38話
藤堂百合の災難――短編(前編)
藤堂百合は、C支部に居た。理由は簡単、交換派遣だ。当初、百合は、最初、零士と離れるのが嫌で、交換派遣を拒否していたのだが、他にいけるものも無く、上からの命令で、仕方なく交換派遣に応じた。そうして、百合がC支部に来てから、数日が過ぎた。しかし、共に来た、リーヴァは、早々に昔の知り合いを見つけ、そちらでグループを形成してしまい、百合は、独りぼっちになってしまった。
これは、そんな藤堂百合のC支部で起きたことを語るものである。
C支部には、いくつかの派閥が存在している。その派閥の中の一つに「百合姫の会」と呼ばれるものがあった。
派閥と言うものは、組織とは違い、コミュニケーションや生活などを共に過ごしているグループのようなものである。
そして、その「百合姫の会」とは、所謂、「女性同性愛者」のコミュニティである。ひょんなことから、名前だけで、その「百合姫の会」に目をつけられてしまったのである。
「藤堂さん。今日こそ、わたくし達とお茶をしていただけませんか?」
「いいえ、今日は、わたくしとお茶を楽しみますのよ!」
百合を引っ張り合って喧嘩が勃発するほどである。
「あ、あの。私は、今日も一人がいいんだけど」
百合は断るのだが、もはや百合の話など聞いていない。
「わたくし達とお茶をご一緒していただけますのよね!」
「わたくしと、ですわよね!」
百合は、もはや、諦めた顔で、深い溜息をつく。
C支部に来てから、出撃など一度も無い。なぜならば、全て、先に、見回りにでた「C支部特殊対策班」が片付けてしまうからだ。そのため、百合は、ずっとこのようなおもちゃ状態になってしまっているわけなのだが。
「藤堂百合!貴女に決闘を申し込みますわ!」
それがどうしてこのような状況になったのかは、百合には分からない。いきなり決闘を申し込んできた少女の名前を、百合は知らない。面識も無いはずだ。百合にはよく分からないまま、手袋を投げつけられただけである。
「え?あの、どうして?」
百合は困惑のまま問いかけるが、相手は、憤慨して、駆けていってしまった。そして、また、百合は、深い溜息をつくのだった。
「場所も時間も言われてないんだけど、どこでやるの……」
百合は、己の魔装武装を手に、「装備棟」に向かう。「装備棟」とは、A支部には無い、魔装武装の販売、改造、整備、修理などを行っている棟だ。
「いらっしゃい。あんた、噂の藤堂さん?今なら格安にしとくよ」
声をかけてきた油くさい少女は、汚れた白衣を着ていた。手入れをしていなさそうなボサボサでゴワゴワしていた。服もところどころ破けているし、汚れが目立っている。職人気質と言うのか、没頭指向と言うか、自分の身形を気にせず、魔装武装のためだけに生きているように見えた。
「えっと?」
「ああ、あたしは、トーマス。ここの武器改造担当だよ」
トーマスと名乗る少女は、スパナやドライバーを入れることのできるポシェットを腰に下げ、目に付けて居たゴーグルを頭の上に上げる。
「その武器、見せてみなよ」
百合の武装を半ば強引にひったくると、台の上に、置いた。
「これは、ノーマルタイプの武装だね。藤堂さん?あんた、銃、剣、どっちがいける?」
「剣、かしら」
百合の短い答えに、トーマスはにやりと笑った。
「ちょっと、ベースから改造するよ。あんたは、そこの椅子に座って待ってな」
トーマスは、ポシェットからドライバーを取り出す。プラスドライバー、マイナスドライバーのような一般的なものから六角ドライバー、スクエアドライバー、トライウイングドライバーのようなマイナーなドライバーまである。部屋には、また、スパナ、ニッパー、ラジオペンチ、ウォーターポンププライヤ、電工ナイフ、ヤスリ、バールまである。……バールは必要ないと思うのだが。
「刀身は、『藍色』の魔力伝達物質で形成するってのが面白そうだ」
トーマスはマッドサイエンティストさながらの笑みを浮かべ、魔動ドリル(魔力で動くドリルのこと。この時代では、電力よりも魔力のほうが主流)とドライバーを駆使し、大小さまざまな螺子を瞬く間に外していく。数分にして、魔装武装が丸裸になった。
