45話
零士は、天を見上げ、そして、地平線を見た。凄まじい光。あれが、誰の魔力かは、零士にしたら、身近で、すぐに分かる。あそこにいくには、魔装空挺で一時間かそこら。どうすれば、あそこまでたどり着くか、少し考える。他の対「死の音を奏でる者」チームメンバーが天に目を奪われている隙に、どうにかして、あの場所に、――師の元へ向かいたい。そして、一つだけ、方法が無くは無いことを思いつく。
「おい、雷華」
顰めた声で、雷華に問う。
「ふぇ?」
呆けた返事が返ってくるが、零士は、気にせず、後の方に引っ張っていく。物影で、息を殺す。
「ちょっ、何をするつもりですの?この緊急時に?」
見当違いの雷華の問を無視し、零士は聞く。
「雷華。あの地平線の外れ、つまり、この大陸の中心までどの位かかる?」
雷華は目をパチクリと見開き、なぜそんなことを問うのかが分からないと言う表情をしながらも答えてくれる。
「私、単体でしたら十分。誰かを担いで十五分。魔装武装を担いだ誰かを乗せて二十五分ほどですわ」
そうか、と頷く零士。そして、「ムラクモ」を背負う。
「二十五分コースで頼む」
「やはり行くのですわね。はぁ。全く、なんと言って良いのやら。無謀、無計画、無責任、三拍子が揃っておりますわ」
そんなやり取りをしていると、厄魔が、雷華の不在に気づいたらしい。
「厄魔。少し届け物をしてまいります。小一時間ほどで戻りますので」
そう言われ、厄魔が振り向いた時には、雷華の姿は無かった。既に、零士を背負って、外へと駆けた後。厄魔は、「仕方ないなぁ」と呟くと、みんなの元に戻った。
◇◇◇◇
雷華に乗せられ、外へ駆け出した零士。振り落とされないように捕まっているのがやっとだった。ただ、上を見上げることはできた。相変わらず、天には、不気味に大きな目がある。しかし、なぜ、あれは攻撃してこないのだろうか。零士は、ふと思慮を巡らせ始めた。あれが蟲である以上、こちらを攻撃するか、地面を無作為に破壊するかのどちらかをやっていてもおかしくはない。なのに、何もしない。あれは、何か目的があるのか、はたまた、まだ、何もしていないのか。零士は、見えてきた紅い光を目にしながら、そんな思考を打ち切った。
「近い」
零士は、雷華から飛び降りる。
「アリガトな、雷華。ここまででいい」
零士の含みある笑みと、近くを迸る紅い光に雷華は危機を感じ、頷いた。
その瞬間、零士から、猛烈な力が放出されたように見えた。
「流石は『漆黒の剣天』。いえ、七色家の一家の末裔と言うところですか」
雷華は、昔、父から聞いた、七つの色の家の話を思い出しながら、そう呟いた。
「行けよ」
零士のその言葉と共に、雷華は、全力で駆け出した。目にも止まらぬ、と言う表現が大げさでないくらいの速度で。
「さあて、殺し合いを始めようぜ。化け物!」
「ムラクモ」を一閃に抜き去る。そして、閃く。叢雲流ではなく、別の技を。
「紫雨流・奥義『時雨の型・片時雨』」
これは、我流ではない。古の流派。魔力を「ムラクモ」が喰らう。そして、紫色の眩い閃光が、天に向かう。それはさながら、雨が逆流するかのような光景。天に橋が架かるような、途方も無い、そんな光景。
そして、それを裂くように、濃紫の斬撃が天を登っていく。斬撃は大きくなっていく。それは、そう、滝を登りきると鯉は龍になる。そして、光の頂にたどり着いた時、斬撃は、化け物と同じ大きさになっていた。そして、化け物の一部を斬り落とした。途方も無く大きな残骸は、そのまま、地へと落下する。
それを、紅い斬撃が、飲み込み、四つに分かつ。
――ズドン。
砂煙と共に、地面に着地したそれは、奇妙にうねって居た。
「零士!」
「音音、か」
予想通りの人物の登場に零士は、あっさりとした言葉を返す。
「貴方、今のは、」
「紫雨流だ」
「紫雨流。そう、古の流派よね。と言うことは、目覚めたの?」
目覚めた。それは、何が。
「七色家の血筋に」




