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紫天の剣光  作者: 桃姫
第四章
36/57

36話

コーヒーショップ――短編

 これは、いつのことだったか。零士は、A支部に隣接する街のコーヒーショップで暇を潰して居たときのことだった。

 そこは、極普通のカフェテリア。軽食を食べたり、コーヒーを飲んだりするのには適している。まあ、東側(このあたり)では、コーヒー豆よりも茶葉の栽培の方が主流のため、コーヒーよりもお茶類の方が多いのだが。零士は、基本的に、お茶よりもコーヒーを飲む。それもブラック。零士がコーヒーを飲むようになったのは、D支部に行ったときに、オルビアとカフェテリアで飲んだのがきっかけだった。初めて飲んだときは、苦いという感想しか抱かなかったが、だんだん、そのうまみが分かってきたらしい。

 そう言うわけで、暇を潰すついでに、コーヒーを飲みに来た零士だった。普段の、A支部内で着ている制服ではなく、黒いパーカーに、ジーンズと言うラフな格好。まあ、制服では堅苦しいし、住民から「何サボってんだ」と白い目で見られるからである。

 注文したコーヒーが届き、本を片手に、優雅にコーヒーを飲んで居た。休日の午後の過ごし方としては、とてもいい過ごし方だろう。しかし、今は、普通に知力指導の時間だ。平日の昼間から、このような過ごし方はいかがかと思う。まあ、零士は、周囲の目など気にしないのだが。しかし、平日の昼間とは言え、カフェテリアには、何人か、人が居る。主婦達が井戸端会議に花を咲かせて居た。他にも、遊びに来ているカップルや女性達がちらほら。しかし、その人たちの目線は、零士にいってしまっている。本を読んでいて、零士は気づいていないが、優雅に読書をしながらコーヒーを飲む様子は、随分と様になっている。もっぱら話題の的になる。

 そして、一杯、コーヒーを飲み終えたところで、もう一杯、コーヒーを注文する。

「ご注文は、何になさいますか?」

「コーヒーをもう一杯頼む」

 零士は、本に目を落としたまま、形式的に受け答えする。

「は、はい。コーヒーですね。かしこまりました」

 店員は、零士の方を何度か見ながら、少し頬を朱に染めて対応をした。店員も見惚れるほど、様になって居たのだ。まあ、店員が年頃の女子で、交際経験がない生娘だったのも要因の一つだろうが。

 そして程なくして、店員がトレーにコーヒーを持って零士の席に持っていこうと、運ぶ。そのとき、急に、窓ガラスが割れる。

 なぜか、一人の男が、カフェテリアに突撃してきたのだ。いや、投げ込まれてきた、か。どうやら、外で喧嘩があったらしい。しかし、そんなこと零士にとっては、どうでもよかった。店があれても、それは、店の損害だし、店の責任だ。だが、零士は、頭にきていた。それは、ガラスが割れるのに驚いた店員がトレーを落として零士のコーヒーが全て零れたせいだった。

