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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

エル・エディゲ

作者: 夏実歓

中央アジアの英雄叙事詩の翻訳です。

世界にはまだまだ沢山の物語が埋もれています。


ちなみに、大学の講義中に課題として訳したものを少し手直ししました。


もっと、詳しい事を知りたい方は、和光大学教授で『ウラル・バトゥル』の翻訳もなさっている坂井弘紀先生を訪ねてみてください。

エル エディゲ



我らカザフにその名も高き三人の勇士がおった

それは勇士エディゲ、それはカラ・キプチャクのコブランドゥ、それはタマ部族から出た

勇士ショラ

この三人は人々を従えて気の向くままにあちらに移りこちらで暮らしとしたのだった


  泥棒も年を取ったらスーフィーになる

  おてんば娘も年を取ったら貴婦人になる

  鷹も年を取ったら子ねずみのようになり

  老人がさらに齢を重ねれば

  かつての事をぺらぺらしゃべる

  昔話の語り手になる


さあ、語り部たるワシは勇士エディゲの聞いた事を話すとしよう!!

エディゲの言った言葉を老人たちは車座になってよく歌ったものじゃ!


 エディゲは勇士だった

 民の悲しみがその大地を覆ったら

 国境に敵が迫ったとしたら

 エディゲなら俺が行こうというだろう!

 

 エディゲは勇士だった

 民の悲しみがその大地を覆ったら

 彼より年上の者ならば

 あなたには言うまでもないじゃろう


 エディゲは勇士だった

 民の悲しみがその大地を覆ったら

 彼より年下なら

 ヒヨッコはしばらく立ち止まってお聞きなさい


さあ、物語の始まり始まり



我こそは勇士エディゲなり!!

切れる事のない絹の綱である。見よ滑らかくしなやかな強靭さを

それを知ろうが知るまいが

納得できぬならば、

樫の棍棒でその頭を叩き割り

血飛沫を揚げさせよう


誰はばかることあろう?

このエディゲの名乗りを!


誰が知らぬと言うだろう?

このエディゲのその生まれを!


しかし、遠つ国の人よ

風も海を渡りたもうたか、さしものワシもまだ知らぬ。

だから、あなたに聞かせよう。

いかに魂を得たのかを?


カザフの三つのジュズの名がまだない頃

その国、故郷がまだ我が目に映る以前の時だ。


カザフの中にババ・シュクティ・シャシュティ・アジズという

聖者がいたという。

カラタウの近く、ムンジュルク山の麓の泉で身を清め

そこと礼拝をするための場所を行き来して暮らしていたそうじゃ

ババ・シュクティ・シャシュティ・アジズはある日の夕暮れ、日課のお清めをしようとやって来ると、三人の裸の娘達が水に入ってじゃれあっていた。


未だかつて、裸の女を見た事のなかった聖者は、ひっくり返ってのびてしまった。

相手も恥を知るうら若き乙女だったから、三人の娘のうちの一人もショックで倒れてしまった。

その時は知る由もないが、なんと、彼女たちは、ぺリ(天人)の皇帝の娘達だった。

残った二人は瞬く間に白鳥に姿を変え、気絶している娘を抱え上げると飛び去った。

そして、天空の故郷に運び込んだ後、バクス(シャマン)と占い師を集めて蜜酒を煮させたそうな


彼らみんなの言う事には、かの聖者自らが正気に戻さなければ、この娘は他の人の手によって気がつく事は無いだろうと言う事になったので、空飛ぶ聖者たちを送って責任をとらせることにしたそうじゃ

ことわざに「わざわざ子羊を奪う者はいない」というが、裸の尻、白い素足、その体を見た人は隠れられる場所はない。そうどうやっても見てしまったのだから!

嗚呼、あえて見ようとして見たわけではない!というのに!!

さりとて、神への勤めをすっぽかした後あと、何か挽回の手段があろうか?

