44話
大きな目。大きな口。最初、人々は、それが何か分からなかった。ただ、太陽を覆い隠す黒い膜が張られたように思えた。ただ、それは違った。大きな、巨大な、そんな言葉では表現できないほどに大きな化け物の目がジロリと地上を睨んでいたのだ。三体の伝説級の異常種の一体、「世喰らい」。「黎明の王」が倒し、もう二度と現れないと言われていた化け物が、再び、天に現れたのだ。
「世喰らい」とは、天を覆いつくす幽賊害蟲。大きさは、もはや、目で分かる域を超えていて、空が隠れるほどに大きい。昔、「黎明の王」と戦ったときは、「黎明の王」の一撃で体の半分ほどが吹き飛び、残りは、全身全霊の大技で、「世喰らい」を島一つごと滅ぼした。その一撃は、星の反対側まで届いたのではないかと言われるほどだ。
「これは、まずいわね」
音音は、上空に巣食うソレを見て、思わず構えを取る。
「音音。あれは、なんだ?」
レオンの問。音音は、ゆっくりと口を開いた。
「『世喰らい』」
「アレが、か?」
レオンは呆然として、剣を取りこぼした。
「なんだって、アレが?」
「そりゃ、深怨に決まってるわ。と言うか、あの娘……いや、年齢は私より上だけど。あの娘以外にこんな真似できないわよ。『緋巫女』の血を継いだ不思議な力の使い手だもの」
音音は、繁々とレオンを見る。レオンの焦った様子を見るのは、音音は初めてだった。
「フフッ、久しくこんな感覚を忘れて居たわね」
音音は、「ユキカゼ」を抜く。
「さあて、あの化けもんと軽く遊んでくるわね」
音音は、呆けたレオンの唇に口付けをして、手を振って行ってしまう。レオンは、呆然とし、音音の背を見送った。
◇◇◇◇
音音は、「ユキカゼ」を強く握った。
「『ユキカゼ』ちゃん。ちょっと、無理させちゃうけど、我慢してね!」
音音の膨大な魔力によって、「ユキカゼ」が震える。
「我流・雪風流・奥義『雪風』」
音音が独自に作り上げた、我流の流派。そして、その奥義。
それは強い風と、冷たい空気を纏った鋭い斬撃が幾重にも竜巻のように飛び交う。
「さて、と、効かない、か」
音音は、にやりと笑う。
そして、音音は、紅く染まる。
「赤羽音音は、ここに、赤羽家の血の契約、第三条を破棄する」
赤羽血の契約。
――一、みだりに力を使わない。
――二、武を捨てない。
――三、「赤羽」の力を封ずる。
――四、三を破りし者、一族から勘当す。
そして、音音は、変わる。髪は、赤く。そして、体中に、紅い羽のような刺青が浮かび上がる。それは、封じてきた、化け物の力。
――さあ、殺し合いを始めよう
音音は、再び、「ユキカゼ」に魔力を込めた。




