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町への道を行く

 歩き始めてしばらく、村と別の村をつなぐ道――と言ってもたんに土がならされている程度の違いだが――を歩いていると、村の明かりが遠ざかり、逆に星々の明かりで周囲が見渡せるようになってくる。

 ……とりあえずこの道なりに進もう。

 事前に地図を確認した限りでは、この道沿いにずっと行けば辺境の町ルザイールという町に着くはずだ。

 セラのいた村が唯一流通を持っていた町だ。

 それにしてもと、その町が辺境というのだから、自分がいた村は最果てみたない場所なんだな、とぼんやりとセラは思う。

 荒地の中をただひたすらに歩き続ける。

 実際の所、セラもどれくらいでルイザールにたどり着けるのかは知らなかった。

 村の買い出しや売り出しの時も、必ず馬車を使っていたように思える、そもそも歩いていく距離ではないのかもしれない。

 しかし今はこの足しかないのだ、歩くしかない。

 周囲にできるだけ気を配りつつ、セラは歩き続けた。





 一日目の夜を、適当に道から外れた洞穴の中で軽く寝て過ごすと、セラは再び道に戻り歩き出していた。

 寝不足気味だがそうも言っていられない、それに現状ではいつまで経ってもゆっくり寝る事等出来はしない、何しろいつ魔物や、もしかしたら野盗に襲われる事があるかもしれないのだ。

 昼間の間にできるだけ距離を稼いでおきたかった。

 水筒で水分を補給しながらひたすら歩き続ける、誰かや馬車とすれ違う事もない。

 途中川があり、その周囲の木々の中に、食べれる木の実を見つけ、いくつか拝借した。

 火照った足を川の水で冷やしながら、木の実を齧りつつ地図を広げる。

「川……川……川……と」

 ……あった。

 村からルザイールまでの丁度半分位の位置だろうか、そこに川の絵が書き込まれていた。

 その川がこの川で間違いなければ、後半日も有れば着く計算になる。

 ……夜までに着くかなぁ。

 水筒に水を補給しながら、そんな事を考える。

 ……それにしても。

 空から降り注ぐ陽光と、草木の香り、そして川のせせらぎが心地よい。

 頬を撫でる暖かな風が緊張し続けていたセラの気をゆるませる。

 ……少しだけ……。

 誘われるように、セラは荷物を枕に、その場に横になった。










「はっ――ぅぁ!?」

 飛び跳ねるように上半身を起こすと、眩しいオレンジ色の光が目を突き刺し、一気に意識が覚醒する。

 慌てて周囲を見渡す。

 川原、それは変わらない、荷物も、奇跡的に何も減っていない。

 だがかなりの時間を寝ていたのだろう、冷酷にも日は既に傾き出していた。

「うそ、え、え、なな何で寝たの私もおおお」

 半べそをかきながら荷物をまとめ、靴を履くと、急ぎ足で歩き出す。

 夜までに、という目算は脆くも崩れ去った、後は夜にどれだけ歩けるかだ。



 情けない話だが、あっさりとセラはギブアップした。

 思った以上に足が疲労を抱えていたらしい、それと、精神的にも疲れていたようだ。それ以外にはこれといった不具合はないのだが、どうにも精神的疲れと、そして足からくるジワジワとした痛みが気力を削いでいく。

