9話
シルフィーは、どうしても気になることがあって、資料室に居た。資料室には、支部が集められるだけの支部記録と、幽賊害蟲と人間の戦いの記録がある。
そんな資料の中で、シルフィーが知りたかったは、ここ十数年間に存在した強者の記録だ。Sランク、と呼ばれる位に到達できた者は、数人しかいない。その他、Aランクですら、ここ数年で数人程度。今や、ランクの基準を下げたほうがいいのではないかと、論議されるような時代である。
シルフィーは、Sランクの人間の記録を見る。あくまで個人情報のため、写真はあるものの、本名は記されていない。
ここ十数年のSランク到達者は、四名。
「これが、Sランク……」
呆然とするシルフィー。それもそのはずだ。圧倒的なまでの記録を残したデータ。シルフィーは、自分では、とても追いつけないと思った。シルフィーの総合評価は、B+である。しかし、それは、あくまで、総合評価であって、単体での評価は、かなりバラつきがある。前にも言ったように、彼女は一点集中タイプのBランクだ。体力評価と知力評価はB-(それも限りなくCに近い)。だが、そんな彼女の魔力評価は、S-。それにより、総合評価はB+だ。だから、彼女は、魔力ならA支部の誰にも、桜子にすら負けていないと思っていた。だが、そんな自信は、この記録を見た瞬間に打ち砕かれた。
「これって、」
Sランクの四人は、破格、異常と言っても過言ではない強さだ。「天燐の神鑓者」、「夢見櫓の女王」、「漆黒の剣天」、「零の一」。この四人、特に「漆黒の剣天」と言う魔装太刀使い。「黎明の王」の再来と言われるだけある成績を残しているにもかかわらず、魔装太刀を振るいだしたのは十歳の頃だと言う。けれど、二年で太刀を収めてしまっている。シルフィーには、そのことが不可解に思えてならなかった。
「この方の、写真は……」
シルフィーは、気になって、「漆黒の剣天」の写真を探すが、見つかる写真全てにおいて、彼は、黒い上着についたフードで顔を隠している。
「あれ、これって」
シルフィーが見つけたのは、映像データ。閲覧回数が零のところを見ると、誰もこの資料に、映像データが添付されていることに気づかなかったのだろう。シルフィーは、ディスクを再生機器の元へ持っていく。
この時代の再生機器と言っても、それほど高度なものではない。昔の映写技術に似たところがある。ディスクに映像を焼付け、それを映し出すだけである。それも、ディスクがさほど大きいわけではないので、たいした量の映像を記録できるわけではない。
映像が再生される。そして、映し出されるのは、異常な光景。黒いフードを被った少年が、紫色の太刀を素早く振るい、害蟲を一太刀のもとで切り去っていく。シルフィーは、驚いた。実戦経験は無いにも等しいシルフィーだが、授業で何度も聞いたように、害蟲の装甲が硬いことは、よく分かっていた。実際に、害蟲と同じ硬度だという岩石を触り、試しに調理用包丁を振るったが、調理用包丁が折れてしまったほどだ。魔力で強化された武装である魔装でなかったら戦えないことが良く分かったのだ。そして、魔装であっても一撃で貫ききるのは、まず無理だった。シルフィーの常識は、一人の少年の所為で大きく覆された。そして、映像に映っている少年は、まるで、
「死を運ぶ風」
そう、風のように速く、そして死をもたらす。さながら漆黒の暴風。再生機器では、追いきれないほどの速度の剣。
「す、凄い」
目を煌かせるシルフィー。それは、彼の剣に魅了された者の目だ。彼はかつて、多くの者を魅了した。少年を見る少年少女、そして特定の女性層。そんな人たちは皆、シルフィーと同じように目を煌かせていた。
「格好いいなぁ~」
思わず見とれた、そのとき、シルフィーは、彼のフードの奥に、どこか見たことのある顔が見えた気がした。
「えっ、今のって」
シルフィーは、思わず、そのフードの奥を見つめる。
「でも、だとしたら……」
シルフィーの予想が正しいのならば、彼は、――。