5話
桜子が去った後、将美は、報告書に目を通す。
「魔装武装の紛失?二本の大剣。捜索の手配済みだし、罰則まで書いてあるわね。いつものことながら染井さんは手回しがいいわね」
将美の賞賛を聞いた他の支部長も報告書を見る。二人の反応は意外なものだった。
「この報告書、染井君のものだろうか」
ラッセルが、ふと呟いた。
「グレー支部長もそうお考えで?」
ミッカスも同じことを考えていたようだ。将美は、何故二人がそんなことを言うのだろうかと思ったが、口に出せなかった。直典の言葉が二人の言葉に続く。
「お二方も、そう、お考えですか。実は、彼女のレポートには多々気になる点がありまして」
その言葉に、将美は、「そんなの聞いてない!」と内心で、直典に叫ぶが、実際に言葉を発しているわけではないから、通じる道理も無い。
「彼女が過去に出したレポートの書き方が、こちらが彼女に依頼した場合と、彼女が自主的に何かをやって出した場合で違いがあるのです」
その後に、どこが違うのかを説明する直典。
「例えば、今回は文頭に結果、その後に経緯、罰則と言う形ですが、彼女がこちらからの依頼で出す場合のものは、文頭に経緯、その後に結果で罰則等は抜けていることが多いのです。こちらでも前から不審に思っていたのですが、彼女が、他人に書かせる必要性は無いはずなので、そもそもそんなことをするような人物ではないので、よく分からないのですよ」
将美は、今気づいたのだが、口には出さなかった。正しい判断だろう。
「ああ、我々も、こちらの支部への報告で来るレポートと今の報告書を見比べて、似たような点が気になった」
「でも、誰が書いたのでしょうね。普段の染井君のよりも分かりやすく、書きなれた感じがありますから」
直典の言葉に将美は言い返す。
「だけれど、彼女以上の隊員は、そうそういませんよ。なんたって、Aランク候補生代表ですよ」
将美の言葉を聞いた直典は、仮定の話をする。
「しかし、彼女に挨拶を教えた人物がいたら、その人物と言う可能性があるのではないですか?」
「ま、まさか、紫雨が?それこそありえないわよ」
将美の言葉は、二人の支部長の興味をそそるのに十分だった。
◇◇◇◇
興味をそそられた二人の支部長は、将美に紫雨零士と言う人間について聞いた。
「その紫雨とは?」
将美は苦笑いで答える。
「総合評価D+、紫雨零士。特殊技能なし。授業に不参加なことが多い生徒です」
D+と言う評価にラッセルは、
「その評価で脱退しないのには、何か理由が。いえ、正確には脱退させない理由ですが」
脱退は自主性を重んじると言われているが、実際は、ほぼ強制による脱退である。上からの圧力にほとんどのものが耐えられず脱退する。
「先ほどの染井さんが、こう言ったんです。『むしろ、辞めさせたほうがこちらの被害が大きいと思いますよ』、と」
その言葉に二人は、「なるほど」と頷いた。
「それにしても、紫雨、か……」
「そういえば、うちの橘君が気になることを言っていたな。A支部を見学した時、凄まじいオーラを放つ少年がいた、と。そのときは、丹下君だとばかり思っていたのだが……。マーズ君よりも強いオーラだと聞いていたのだが」
その言葉に、将美は、
「オーラですか?それは無いですよ。あの無気力さ。オーラの無さで言えば、もう神がかりでけど。それにシルフィーに関しては、魔力保持量だけで言えばSですよ」
と、言い放つ。
一応言っておくが、オーラと言うのは、一部の人間だけ見ることのできる魔力の波動の大きさのことである。将美はもちろんのことながら、直典もラッセルもミッカスもオーラを見ることはできない。B支部に居る橘と言う少女は、類稀なることだが、後天的に、そのオーラを見る力を手に入れた者だ。