」

「そうか、まぁまた襲われないように気をつけるんだな」

 そう、彼の言う通り二度目が無いとは言い切れない。こんな派手な事があった後なら、見ていた獣や野盗はそうそう寄り付いては来ないだろう、だが夜は長い、それを絶対というのは早計、迂闊というものだ。

「んじゃ俺はこ――」

「あの!」

 馬に向かう青年の背後に声をかける。

 ピタリと止まった青年が首を回し、再び顔だけで振り返る。

「わ、私も一緒に、連れて行ってもらえません、か……?」

「……一緒に?」

「あっと、行き先って、ルザイールの町、ですよね……?」

 尻すぼみに小さくなっていく言葉に情けなさを感じるが仕方が無い、都合のいいことを言っている事は百も承知なのだ。

 青年の表情に変化は無い、だがそのまま青年は体をこちらに向けなおす。

「そうだが……無償(タダ)でか?」

「え、えっと、少しでしたらお金も出せます!」

 腰の硬貨袋を取ると、両手で突き出しながら言う。

 両親が持たせてくれたわずかばかりのお金、本来ならば余計な事で使いたくはなかったのだが、身の安全と引換ならやむを得ない。父も母もきっと理解してくれるだろう。

 ふっかけられた時は……後でコッソリ泣こう、そう一人でセラが心の中で誓っていると、

「俺自身は構わないんだがな……生憎、今は馬の後ろにはアレを載せているから、他の人間を乗せる余裕がない」

 そう言って指で簀巻きにされたゲルウィンを指す。

「あ……」

「……そうだな、確かにここでアンタを見捨てるのも寝覚めが悪い。じゃああいつを首だけにしてアンタに持ってもらって、アンタが後ろに乗るってのはどうだ?」

「いえいえいえそこまでしなくていいです!」

 とんでも無い物騒な提案にセラは全力で首を振る。

「冗談だ」

 ……冗談に聞こえない。

 セラは疲れた顔で胸を撫で下ろす。

 それを見て、

「襲われた相手に、お優しいもんだ」

 ……皮肉じみた言い方。

 実際皮肉なのだろうが。

「優しいとか、そういうのじゃないですけど……と言うかそういう問題じゃないと思います」

「そうかね」

 仕返しに少し非難するような目を向けてみるが、青年は意に介した様子もなく受け流す。

「で、話の続きだが、あと一つ、方法がある」

「なんですか?」

 人が死なない方法ならなんでもいい、そう思いながらセラは食いつく。

 クッと、青年が顎でとある木陰を示す。

 少し離れたそこには、薄暗くわかりづらいが、二頭の馬が木に繋がれていた。

「多分こいつらの馬だろう、こいつらにはもう必要ないやつだ。アンタがあれに乗れれば、同行させてやる事はできる、どうだ?」

 願ってもない好条件、移動の足も手に入り、話の中ではお金を請求されてもいない、それなのにセラは乾いた笑みを顔に張り付かせた。

「えっと……私、馬に乗ったこと、無くて……」


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