49話
璃桜が凄まじいオーラの持ち主を持つ者が近づいてくるのに気づいたのは、限りなく偶然だった。雷華が帰って来た後、その道を観察していたら、気づいたのだ。
その数は、五。そして、どれも、圧倒的なオーラを放っていた。
七坂火音、赤羽異音、楼皇坂九御、リオン・シィ・レファリス、レオン・ベルデス。その五人だが、璃桜が当然知る由も無い。
「皆さん、敵です!」
璃桜の声と共に、皆に緊張が走った。そして、
――ドォン!
爆音が響く。
「あ~あ、だっるいなぁ~!」
「火音!あんたはいつもそー言って!」
二人の少女。火音と異音。
「子供?」
真白の呆けた声。火音は、それを見て、一番弱いと思った。だから、駆け込む。
「えっ?」
「まず一人!」
――ビャッ!
そんな音共に、体に拳がめり込んだ。そう思った。火音も真白も。それをカバーしたのは、百合だった。
「『グリッター』!」
百合は、魔力を流し込み、本気で切りかかる。火音は、それを「カタナ」で受け止めようとしたが、切り落とされる。
「うっわ、な~に、それ。ありえないんだけど~」
「油断しちゃダメですよ。真白先輩!」
百合は、再度、構えなおす。
「火音。油断しすぎ~。音音まではいかないけど、かなり強い奴もいるはずだよ」
音音の名が出て、璃桜と桜子が目ざとく反応する。
「音音さんの知り合い?」
「ありゃ?おばはんの知り合い?年増のクセに粋がっちゃって嫌よねぇー」
異音がのんきに言った。
「あたしは、赤羽異音ー」
「あたしゃ、七坂火音だぜぃ」
赤羽の名に、桜子は、確信する。彼女は、音音の家系のものだと。
「はぁ~、音音さんのとこの人間なら、私が出るわ」
桜子が「ミストルティン」を構える。
「そっちの子は、藤堂さんが。シルフィーは、上に行って全体をカバー。橘さん、敵の数と位置をオーラで探って。真白は、支部長への連絡。『風林火陰山雷』はそれぞれ支部の周りを固めて。椎名君は、それをカバーするため、シルフィーと屋上。トーマスさんは、無線で連絡待ち。壊れた武器あれば、そっちに向かって。特殊対策班、アマリリスさんがいつの間にかいないけど、各自で動いて。いない零士は、あの空の化け物を退治に行ってるでしょうから、こっちを守るわよ。以上!解散!」
桜子の矢継ぎ早の指示。それに皆が頷いた。
「と言うわけで、貴方の相手は、私よ」
そう言いながら、「ミストルティン」を剣の形に変え、装甲をパージする。「ミストルティン」の真価を発揮する為の仕様だ。魔装銃剣は、本来、剣と銃の力を両立するためにかなりの重さを誇る。その「ミストルティン」を剣の形に変えたところで、重さが変わるわけではない。重い剣など遅い。小回りの聞かない大きな蟲を倒す時か、相手を不意打ちする時以外、使いようが無い。だからこそ、剣単体での力を上げるために、装甲をはずすことができる。
そして、装甲をパージした「ミストルティン」は、「ミストルティン」から、名を変える。今まで装甲で隠れていた、鏡のような煌きを放つ、眩い刀身が、顕わになる。薄紅の透通る刀身。その色は、まるで桜。
「へぇ。贋作?その魔力伝達物質は」
「本物よ」
不敵に……桜子が、不敵に笑った。百合は驚いた。桜子が、こんな笑みを浮かべることがあるなんて思わなかったからだ。
「う~ん、封印してたんだけど、こうなっちゃ、仕方ないから。私も本気で行くしかないようだし、ね。零士がいないとき、そして、本当の危機の時だけに使うと決めていたの。この剣をね」
桜子の魔力に世界が震えた。そう思わせるほどの、重圧。
「ふぅん、マジもんかよ。桜色の魔力伝達物質なんて、それこそ、数ある名作の中の名作だけだぜ?」
