39話
藤堂百合の災難――短編(後編)
「グリッター」を貰った翌日。歩いていた百合に突如手袋が投げつけられた。シルクの白い手袋は、昨日のものと同じだ。
「と、とと、藤堂百合!なぜ!昨日来なかったのですか!」
「え?場所も時間も言われなかったし」
だから、行けなかった、と百合は言った。相手の少女は、膝をついて四つん這いになって、メソメソと泣き出す。その行為自体は、百合にとってどうでもよかったのだが、あのままでは、少女のパンツが顕わになってしまうことに気づき、百合は、少女に言う。
「それで、どうするの?決闘するの?」
百合の言葉に、少女は、バッと立ち上がった。
「決闘ですわ!私、シェリー・グラスは、藤堂百合に決闘を申し込みます!」
厄介そうだ、と百合は思った。
C支部特殊教務棟訓練場「コロッセオ」。一対一の真剣勝負のためにある訓練施設。古の闘技場を真似て、作られている。ここで、決闘を行うのだ。
「あ~、なんだか良く分からないけれど、何で、私と?」
「ふんっ」
相手は、完全に無視を決め込んでいる。百合は、深い溜息と共に「グリッター」を抜く。
「行きますわよ!」
鐘が鳴る。それと共に試合が始まる。相手、シェリーの武器は、魔装大剣。元来、百合も魔装大剣を使っていたのだが、今は、魔装太刀・「輝き」だ。
「ハァア!」
大剣を上段から、一気に切り落としてきた。それを、僅かに魔力を込めて、防ぐ。はずだった。
――ガラン!
大剣の刀身が斬り落ちた。
それに、シェリーは驚愕する。百合も驚愕する。込めた魔力は、僅かなのに、魔力の伝わっている量が十倍近い。だからこそ、魔装大剣をも切り裂けた。
「なっ、ななっ、なななななな、なんですの!その魔装太刀は!」
「これは、トーマスさんの手製の、『グリッター』」
百合がトーマスの名を出した瞬間、シェリーの顔が蒼白になる。
「と、とと、トーマス。ってことは!あの『殺戮兵器造り』のトーマス・エジソンの新作!!!」
「殺戮兵器作り」や「稀代の天才」、「発明馬鹿」などの不名誉な称号を多く持つトーマス。トーマス・エジソン。彼女の家系は代々発明職で、「無線機」を発明したのも、彼女の家系の人間だ。
「そ、そんなものを使いこなせるなんて、私の負けです」
膝をつくシェリー。
「いや、私もコレの力、知らないし使いこなせてないから」
などと百合は言うのだが、シェリーは聞いていない。ぶつぶつと呟き始めた。
「ユリア姉さまが藤堂百合……、いえ、百合様にはまる理由が分かりましたわ。これは、この人こそ、私の、私の!」
百合は悪寒が背筋に走った。
「百合様!決闘など申し込んで申し訳ございませんでした!」
「え?ええ?」
「な、なな、なので!そのわ、わわ。私と姉妹の契りを交わしてくださりませんか!」
はい?と百合は首を傾げる。百合には意味が分からなかった。
「私のお姉さまも夢中になってしまった理由がわかりましたわ!是非お願いします!」
シェリーの尊敬する姉、ユリアも「百合姫の会」の会員で百合に夢中になっている。それに腹が立ち、百合に決闘を挑んだ、と言うのがことのあらましだったのだ。
「さあ、契約のキスを!」
「しないわよ!」
百合はダッシュで逃げた。すると闘技場をでた先には、「百合姫の会」のメンバーが。
「あっ、百合様よ!」
「本当、百合姉さま!」
百合は、心の中で叫ぶ。
(零士先輩!助けてください!!)




