55話
轟々と風が吹き荒ぶ。木々は枯れ、草も無く、地面には皹が入っている。
轟く雷鳴と眩い稲光。
天には相も変わらず、大きな目の黒い禍々しい化け物が陣取っている。
そして、化け物を取り巻く、夥しい黒い呪詛の塊「呪魂」。
その直下に、二人の人間の姿があった。
凄まじい風に、髪をはためかせ、大きな太刀を地に突き刺す。
一方は、薄い紫色の刀身を持ち、鋭い刃先は、孤高の色を思わせる。
一方は、透明の刀身を持ち、鋭い刃先が、凍えるような冷たさを思わせる。
少年と女性。
少年は、黒い髪と黒い瞳。整った顔立ちは、どこと無く気品がある。しかし、その気品のある顔立ちは、やる気の無い瞳にかき消されていた。だが、今、この場において、彼の瞳には、やる気のなさなど無く、闘志に漲っていると言えるような瞳だ。
女性は、赤い……いや、紅い髪に紅い瞳。全身に浮かび上がる赤羽の紋章。綺麗や華麗であり、そして、鋭いと言うイメージが浮かぶような見た目をしている。
そして、二人は、同時に、まるで合わせ鏡のように、寸分の狂いも無く、同時に剣を抜いた。
そして、赤色に変色した髪を持つ女性・赤羽音音が先に動いた。抜いた魔装太刀・「ユキカゼ」に、迸る魔力を注ぎ込む。魔力は、幾多にも枝分かれする魔力収束回路により、一箇所に集められる。そして、そこから、再び、幾多にも別れ、魔力伝達物質に浸透する。
「さて、と」
音音が、やる気の無いような声音で言う。そして、足を勢いよく踏み込み、剣を構える。
「我流・雪風流極技【雪風・辻】」
静かに唱えた、その言葉と共に、見えないほどの神速で、剣を振り抜いた。
魔力と剣圧が雑じり、一辻の光となって斬撃が跳ぶ。
――キュォオオ!
斬撃が空気を切り裂き、風を纏いながら突き進む。そして、「呪魂」に触れた瞬間。
――Gyaaaaaaaaaaaaaaaaa!
どこと無く、悲鳴にも似た、甲高い音が、世界の空に響いた。
その隙を逃すまいと、黒髪の少年・紫雨零士が足を踏み込む。
「さぁて」
師弟関係のせいか、それとも、元々似た面倒くさがり性格のせいか、似たような、やる気の無い掛け声と共に、剣を構えた。
「紫雨流・天技『雨月の型・紅雨の守』」
別段、声を強めたわけではない。しかし、それでも、鋭く、強く響いた声は、剣にも伝わる。
震える魔装太刀・「ムラクモ」。そして、紫色の光が、切っ先から迸る。
「【紫断ちたる雨】」
その言葉と共に、剣を天へと向ける。
――ザシュゥウウ!
そんな音を出しながら、大気を焦がしながら、紫の光は、宙を舞う。幾多もの光に分離し、枝分かれした様子は、雨を髣髴とさせる。そして、それらは、全て、空の化け物、「世喰らい」に当たる。「呪魂」に阻まれず、中身に、当たったのだ。
「んじゃあ、決めるとしますか」
「ああ、そうだな」
二人は、俄然、やる気の無い声で、それでいて、はっきりと言った。
「叢雲流」
「終技」
二人は、声を揃え、言う。
『【紫雨太刀】』
二人の剣から迸る、紫の剣光は、天へと駆け上がる。
それを、どこかから見ていた、人々は、こう思うだろう。
――紫天の剣光
と。
眩い閃光が「穹」に届き、剣光が落ちてくる。大きな化け物と共に。
この「穹」に巣食っていた、「世喰らい」と共に。
幾多もの剣光は、「世喰らい」を潰し斬り尽くすまで続いた。それこそ、二人の師弟の最強の技だったからだ。
二人の協力によって成せた究極の技が、世界を救った。
それが、世界各地の支部に知らされるまで、そう時間はかからなかった。
そうして、紫雨零士は、改めて、こう呼ばれることになる。――「紫天の剣光」――と。