 それでも日が落ちてから随分と歩いていた。自分を褒めてやろうと思うくらいには歩いたのだと、セラは自らを誤魔化すように自賛していた。

 最も、横になりながらそんな事を考えている時点で大分疲れているのかもしれない、とも思っていた。

 手頃な洞穴も見つからず、丘の下、岩陰に陣取りそこで焚き火を焚きながら横になっていた。

 小気味よい音を立てながら燃える焚き火をぼんやりと見つめる。

 幸運な事に昨日とそして今日も、天気は晴れのまま続いている。

 焚き火の向こう、平原の先から見える空には幾つもの星が煌めいている。

 ……お父さんとお母さん、大丈夫かな。

 そんな事が脳裏をよぎる。

 目をつぶれば、二人の顔が浮かんだ。

 あの二人も、同じ夜空を見上げているだろうか。

 被った毛布を身体に巻きつけ、膝を抱える。

「……寒い」

 泣き出しそうな心を必死に奮い立たせていた。

 その時、砂を削る音、明らかに自然のそれとは違う音がいくつか、セラの耳に飛び込んでくる。

「――誰っ!?」

 セラの言葉に答えるものはいない。

 魔物か、野盗か。獣の唸り声は聞こえない、だとすれば後者か。

 セラは体を起こし、ダガーを片手に、荷物を身体の後ろに隠す。

 剣はまだ使えない、一度も触っていないのだ。

 構えるセラの前に、岩陰から三人、中々年季の入っていそうな黒い装束に身を包んだ人影が現れる。

「お嬢さん、こんな夜中に一人で野営とは無防備すぎるな、感心しねぇぜ?」

 髪をざんばらに切りそろえた、まさにソレっぽい男の一人が、手の中の小剣をチラつかせながら話しかけてくる。

 ……ホント、疲れてるからってうかつだったかな……。

 セラは男に言われたから、ではないが、反省する。

 町に近づけばそれだけ、町の外へ出る者を襲う者との遭遇率も上がるという事だ、それにそれは近すぎず、遠すぎず、まさにセラが今いるような場所こそが最適だろう。

 唇を噛みつつセラは考える、どうすればこの場を切り抜けられるか。

「何の、用でしょうか……?」

 言わずもがな、だろうが時間を稼ぐためにとりあえずは訪ねておく、万分の一の確率で只の通りすがりのいい人達かもしれない。

 その間にセラは立ち上がる。足の裏は相変わらず痛いが別に立てない動けないというわけではない。

「荷物まとめて置いていけば命だけは、と思ったが――」

 先程の男がそう言いながら指を鳴らす。

 背後、というよりは側面、丁度ダガーを握っていた右側に、上の丘から滑り降りてきた別の男が、着地と同時にセラのその手を弾く。

「っ――!」

 痛みと同時にての中からダガーがこぼれ落ちる。

 同時に右腕を掴まれ、首筋に冷たい感触が伝わる。

 降りてきた小柄な男が、自前の小剣をセラの首に突きつけたのだ。

「お頭ァ、こいつ着てるもんは粗末ですが中身は極上品ですぜ、儲けんもんだ、売れば結構な額になる」

「ほう、となると、荷物だけで見逃してやる、ってわけにもいかなくなってきたな」

 相手は四人、下衆な笑いが周囲に響く。

 対してセラは徒手空拳、自由なのも左手のみ。

 絶望的状況だと思える中、しかしセラは別の事で苦悶していた。

 それは彼女が今の状況を、恐らく簡単に打開できる事。

 そしてなぜそれに苦悶していたかといえば、そうした時、この四人の男達がどうなるか、彼女には予想出来ないからだった。

「んじゃあお頭、売っちまう前に一つ味見でもしてみていいですかね? ここんとこ女日照りでさぁ……」

 その言葉と同時にセラの首筋にあたっていた小剣が、服の襟へと移動する。

「おい汚ねぇぞお前、俺だって最近はなぁ――」

 中央のお頭と呼ばれた男以外の三人が口汚く言い合いを始める。

 その言葉の意味するところをセラは理解すると、ますますセラの思考は加速する。

 ……どうする? どうしたらいいの? お父さんお母さん……!

 優しくあれ、気高くあれと育てられた、人を無闇に傷つけてはいけないと。

 その”力”は容易く人を傷つける事ができると、だから滅多な事で人に向けてはいけないと父に言われた。

 けれど、それで、それを守って自分の尊厳が奪われるのだとしたら? 汚されて、踏みにじられてしまうのだとしたら?

 そんな事があっていいはずがない、そんな事――

 ……ゆるされるはずない。

 セラの髪が僅かに、風もなく揺らいだその瞬間。

「おい、テメェ等やめねぇ――」

 お頭と呼ばれた男が口を開こうとした瞬間。

 光と共に、セラの隣に立っていた男の胸に火が宿り、それが一瞬にして燃え広がった。


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