「さって、やっすい駄金属から、高質な魔力伝達物質に変えちゃお♪」
ノリノリで部品交換するトーマスに、百合は聞いてみる。
「あの?」
「ん?なに?」
「魔力伝達物質の刃って、たいてい黒か紺、藍色じゃないですか。何でなんです?」
百合の疑問に、トーマスは、部品を交換するのに、悪戦苦闘しながら答えた。
「ん~。別に、それ以上が無いわけじゃないけど、純度の高い魔力伝達物質は、あらかた掘り終えちゃったから。もうなんも無いんだよ。だから、純度の劣る黒、紺、藍の色なんだよ」
魔装武装自体に、使われるケースが稀な魔力伝達物質の中でも、黒以上のものは、稀少だ。そう考えてから、百合は、ふと思い出す。
「えっと、じゃあ、紫の魔力伝達物質って珍しいんですか?」
百合の何気ない質問に、トーマスの手が止まった。
「今、何て?紫?」
「え、まあ」
トーマスの驚愕の表情に、百合は、思わず、慄いた。
「紫って、このカラーコードのどの紫!」
色と数字と名前が書かれた表を渡される。トーマスの剣幕に押され、百合は、確認を始めた。紫色にも複数ある。
深紫。1364。
青紫。1363。
真紫。1362。
赤紫。1361。
紅紫。0026。
どれが近いといわれると零士の「ムラクモ」は、紅紫に一番近いだろう。そう、紫と言うよりは、薄紫。そして、赤紫。
「紅紫ですけど」
「紅紫……!藤堂さん!その魔装武装、どこで!!」
大きな声に驚く百合。それに食いかかるように、言い寄るトーマス。
「え?わ、私の憧れの人が使っている魔装太刀に」
「魔装太刀?!ムラクモ!」
突如、嬉々としてトーマスが語りだす。
「様々な偉人が使ったとされる伝説の魔装武装!その例として挙げられるのは、かの『黎明の王』!武人『桃咲刹螺』!超人『赤羽音音』!神童『漆黒の剣天』!その途方も無い魔力を受け止めきれる最高峰の魔力伝達物質で作られた刃!古の製法で作られた刀身は、『フソウ』の熱して延ばして折りたたむことを繰り返して作られた強靭なもの!元のカラーコードで言えば、白桜――0001。その超高純度で世界最高の魔力伝達物質を繰り返し折って延ばすことで、魔力伝達物質の純度は少し落ちたけれど、元のキャパシティは健在!膨大な魔力に耐え、膨大な魔力を伝え、そのときには、元の白桜色を取り戻すといわれている!あたしたち技術屋にとって、一度は見てみたい!そんな『ムラクモ』が!」
カラーコードとは、色と魔力伝導率を即座に見分けるために一覧表のことだ。数字が小さいほど魔力伝導率が高い。紅紫だけ以上に伝導率が小さいのは、白桜を、折って延ばして、繰り返した結果の色だからだ。
「それがA支部にあるのか!いやぁ~、A支部にいきてぇ!」
そんなことを語りだす。
「おっと、武装を作るのを忘れてた!」
トーマスは、武装の改良、と言うよりは、開発、に戻った。
そして、出来上がった武装は、元とは全く違う形になっていた。
「あ、あの」
「料金は取んないよ。あんたのおかげでA支部に『ムラクモ』があるってことが分かったからな」
そう言って、トーマスは、新しい武装の解説を始める。
「まず、魔力伝達回路。本来は、魔力伝達物質を利用しているから必要ないんだけど、これに関しては、あたしお手製の、魔力伝達効率向上回路を利用してるよ。従来のものだと、伝達回路を開くのにも魔力を割いていて、あまり効率がよくなかった。でもあたしのものの場合、少ない魔力で魔力の通り道をつくり、膨大な魔力を流しやすくするようにしたんだ。それを二つ連続でつなげた。これで、かなり使いやすいはずだよ!」
分かりにくい説明だ。これに似た原理のものがあるので、詳しいことは「トランジスタ(FET)」や「ダーリントン接続」と調べてもらえれば分かるだろう。要するに魔力の流し方を変えることで、少しの魔力でも、今までの魔力量より多くの魔力が魔力伝達回路に流れることになる。
「は、はぁ」
百合はよく分かっていないようだ。
「と言うわけで、試作品!名称は、そうだね。『グリッター』でどうだい?」
「え、ええ」
とりあえず百合は頷いた。
続く




