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紫天の剣光  作者: 桃姫
第四章
37/57

37話

ソメイヨシノ――短編

 これは、少し前のこと。まだ、大陸の東側が夏になる前。爽やかな風が流れる、春のこと。零士は、桜子と共に居た。居る場所は、A支部から少し離れた山中である。無論、蟲と遭遇することも考えて、武装は持ってきている。

「ねぇ、零士。どこいくのよ?」

 桜子が息を切らせながら問う。元々体力の無い桜子である。病気が治り、訓練をして、体力が向上しているとは言え、そこまで体力があるほうではない。ましてや、かなり重量のある魔装銃剣・「ミストルティン」を背負った状態だ。足場の悪い山中では、流石に息を切らす。まあ、零士は、流石と言ったところか。息切れどころか、汗一つかいていない。

「あ?どこでもいいだろ?」

 零士は、桜子を置いて、スイスイと登っていく。と思いきや、戻ってきた。そして、無言で、「ミストルティン」を担いだ。零士も魔装太刀・「ムラクモ」を持っているので、魔装武装を二つも持つと、かなりの重量なはずだが、零士は、あまり気にしていない。

「置いてくぞ」

「あっ、ちょっと」

 さっさと歩く零士を、桜子は慌てて追いかけるように、歩く。

(もう、いつもそうなんだから)

 桜子は、心の中でそんな風にぼやきながら、微笑んだ。


 歩くこと、数分。山地の一番上に、それはあった。悠然と咲き誇る。

――桜の木。

 そう、大桜。聳え立つ桜からは、ピンク色の小さな花びらが、ひらひらと舞い落ちていく。そして、その花びらが積もる様子は、雪が降り積もるようであった。

「凄い……」

 それ以上の言葉が出なかった。感動の言葉だけ。

「この樹。ソメイヨシノってんだって」

 零士の言葉。「染井」と言う言葉が入っている。

「染井、ヨシノ?」

「そ、桜の樹だ」

 桜。それを聞いて桜子は思い出す。子供の頃の記憶を。


 幼少期。

「なあ、桜子?」

「なあに?零士」

 そこは病院の一室。

「桜って知ってるか?」

「さくら?」

 疑問符を浮かべる桜子に、零士は、得意気に言う。

「桜ってのは、薄紅の綺麗な花を咲かせる木なんだよ」

「へ~、そうなんだ~」

 目をキラキラと輝かせる桜子。

「そうだなぁ~。そうだ!お前が退院して、体力がついたら見に行こうぜ!」

「うん!約束だよ!」

 指切りを交わす二人。


 そんな懐かしい記憶が蘇る。

「ねぇ、零士。覚えてて、くれたの?」

「ん?ああ、まあな」

 二人は、肩を寄せ合い、桜を眺めた。


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