「おい」

 思わず、声が出た。周りからどよめきの声が上がる。このような非常時に勇気がある、と思っての喚声だった。だが、零士にとっては、周りのどよめきなど関係ない。

「なっ、なんだよ!」

 投げ込まれた男が、怒鳴り声を上げる。しかし、零士は、睨みつける。

「なっ、なんなんだよ……。邪魔すんな!なんだよ、その目はよ!」

 男が怒鳴り散らし、その声に、喧嘩をしていた不良たちが群がってくる。

「お~い、なんだよ。このクソは。なんですぁ?店を壊した俺たちに文句言ってきて正義の味方のつもりですかぁ?」

 馬鹿にしたように、言う。ただ、零士は動じない。

「テメェらが店壊そうが、人を殺そうが、そんなことはどうでもいい。俺には関係ない」

「じゃあ、何だってんだよ!」

 不良たちの怒鳴りに、零士は言う。

「俺の注文したコーヒーを零した」

「はぁ?」

「だから、テメェらが乱入してきた所為で、そこの店員が、俺のコーヒーをぶちまけやがったんだよ。弁償したら、俺は、無干渉だ」

 あくまで、(零士の感性で、だが)友好的に話しかけた。

「何分けのわかんねぇこと言ってんだよ、カス!」

 男が殴りかかってきた。それを零士は、片手で掴み取って、足をかけて、転ばせる。男の転ぶ、その先には、男たちがばら撒いてしまったガラスとコーヒーがある。

「わぁあ!」

 慌てて、手をついて、横に転がって、大事には至らない。しかし、そのまま突っ込んでいたら、重傷だっただろう。

「な、なにしやがんだよ!」

 男の喚き声をものともせず、足で蹴り上げる。壁の際まで吹っ飛ぶ男。気を失ってしまっている。

「テンメェ!よくも!」

 不良たちが六人、零士に群がってくるが、全て、軽くのしてしまう。

「まったく、なんだったんだよ、こいつら」

 軽くのした後、警察が来て、不良達を回収していった。零士は、そ知らぬ顔で、自分で入れなおしたコーヒーを席について飲んで居た。


 軽く数十分が経過した頃、店内も落ち着きを取り戻して居た。そして、店員が、零士に話しかけてくる。

「あ、あの」

 丁度読み終えた本を閉じ、顔を上げる。

(か、かわっ……)

 可愛い。そう思ってしまった。整った顔立ちに、朱に染まった頬。そして、零士は座っていて、彼女は屈んでいるため、胸元が緩んで見えている。その奥に見える谷間と黒いレースの下着。近距離ゆえに、ドキドキしざるを得ない。

「なっ、なんだ?」

 どもる零士。

「あっ、あの。先ほどは、助けていただきありがとうございました。わ、私、月見里(やまなし)零佳(れいか)です。そ、その、」

 一方、零佳もどもる。

「わ、わた、私」

 と、何かを言いかけたとき、チャイムの音が響く。店にチャイムの音が響くのは珍しいが、宅配の荷物などだろう。貨物は、支部に他支部から輸入され、各、近隣の街に配布される。取り逃しが無い様に、きちんとチャイムを鳴らすことができるようになっている。

「は、は~い。す、すみません。少し待っていてください」

 零士に断ってから、零佳は、荷物の受け取りに行く。

「あっ、手紙、ですか。はい、ありがとうございます」

 郵便員から手紙を受け取ったようだ。送り主の名を見て、顔を綻ばせる零佳。その顔は、とても愛らしいものだった。

 スタイルもよく、顔もいい。これでは、男達が放っておかないと思うのだが、零佳に言い寄るものはいない。色々理由はあるのだが、その一つがこの、手紙だった。

「おばあちゃんからだあ~」

 ほほえましく、喜ぶ零佳。

「おばあちゃん?祖母か?」

 零士の問いに、零佳は、慌てて「ハッ」となる。

「え、ええ。はい。じ、実は、D支部の近くにある街で喫茶店を開いている祖母が居るんです」

 その言葉に、眉を寄せ、そして、月見里と言う苗字とD支部。それで、零士の中で、ウ色々と繋がる。

「ん?あっ、ああ。ってことは、なんだ?あのババア、まだ生きてんのか?確か、前あったのが六年前で九十四ってことは、今、百歳かよ!」

 零士の思わず出てしまった言葉に、零佳が「え?」と驚く。まあ、零士にしてはうかつだが、この時代に百歳まで生きる、と言うのは、それほどに驚くことだった。

「え?あの、おばあちゃんをご存知ですか?」

「ん?あっ、ああ。月見里しほりだろ?『ハルキュオネ』って喫茶店の」

 零士が、オルビアといった喫茶店の名前とそこで知り合ったオーナーの名前だ。

「お、おばあちゃんのことを、なんで?」

「あ~、昔、あったんだよ。『ハルキュオネ』でよく話したっけ」

 そう言って、懐かしむ零士。

「え?ってことは、D支部に行ったことが?」

「まあな。六年ほど前に」

 零士は、こと無さ気に言ったが、六年前、十数歳で他の支部に行くのはめったに無いことである。

「それで?返事はどうするんだ?」

「え?」

「手紙の返事だよ。手紙の」

 零士は、言った。零佳は、首を横に振る。

「私、お金が無くて、A支部に配達を頼もうにも難しくて。おばあちゃんのほうはかなり繁盛してるみたいだけど」

 零士は言う。

「じゃあ、ほら、今すぐ返事を書けよ。俺が金もだしといてやる」

 零士は、笑った。

「懐かしい思い出を思い出させてくれたお礼だよ」


 それから、零佳は手紙を書き、零士に渡した。

「あ、あの。ま、またのご来店をお待ちしております!」

 零士は、背を見せながら、片手をひらひらと振って、店を後にした。


 その数日後、店の改装資金に、謎の人物から多額のお金が送られてきた。そのおかげで、店は、無事再開。零士も時折、遊びに来ているそうだ。


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