42話
「姉だった?」
アマリリスの言葉を受けて、零士は、疑問符付きの言葉を返す。わけが分からなかったからだ。妹が、姉だったと言う事実に。理解が至らない。なのに、なぜか、零士の心の奥底では、それが事実だと言っている。不思議でたまらない感覚。
「そう、姉だったんだ。そもそも、君は、紫麗華が何であったのかを理解しているのかい?君が一歳の頃、彼女が何をしていたか知っているのかい?」
まるでその言い方は、紫麗華が人ではないと言っているようだった。そう思ってしまった。そして、人であるならば、紫麗華は、零士が一歳のとき、生まれていない。では、紫麗華は、何者だったんだろうか。
「紫雨紫麗華……。いや、紫雨と言うのは、彼女の便宜上の偽名。真に紫雨の血を引くのは、君しか残っていないんだけれどね。そう、そして、彼女の本名は、紫藤紫麗華。紫の予備だ」
紫の「予備」。
「予備って何?」
真白の空気を読まない問い。
「予備。それは、色々意味があるが、発端は、紫雨零士の死だ」
その言葉で一同が零士を見る。無論、零士は死んでなどいない。
「正確には、紫雨零士の膨大な魔力を持って生まれたことによる、存在の認識消失。人は、大きなものを見ることができなくなる。それは、感知する者も同じ。そして、紫雨零士は、死んだ、と言うことになった。それで、紫の予備、紫麗華が、生まれた。いや、いつの間にか居た。そして、彼女には、紫雨零士と言う存在を認識できた。そして、彼女は姉として、零士を育て、生かした。その後、彼女は、零士を置いて、消えた。そのときだよ。僕と彼女が出会ったのは。そして、彼女がいなくなって零士がどうなったのか、僕は知る由も無かったけど、赤羽音音に拾われたそうだね。そして、育てられた。一つ聞きたい。君は、彼女と再会する前に、膨大な魔力を放出したことはないかい?あっただろう?」
そして、零士は頷く。
「音音と最終試練をした時、俺と音音の魔力が拮抗しあって、爆発的な魔力が、逆流してきたことがある」
そして、アマリリスは、笑う。
「それによって、また、君は消えたことになった。一時的だけれどね。それが原因で紫麗華は、再び予備として、いつの間にか居たんだ」
「待てよ。結局、予備って何だよ。俺が死んだら、紫麗華が現れるってどう言うことだよ」
「鍵。そう言えば分かるかい?つまり、この世に色の一族が絶えることは許されない。そのための予備だ」
意味が分からなかった。
「その予備は誰が何のために用意してるってんだよ!」
「『零の一』。こう言えば通じるかい?」
思わぬ名が出てきて、零士は硬直する。
「『零の一』って、Sランクの?」
桜子の問いにアマリリスは頷く。
「僕も彼女に……。いや、この話はいいや。まあ、全ての元凶は、彼女さ。『紅』を継ぐ、彼女は、特殊な『フソウ』の『式神』を遣う。紫麗華はその中の一体。古の紫の家系の血で作られた『式神』さ。だから、予備となる」
「なんで、何で、血を絶やしたくないんだ?」
零士が震えた声で聞いた。
「分からない。ただ、おそらく、今回の一件に無関係ではないと思うよ。彼女は、『蟲』を殺すことに拘って居たから」
「つまり、『零の一』も死の音を奏でる者に関わってるってことか?」
「憶測でしかないけどね」
アマリリスはそう言ったが、零士は、ここの中で、お前の憶測が外れたことってあるのかよ、とぼやいた。