「どうかこの娘を治してください。起こしてください」

哀れを乞う使者に

「あなたの娘に私は何か義務があるというのか? あなたに対して何か義務があるというのか?」

「あの娘達は私の沐浴場で水浴びして水を汚して逃げていった!そして私は気絶して、この夜明けの礼拝を出来なかったのだ!!いまだかつて礼拝を欠かしたことの無かった私なのに・・どうしてくれる!?」

ババ・シュクティ・シャシュティ・アジズは怒りに声を荒立てた。

そのあまりの剣幕に、ぺリ達は驚くやらあきれ返るやら!

「そんなに言うならば、一つ、贈り物とおもってこの娘を貰ってくれ」

といって、娘と聖者を一緒にして、二人を泉の源まで連れて行った。

聖者はこの妻と一緒ならば、何処へいっても色褪せることなく、とても豊に、なんとも楽しく時を過ごしたという。

しかし、混乱、混乱、大混乱ですったもんだがあるのが人生というものじゃ

聖者は

「あの時のように裸になって、おまえの体を見せてくれ」

と騒ぎ立てたという。

ぺリの娘は他の事は譲っても、こればっかりは譲らなかった。

「男は起こると乱暴になるというではないか!」

聖者は立ち上がるなり、彼女をひっぱたいたそうな、彼女を苦しめたあと

彼女は言った

「私の裸を見たあと、あなたは倒れて気を失っていたでしょう。あなたは知らないだろうけど、私はあなたの子を身ごもったみたいなの。私のお腹に美しい光がやって来て子供を授かったのです。妊娠したのにあなたはそれをしっかり受け止めなかったわ。今、私はあなたの心にいなくて、あなたも私の心にいない。私はあなたによって身ごもったこの息子を一人で産むわ。この子が生まれた時、川上に置いていくから。

この子は、金の漏斗や、銀のおまるがついたゆりかごにふさわしい人になるはずよ」

というと、白鳥になって飛び去っていったそうじゃ。

聖者はこれを注意深く見守っていたのか

娘の子供を約束に従って例のゆりかごに入れて捨て去ったということだ。

上から流れてきた赤ん坊に出会ってこれを見つけ拾った人がいた。トルキスタンはノガイの国のハン、トクタミシュは赤ん坊を自分の国に連れ帰った。

赤ん坊はトクタミシュの養子になって彼の手によって育てられたそうじゃ


・・・これを昔話の語り手たちはさまざまに語った。

愚か者の手綱、愚か者の耳、賢者の心

愚か者が何かを聞けば、聞いた事に満足してカトゥクのように固まって、ミルクのように酸っぱくなって立ち止まったままだ。

賢者は何かを聞けば、聞いただけでは満足せずに知恵として頭にとどめ、心で判断して終わる。

昔からよく言う言葉がある。名犬バラクのようなバトゥル(勇士)は一人の妻を得れば、もう一人もすぐ見つけるが、鷹のようなビー(君主)はなかなか妻を捕まえられない。

このエディゲは、トクタミシュ・ハンの貴族としてのエディゲは失われた。

自ら貴族に任じたビーによって・・・

一つ身では叶えられないはずの勇士と戦士を共にかねたエディゲでさえもそうなってしまった。

「二つの刃は一つの鞘に収まらず、二つの希望は一つの心の収まらない」

わしはエディゲが勇士であり戦士であることをとてもよく知っている。

ビーの位を求めたとは信じられんのじゃ

誰であれ、彼であれトクタミシュ・ハンの

「己自身から生まれていないものが息子になれようか!?」

という言葉を聞けば

「売り払えず、奴隷にせず、目をかけない・・敵意を感じたならば逃げてしまうのが上策だ!」

と思うだろう。エディゲもそうだ。


そこで、トクタミシュは追っ手としてケンゲスの息子、ケンジェンバイを送った時、追っ手にエディゲが言ったことには

「ケンゲスの息子、ケンジェンバイ!頭の弱い奴よ!!ジャンバイよ、トクタミシュはハンではない。奴は口がうまい。奴がどんな奴であるか、俺はよく知っているのだ。お前はどうしたら無事に帰れるように考えろ!!言って奴に俺の言った事をどう伝えるか考えておけ!!

