47話
洞窟には、少女が一人、座って居た。
「やっと来たの?アマリリス」
洞窟に入ってきた少女に向かって声をかける。
「貴方は、朱野宮の補完なのだから、重要なキーの一つなのよ。気を、つ」
それは一瞬だった。深怨の腹には、ナイフが突き刺さっていた。ただのナイフ。魔力収束回路でも魔力伝達回路でも魔力伝達物質でもない、ただのナイフ。だが、深怨も所詮は人間。刺されば、死ぬ。
「あ、貴方、何を、ガペッ」
血を吐き出す深怨。
「分かっているの?わ、私を殺せば、貴方は、死ぬのよ」
「僕が分からずにやっているとでも?それに、僕のことを補完、補完、と言うけれど、君も所詮は、赤羽の補完用の予備だろう?」
所詮、全ては作られたもの。死ぬのは、構わない。そう、アマリリスは思っていた。
アマリリスも、式神である。そして、作り手である深怨が死ねば、アマリリスも死ぬのは当然だ。
そもそも式神とは、式(言霊)によって呼び出すものである。そのルーツは、「緋巫女」。「緋巫女」が、その力を信じさせるために、言霊を用いて、ものを操ったこととされている。そして、式神と言う存在の根幹には、魂の定着と言うものがある。これは、黒減桃悟郎が娘と自分に行った魂を人形に定着させたのと同じ仕組みである。ただ、あれは、言霊ではなく、機械で、同じことをしたのだが。
言霊。言葉には力が宿る。それは、おかしなことではない。人間には、魔力と言うものが存在する。それを、魔力を伝達できるものに乗せられるなら、人間の感情と言う、強い思いに共鳴し、人間の魂に深く携わる声に魔力を乗せられないことは無い。だからこそ、言霊。言葉に霊を宿す、と書く。
そして、深怨が行ったのは、魂の呼び出しと、体への定着。それによって生み出されたのが、紫麗華や朱頂蘭。
では、深怨は、何だ、と言う話になる。
二人は、深怨によって作られた存在だが、深怨自身は、何だと言う話になる。存在しない存在ではないだろうか。しかし、ここで、紅の出身が、大陸の東側で「扶桑」でないという事実がある。そう、確かに、深怨は、「扶桑」の色の予備だが、作ったのは、「扶桑」の力を真似ようとした「東の大国」が言霊呪術で作り上げた存在だ。そもそも、「紅」とは、存在しないものを無理矢理作ったことでできた、人間の偽者に過ぎない。そう、色の予備も、無いものを無理矢理作り、辻褄合わせに、そう言った事情を付け足したに過ぎない。
そして、では、深怨は、いつ作られ、いつからいるのか。
直典の現役時代。それはすなわち、二十年以上前。そして、その時代で同期と言うことは、もっと前から生き続けている深怨。それは、作った人間もそれだけ生きていると言うことになる。それは、ありえることなのだろうか。いや、ありえない。では、紅深怨とは、何なのか。
そして、アマリリスもそこに思考が至る。
「――これはっ!」
眩い閃光が、深怨の死体から放たれた。