火音が、呆れていた。
「それは、なんの剣?『ムラクモ』じゃないし、『エクスカリバー』でもない。あとは『グラム』か『アスカロン』?」
桜子は静かに、その真の名を囁いた。
「『デュランダル』」
――「デュランダル」――。ローランの詩に登場する、伝説の剣。その謂れは、あまりにも有名だ。絶対に折れることなく、全てを斬る剣。「絶対切断」の剣。そして、それを限りなく再現しているからこそ、あまりにも危険だった。それこそ、無駄な装甲をつけて、形まで変えて、刀身を隠さなくてはならないほどに。
透通る薄紅の刃は、カラーコードで言うところの薄紅――0003。限りなく、最高純度に近い魔力伝達物質。
伝承の「デュランダル」は、壊そうと大理石や岩にぶつけて壊そうとするも、それすら切り裂いてしまうなど、絶対に壊せず切断した。
「なん、ですって?『デュランダル』?そんなわけ。いえ、でも。ふぅん。そー。それが」
異音は、何かを納得したようだった。
「それが、あの『デュランダル』ってことはー、『漆黒の剣天』の恋人か何か?」
異音が笑いながら言った。
「その剣は、確か、『漆黒の剣天』が見つけて、壊したはずなのよねー。それを持っているってことは、『漆黒の剣天』の所縁の人っしょ?」
「確かに、零士とは、幼馴染だし、これは退院祝いに貰ったプレゼントよ」
桜子は、そう不敵に笑い、言った。不敵、恐れ知らず。普段の桜子の値踏みし、確かめてからやるような臆病なやり方とは真逆。
「さあ、お喋りは、ここまで。本気で、潰すわ」
その速度は、異音を凌駕していた。
そもそも、今までの戦闘で、桜子が、何の役にも立っていなかったのは、「ミストルティン」の重さゆえだ。A支部では、実戦経験のある前衛が少ない。そのため、「ミストルティン」を変形させて、剣型で、振るうことが多かった。しかし、パージしていないそれは、あまりにも重過ぎた。それゆえに、彼女は、自身の真価を発揮できずにいた。零士が復帰したあの戦いでも、パージしていたら、あそこまで、危機的状況に陥ることはありえなかった。避けられないはずが無かった。
彼女の体力の無さも、病気だけではない。他の魔装武装よりも重いものを持っているのだ。それは体力が多く削られるに決まっている。まあ、それでも零士は、軽々と持ってしまうのだが。それは、元々のポテンシャルと鍛え方が作用した結果の違いと言うものだろう。
「はっ、速い!」
「いいえ、貴方が遅いのよ」
桜子は、峰(と言っても両刃なので、平たい面)で異音を叩き飛ばす。叩くのなら、パージする前の方が、威力が高いのだが、それでは、速度が出なかっただろう。重さと速さを乗算したものがダメージとするなら、重さが高くとも速度の出ないパージ前と重さが軽くとも速度のあるパージ後は、さほど差があるわけではない。ただ、材質の硬さの違いでパージ前の方が、若干威力(と言うより痛み)が強い。
「ガハッ」
「慢心ね。それとも侮り?」
そして、桜子は言う。
「きっと、あなたが『年増』と揶揄した音音さんの方が強かったと思うわよ。『叢雲流』以外にも隠し技があったみたいだし」
異音は、地面に膝をつく。全身がガクガクと震える。
(骨が何本か逝っちゃったかなー)
そんなことを考えながら、思い出す。
(そう言えば、音音のおばさんとやった時は、完全に手、抜かれてた気がしてきたー。うわぁー、最悪だわぁー)
異音は、「ふぅ」と息を吐く。
「強いねー。あんたも、おばさんも」
「ええ。強いわよ」
桜子は、最後まで不敵に微笑んだままだった。