この旅はまだまだ続くのだ。サテミル・ハンの国に行きどれほどの仲間がハンの元にいようとも必要な限りを俺の仲間にしてみせる!!

再び戻ろう奴の国に

革の鞍から汗を流し

あばら骨から血を流し

今に滅ぼしてやる

クニケイのような美女を

ティニケのような貴人を

婚礼も抜きで、家畜も送らずに

奪い去ってやる

大地を貴様の血で汚してやる

貴様の国を滅ぼしてやる

刀を抜いて血の泥濘に沈めてやる!!」

といって進みつつけたのじゃ


エディゲの進んだ先では、カルマク出身の大きな勇士カラトブンがシャーテミル・ハンの娘を奪おうとしていたそうな。

それに行き会ったエディゲはカラトブンを殺して娘を助け出した。

シャーテミル・ハンに娘を返したあと、ハンは娘をエディゲに与えたということじゃ。

そして、エディゲは大地がたわむほどの軍隊を得て、トルキスタンを攻め滅ぼした。

一本とられたトクタミシュ・ハンはどうしようもなくなり逃げ去った。

そして、彼の八人の息子も逃げ出した。

突然だが、エディゲは妻を娶り、子供をもうけていた。その子はヌラルと名づけられていた。

そして、そのヌラルも父と共にトルキスタンを攻めたそうじゃ。

ただ一人の子供ヌラルにエディゲは言った

「トクタミシュの首を落とさず、その目をつぶすまでは帰ってくるな!」

とトクタミシュの後を追いつづけさせた。

そこで、ヌラルは父に、こう願い出た。

「トクタミシュの二人娘のうち、一人はあなたに、もう一人は私にください」

「よかろう、息子よ。トクタミシュの愛でるものを何一つとて残さなければ実現しよう」


トクタミシュの妻はこれを聞き、父と子の仲を裂くべく二人の娘をエディゲ一人の胸に抱かせた。すると、エディゲの胸にムラムラと欲が起こり、自分ひとりのものにしてしまった。


その頃、罠が待つとも知らずに追いかけていたヌラルによって、トクタミシュは何処に隠れようとも再び平穏な気持ちを得る事は出来ないでいた。

同時に、テミル婿将軍もトクタミシュを逃さぬように網を広げていた。

トクタミシュは逃げに逃げてイルティシュ川を渡って、藪のなかにくれたのそうじゃ。

しかし、裸足だったその足を葦が切り裂いて血が流れ、その血の跡をつけられてとうとう見つかり殺されて、その死体は藪のある川のとある岩に引きずり出されて埋められたそうだ。今ではその岩はバヤン・コバといわれておる。

さらにその上流には、ある塚があり、そこでそこでトクタミシュのあぶみを見つけた者達がいた。そのあぶみの大きさは当時の馬の頭の大きさにぴったりだったという話じゃ。

また、ケレクーまで150シャクリムの場所に、プトゥという町があり、そこの隣に戦略上の拠点があったそうな。


ヌラルが無事に戻ってみると、父がトクタミシュの二人の娘を娶ってしまったと言う話を聞き、父を軽蔑して不仲になってしまったという。

トクタミシュの妻のねらい通りにことは運び子の親子は生涯顔をあわす事は無かった。


さて、このトルキスタン攻めの最中、トクタミシュのある若い婢が身ごもっており、後に勇士となる男の子を産んだそうな。

勇士エディゲはこれを見ると、

「この哀れな異人の子を殺してしまう事が無いように!」

といって、一頭の子馬とその母の葦毛の馬を与えたという。

この牝馬から生まれた子馬は立派な馬隣り、婢から生まれた子供は青年となった。

またその子は名をケイクワトと名づけられ、後年エディゲが年をとってケイクワトと出会い、その一人息子ヌラルが帰ってきても、再び同居したり会ったりする事が無い事を思い知らされるのだった。

その時の話だ――

トクタミシュの仇を討つためケイクワトは馬にまたがった。

やがて、やがてエディゲとケイクワトが出会ったときエディゲはこう語った。

「ああ、なんということだ

 ああ、なんとも残念だ

 奴隷から生まれた葦毛馬が

 立派な牡馬になるとも知らず・・・

 婢から生まれたケイクワトが

 敵になるとも知らず・・・

初産の若い牝馬が生んだ葦毛馬が

立派な牡馬になるのを知った時!

