クリスマス・バトル! ③
「乗る?」
見覚えある白い車から顔を覗かせて、テンション低く聞いてきたのは直ちゃんだ。
…これ、クリスマスプレゼントの前払い?だとしたら喜んでいいんだろうか?それとも当日目減りするコト考えて泣いとく?
「…イヤならいい」
「うわーっ!イヤじゃない、乗る、乗りたい!乗せて下さい直哉様!!」
無情に発進した車を止めるのは、ホント疲れた。
直ちゃんの愛車エボⅣは、大きい上にエンジン音もすごいからあたしの叫びなんて聞こえないのよ。全身全霊使い果たしちゃったわ。うっかり武○鉄也さんのモノマネしちゃいそうよ。
刻は夕刻、というかほとんど夜。寒さに鈍くなる体の動きを励まし励まし歩いていた身には、優しさが身に染みるよね。
…余計な運動しなきゃ、尚よかったんだけど。
ともあれ無事(?)にナビシートに納まって、シートベルトをした辺りで違和感に気づく。
「あれ?どーして車なの?」
あたしが帰宅途中の時間は、直ちゃんも同じ事が多い。
今日はたまたま友達とおしゃべりしてて遅くなっちゃったけど、それでもこんな時間に会うくらいだもん、大学の帰りでしょ。
駐車場無いからバス通でなかったっけ?
「いったん帰って、車出した。欲しい物、あったから」
だから無表情のぶつ切りでしゃべんないで…そんなとこも好きだけど。
「ふーん。なに買ったの?」
「これから行くとこ」
「……じゃあ、あたし拾っちゃダメじゃん。お店は住宅街と反対方向だよ」
意味不明。どうしてこう、読めない行動とるんだろ。
信号を右折しちゃったから、お家とどんどん離れてくし、ついてっていいの?
「昨日、未散買い物したいって言った。一緒に行くのがイヤなら降ろすよ」
あのね、それすっごい大事な説明じゃないんでしょうか。いきなり車に乗せて、直ちゃんの考えてることわかるわけないのに。
だけど些細な一言を覚えてもらえていたことがめちゃめちゃ嬉しいあたしは、呆れたりせずによによ笑いながらお願いしちゃったのだ。
「イヤじゃないです。連れてって下さい」
「うん」
僅か数ミリ上がった唇は、微笑み。
わっかりづらい人だけど、よくよく観察してると表情の変化を読み取ることができるんだよね。直ちゃん相手にしか使えない、不毛な特技って気がしないでもないけど。
程なく見えた大型ショッピングセンターまで、ぶつ切りの会話を楽しんでいざ出陣。
「なに見るの?」
エレベーターの中での質問に、凍り付きましたよ、見事に。
プレゼント買う相手と、一緒に売り場回るの?まずいよ、それ。
「えーっと、別行動なんてどう?」
にこやかに、可愛らしく言ってみたら眉がピクって。何故怒る!
「置いて帰る」
珍しい不機嫌な物言いに、反抗できなくなった情けないあたしです。
「ご一緒させて頂きます…」
恋は人を弱くするわ!
エレベーターを降りて、人の多さにちょっとため息。
ほてほてと店内を歩くのは、やる気のない直ちゃんらしく限りないスローペースだけど、クリスマス商戦で浮き足立つ人の中では丁度よい具合。
人波に乗ったら見落としちゃう小物から、綺麗なディスプレイまでじっくり堪能できるから。
「あ、可愛い」
山積みのぬいぐるみに隠れるように顔を出す、陶器製の貯金箱を手に取ると直ちゃんが顔を近づけてきた。
「…カエル?」
「そうみたい。すっごいデフォルメされてるけど、可愛いよね」
まん丸の体にハートが散った柄はとってもファンシーで、つるつる手触りの良さと相まって絶対本物を連想させない作りだ。敢えて言うなら口元が微妙にカエル?みたいな。
「未散、こういうの好き?」
「うん、好きだよ。でも紗英もこういうの好きなんだよね」
くっついて回るあたしのことは否応なく知ることになっても、ほとんど接点のない妹の紗英のことはあんまり詳しくない直ちゃんは、カエルをひっくり返したり、振ってみたり、独特の確認方法で愉快な姿を堪能してる。
合間に「女の子って変な物、好きだよね」とか呟いてるのはご愛嬌。変じゃないもん。キュートなの。
それでもその仕草が可愛いから微笑ましく見守ってたんだけど、足下でお目当ての商品を探してる子供に気づいたからカエルごと直ちゃんをレジに誘導した。
「買うの?」
「うん、紗英のクリスマスプレゼント」
って感じで、両親にもそれぞれ品物を選んで。
…残るは抱き枕だけなんだけどなぁ…本人同行で買ったんじゃ当日の楽しみは半減しちゃうし、なによりその場で渡した方が早いなんて状況は遠慮したい。
だから、無難な話題を振ってみた、つもりだった。
「直ちゃんの買い物はなんだったの?」
「あ…抱き枕」
ふらりと歩き出した先にある寝具コーナーに、あたしが凍り付いたのは言うまでもない。
プレゼント…また考えなきゃ…。
ご機嫌で、巨大なブタ枕を抱える直ちゃんの隣で肩を落として誓うのよ。
頑張れ…後1日…。