40話
「巨震兵」の出現から数週間。A支部には、非常に平穏な空気が流れていた。結局、「巨震兵」の一件に置いて、零士の意見を尊重し、あの一件を解決したのは「夢見櫓の女王」と「天燐の神鑓者」と言う扱いになった。しかし、あの一件で零士の実力は、支部長の将美には露見してしまったし、そこから芋づる式に佐藤直典には、伝わっているだろう。それでも、なんら情報漏れが無いことから、直典が隠匿してくれていると思われる。それは、零士にとってありがたいことだった。そうして、この平穏な日常のまま、時々蟲と戦うだけの毎日が続く。そう思っていた。とある文章が各支部(確認できた範囲でA、B、C、D)に、送られるまでは。
「我々は、蟲を滅亡させるために、大陸を壊す――『死の音を奏でる者』」
その言葉を発端に、各支部に緊張が走った。そして、今、支部における最強のチームを作り、対「死の音を奏でる者」チームを作ることになった。
蟲の滅亡は、皆の悲願だが、多くの人間を失うことになる。それは避けなくてはならない。だとするならば、「死の音を奏でる者」を止めねばならない。そのために結成する組織だ。そして、そのメンバー決めのために、A支部に四人の支部長がそろって居た。A支部、清水将美。B支部、ラッセル・グレー。C支部、ミッカス・ランカー。D支部、ドルベジ・クラーク。四人は、席につき、長い議論をして居た。A支部副支部長の佐藤直典もそのようすを見ていた。そして、達した結論。
「では、誰を出すか、です」
将美の声に、皆が一様に頷く。
「うちの支部から出せる人員はそれほど多くない。しかし、役に立つと思えるのが、オーラを見ることが可能な橘璃桜。『風林火陰山雷』を持つ椎名厄魔の二名と魔装人形六体だ」
ラッセルがB支部の人員を提示する。二名と六機。八人分だ。
「C支部からは、『特別対策班』と『発明家』トーマス・エジソン程度しか人員が割けない」
ミッカスの提示する人員は六人。
「D支部は、復興も中途半端でのう、割ける人員は、病気療養中のヒレクシア・オルビアのみじゃ」
白い髭を整えながらクラークが言った。
「十五人。相手が何人か分からない以上、もう五人は欲しいな」
ラッセルの言葉に、将美が口を開く。
「こちらから出す人員は、染井桜子、藤堂百合、シルフィー・ラ・マーズ、北園真白の四名と、紫雨零士です」
五名。そして、将美は、直典を見る。直典は、ただ、静かに、一回、頷いた。
「紫雨は、D+と言う評価ですが、実力は、『S』相当。『巨震兵』の一件も、彼の意見を尊重し、別の人の手柄となりましたが、『巨震兵』を倒したのは、彼です。それに関しては、私もその場にいました。それに二人のSランクとの面識。彼は、十分過ぎる戦力だと思います」
ただ、と将美は続けた。
「相手がどれほどの戦力をそろえているかがわからない以上、Sランクでも危ういと言うことです」
それこそ、大陸を潰すというほどの戦力だ。Sランクが何人そろったところでそんな芸当は不可能だ。だからこそ、恐ろしい脅威を感じる。
「だからこそ、私は、あの方をお呼びするべきだと」
「あの方、とは、もしかして」
目ざとくミッカスが反応する。
「はい。『零の一』。あの方なら、この危機を予知していたとしてもおかしくはありません」
「ふむ、それは一理あるが、あの方の行方は、不明だ」
その通り。Sランク『零の一』は、現在行方不明だ。それに、行方が分かったところで了承を得られるかも分からない。いや、おそらく得られないだろう。それを将美はわかって居たのだが、将美は、言う。
「しかし、あの方以外に、この現状を打開できる手立てがないんです」
「まあ、確かにそうだ。それは分からないことではない」
ラッセルも頷く。しかし、ラッセルは言う。
「だが、あの方は、決して戦わない。ましてや対人戦ならもっと」
そう、『零の一』は戦わない。そう言われている。
「あの祈祷術は、かなり凄いのだが」
「紅さんは、めったに出てこないはずです」
直典の言葉。直典は「零の一」と面識があった。
「流石は、『先駆者の賢人』。同期でしたな」
先駆者と言うのは、先駆けの者。直典もかつては、凄腕だった。そして、その彼の世代に、最高峰の力を持つ女が居た。それが「one is zero」。
「我々は詳しく把握していないのだが、その、『零の一』の力とは何なんだね。祈祷術ではないと聞いたが」
「『零の一』は、彼女の技の一端の名称にしか過ぎない、と昔言っていましたが、詳細は分かりません」
そう、「零の一」は一端と言っておきながら、他の力を使用しない。それゆえに、誰も「零の一」以外の力を知らない。
「そう言えば、一度だけ、彼女が『horizon』と言う技を使って居たことがありましたが、効力は分かりません」
直典には、それが何をもたらしたかを理解できなかった。強いて言うなら何も起きなかった。それ以降、彼女が戦いの場に出なくなってしまったことで、結局、彼女とは疎遠になってしまったので、直典には、それがなんだったのかは知る術が無い。
「ホライゾン。地平線。昔の言語の一つだが、今の言葉に当てはめても意味が分からないな」
ラッセルが意味を考え唸る。
「いや、いくら考えても仕方ない。それにいない人間を勘定に入れても仕方ない。ここは、先ほど上げたメンバーでどうにかしてもらうしかないな」
「ええ、では、全員、A支部に集めてください。と言っても、ほとんどが今、この支部にいます。集める人数は少ないでしょう」
とは、言ったものの、A支部にいるのは、七人。十二人が別支部だ。
「ふむ、すぐに連絡を入れて、連れてこよう」
そう言うと、支部長は、各自動き出す。将美は、支部内放送で呼び出す。
「緊急呼び出し。紫雨零士、染井桜子、シルフィー、橘璃桜、黒減清華、アリス、熾神裕騎。支部長室に集合」
そして、動き出す。全てが。
――ホライゾン――。古代ある国の言葉で「境界」を意味する。それは、何の境界だろうか。善と悪。天と地。神と人。人と蟲。
境界が傾く時、世界に一体の「化け物」が蘇る。黄泉から還る。生と死の境界の狭間より「この世」を「喰らう」化け物が……。




