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紫天の剣光  作者: 桃姫
第三章
33/57

33話

 落ちてくる足に、桜子たちが恐怖を感じる中、それは突然起こった。

「叢雲流・奥義『天之羽々斬(あめのはばきり)』!」

 真っ白な光が、二閃に別れ、足を斬り飛ばす。その光景に、皆が息を呑んだ。

「■■■■■!!!」

 なんとも言いようが無い、言語として理解できない鳴き声を聞き取った。それはまるで叫び声と言うより、歓喜の声だった。

(キラ。キラ!キラなの!)

「あ~、ったく、悪いな、黄羅さんとやらじゃなくてよぉ~!」

 零士の声に、桜子たちは疑問符を浮かべたが、助かった笑みのほうが上に出た。

「む、紫雨!た、助かったわ」

 将美の驚きの声。零士は、バツの悪そうな顔をした。将美も居るのか、と内心で、フードをかぶっていないことに、いらつくが、今は、そんなことは言っていられない。

「まったく、タイミングがいいんだね。君は。あと少し遅かったら、僕が、奥の手を使っていたかもしれない」

 アリスの言葉に、零士は、やれやれと、肩を竦めた。

「まったくもって、五月蝿い蟲だよ。キラキラと、ね」

 アリスも、「巨震兵」の言葉が聞こえていたらしい。彼女が、戦わなかったのは、この声のせいで、気分が優れなかったからだ、と零士は後に聞いた。

(キラじゃない?だけど、斬られた)

「黄羅。まさかとは思っていたけど、やはりそう言うことなのかい?」

「つくづく頭が回る奴だな。たぶんそう言うことだろうぜ」

「だとしたら、死んだ人間を探していた。なんとも悲しい蟲だろうね」

 アリスの知能は、凄いらしい。分かっているのだ。キラの素性を。

「さっきから、キラ、キラってなんなの?」

 将美の質問に、零士は答える。

「あの蟲が言ってんだよ。キラ、キラって」

「はぁ?」

 将美は思わず声に出してしまったが、他の面々も、同じような顔をしていた。

黄羅(きら)。こう言った方が分かりやすいか?『黎明の王』って」

 そう、「巨震兵」は、「黎明の王」の時代の害蟲。「黎明の王」を知っていてもおかしくはない。おそらく、「巨震兵」を眠るように説得したのだろう。「起きたら、殺してやるから」とでも言って。そして、「巨震兵」は永い眠りについた。その間に、「黎明の王」は、死んだ。

(キラ、キラじゃない!どっちでもいい!早く、早く殺して!)

「ああ~、はいはい。とっとと殺してやるよ!」

 零士は説明を途中で打ち切り、「ムラクモ」を構えなおした。

「お前等、巻き込まれるなよ!」

 そう言って、零士は、全ての魔力を「ムラクモ」に注ぎこんだ。それは、まるで、「ムラクモ」が歓喜の声を上げるがごとく、轟々と魔力を飲み込んでいく。いや、圧縮していく。

「喰らい尽くすぜ!!!」

 そして、「ムラクモ」が、明るい、紫の光を帯びる。ギュルギュルと、魔力収束回路が、壊れる勢いで、魔力を集める。ガタガタと刀身が揺れる。「ムラクモ」でさえ、耐えかねている。それほどの魔力を注ぎこんだ一撃。

「叢雲流・終義『紫雨太刀(むらさめだち)』」

 天へと光が放たれる。

「雨?」

 誰かが呟いた。そう。驟雨が振り出したように見えた。だが、それは、次第に強まる、雨は、いつしか暴雨へ変わる。そして暴風雨に。それは、魔力の斬撃の雨だった。その辺り一体に降り注ぐ、天からの攻撃。それは、徐々に「巨震兵」を切り裂き、そして、目の前が見えなくなるほどに、降り注いだ、そのとき、断末魔が響く。

「■■■■□■!!!」

(ありがとう。キラに似た人)

 そうして、雨は止む。「巨震兵」の居たところは、地面が抉れたように、何もなくなって居た。その空間がまるごと消えたような錯覚すら覚える。

「振り落ちる斬撃。紫の雨。まさしく、『紫雨』。さすがは、『紫天の剣光』だよ」

 パチパチとアリスが拍手をする。それを皮切りに、緊張感が途切れたのか、皆が地面に座り込んでしまった。

「相変わらずね、零士ちゃん。それにしても今のは、初めて見るわね~」

 詩春が、ほのぼのと言った。

「俺も見たことがないな。最終奥義みたいなものか?」

 王深が、話に入ってくる。昔懐かしき、三人での会話だ。と、言っても、それほど昔、と言うわけではないのだが。

「ま、待った。む、紫雨。あ、ああ、あんた、この人たちと普通に知り合いなの?」

 将美は大変慌てていたが、零士は、もはや、将美などどうでもよかった。

「ああ、まあ、知り合いだ」

 適当に受け答えする。零士と「漆黒の剣天」が同一人物であることは、伏せるようにしているので、別に、「漆黒の剣天」で在ると言わなければいい、と零士は、自身の中で妥協した。

「紫雨零士。C支部の特別対策班でつけられたターゲットネームは『紫天の剣光』。魔力、知力、体力。全てにおいて、D+を獲得しているが、その実力は、幼少の頃から如実に見られていた。そのため、彼は、本当は強いが、弱いフリをしているという結論に僕らは至ったんだよ。そして、推定魔力量は、Bランクを基準にしたときの平均の四百八十倍。知力も年齢のせいで多少劣るが、一般人よりも詳しい。体力にいたっては、普通のトップランカーたちに並ぶほどはあると思うよ。そこで提案だけれど、上に申請さえ通れば、君を、Sランクにできる。そう、通称は僕らが決めたターゲットネームの『紫天の剣光』を使ってくれて構わない。アレを一人で倒したんだ。証人はいくらでも居る。だから、簡単にSランクに認定されるだろうね」

 長々と語るアリス。アリスの言葉には一理ある。しかし、Sランクに認定されると、移動が多くなって面倒だ。零士は、それを「漆黒の剣天」時代に散々経験していた。

「断る。面倒だ。俺は、ここで、剣を握ることにしたんだ。色んなところにいくのは面倒だしな」

 アリスは、「まあ、そう言うと思ったよ」と肩を竦めた。

「えっ、ちょっと待って。紫雨って、ただの馬鹿じゃなくて、馬鹿のフリをした天才だったの?」

 将美の驚きの言葉。言い得て妙だが、微妙な表現だ。

「あ~、まあ、要するに、そうっす」

 適当な零士の答えに、呆気に取られる将美。そして、その視線は、桜子に移る。

「そ、染井さん。貴方、知ってたんでしょ?」

 桜子の申し訳なさそうな顔に、将美は深い溜息をついた。何か馬鹿らしくなった。

「はぁ、もう、どうでもいいわよ。とりあえず、支部に戻りましょう。倒したんだし」



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