婢から生まれたケイクワトが

敵になるのを知った時!

何故生まれた時にその首をはねてしまわなかったのか!?

寝ているときにその目を刳り貫いてしまわなかったのか!?」

と嘆いたという。

そこでケイクワトは言った

「私が母のお腹の中にいた時に母にお前の子を殺すなとなさけをかけたそうだな!

 お前は既に年老いた。こんな老いぼれには武器を取って相手をするまでも無い。

 もし女であれば笑い一つでごまかせようが、もし本当の男なら怒りのあまり死んでしまうだろうよ!!」

さて、これを聞いたエディゲは悲憤慷慨して憤死したのだが、詳しくはまた後に語ろう。

エディゲの死に哀しむものはいただろうか?

トクタミシュの二人の娘である妻達は、その母と共に悲願成就を喜んだ。

神の子で唯一人、息子ヌラルの妻でありエディゲの義理の娘はこれを哀しんだという。

そこで、この嫁は哀れと無念の心をゆりかごとして、その子どもを育てたそうな。

その仇を子供から取ろうした。ヌラルの子供におしめをする時におしめの中にシェンゲを

敷きむつきに包むようにしたという事だ。

子供は夜の間眠る事が出来るだろうか?

泣いた。痛さのあまりヌラルの妻に泣き付いた。

この様子を見てヌラルは訊ねた

「私の子供は何故こんなに泣き虫になってしまったのか?」

そこで妻はこういった

「誰が知ろう、そのおしめの中にはシェンゲルが入れてあるということを。

 これで泣かなくなった時、この子は丈夫になっているでしょう」

「なんということを!子供の面倒も見れんのか!早くシェンゲルを片付けてゆりかごに入れなさい」

こうヌラルがいうと

「子供がどんなによくなったって、あなたやお父さんのようになってしまうでしょう。

 あなたは父に何をしたのです。この子もやがて何をするか?あなたもそう思うでしょう」

その言葉を聞くと

「ああ!私が間違っていた!!いとしい君に無様な姿をさらしてしまった。すべての民にもそう見えただろう」

と一直線にケイクワトから父の仇を取ったという。

例のトクタミシュの八人の息子はエディル川を渡り逃げ去った。

奴らの軍は何か出来ただろうか?

「どうだ、お前たち。まるで、牡馬の糞みたいに寄り集まって何をしているというんだ!」


このことは『エディルが凍ったら誰が渡って来れないか?エディゲが死んだら誰が帰って来れないか?』という諺として、エディルのほとりで暮らす人々の間に残っているそうな。


勇士エディゲがすんでいた地は、ウルタウとキシュタウだった。

自らが死ぬ時、ウルタウの頂きに座り、ケイクワトの言葉によって深い悲しみと怒り

で爆発するように死んだ。

そして死の間際にこういったのだった

「わしをこの地に埋めないでくれ。石を積み上げて塚を築き、その中に葬ってくれ。

 そして、もしヌラルが来たら、結局、馬が必ず自分の杭に帰るように、また、臼は必ずもとの穴の上を通るように、万事もとの鞘に納まるのだと、このことを見て思い出してくれるだろう。

 そして、私をカラタウの近く、カラカルパクの先祖ソザクの黒い塚の脇にある、我が祖ババ・シュクティ・シャシュティ・アジズ廟のその脇に運び葬って欲しい」

といったのじゃった。

ウルタウにある遺言で言っていた墓はアク・メシト聖者廟と名付けられているそうな・・・

 









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