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紫天の剣光  作者: 桃姫
第三章
32/57

32話

 流れが、変わった。桜子は、それを確信した。着実に、メンバーが揃ってきた。「風林火山」。その全員が、流れを変えた。強い。強かった。その一撃で、地を割り、向こうの一撃を跳ね返し、相手を惑わす速度と影。それらは、圧倒的だった。そして、それを一人で操る青年・椎名厄魔。彼の操作があってこその彼女達の強さだと、桜子は分かっていた。

 しかし、それでも決定的な一撃にはならない。倒せない。同等の火力はある。防ぐこともできる。しかし、止めがさせない。

――そう、桜子たちでは、殺せない。

 どのくらいの攻防が過ぎたのか。空は、次第に暗くなる。日が落ちようとしていた。長い戦いだ。かれこれ、一時間になるのではないか。いや、体感だともっと長いことだろう。それは、次第に、体に、精神に、疲労を溜め込んでいく。それが、圧し掛かってくる。「風林火陰山雷」は、なまじ人間の魂を使っているがゆえに、精神的疲労は、人間が感じるそれと同じだ。そう言った面では、普通の魔装人形に比べ、劣っている。

 そして、その疲労がピークに達し始めた、そのとき、不思議な感覚が、周りを支配する。まるで、靄が世界を包むように。なぜか心が和らいだ。

「さて、と、な~んとか間に合ったかな?」

 聞き覚えのある声。その声に、璃桜が声を上げる。

「詩春さん!」

「璃桜ちゃん。何とか間に合ったかな?」

 そして、その後から、乱雑に茶髪を切りそろえた青年が現れた。二人に続くように将美も居る。

「つーわけで、私が、わざわざ、『夢見櫓』を張ってあげたんだから」

 夢見櫓を張る、と言う意味を理解できたのは、王深だけだったが、まあ、この言葉は、王深に向けたものだ。他の者に理解できようができまいが関係ない。

「がんばってちょーだい!」

「あ~、面倒だな~。やりたくねぇな。動きたくねぇな。歩きたくねぇな。武器重めぇな」

 ものすごく面倒くさそうに、鑓を構えた。

「兄さんの病気がでてる!」

 裕騎が叫んだ。病気、では無いのだが。王深はやる気が無い時がある。それを病気と称しているのだ。

「あ~、はいはい。やるよ。やりゃぁ~いいんだろ」

 そして、鑓を、投げた。

――ヒュン!

 そんな空気を裂く音と共に、「巨震兵」に鑓が、突き刺さる。そして、その周囲が破裂した。

 だが、それは、たいしたダメージではなかった。

 王深は、まずい、と思った。精一杯の攻撃だったが、あれがさして効かないとなると、彼にできることはない。鑓も投げてしまった。

              ◇◇◇◇

(ダメだ。これじゃあ、死ねない。早く。早く!早く!!)

 そんな声を、脳に、感じながら、零士は、走った。全てが繋がった。時間に余裕など無かった。いつもの上着も着ていない。だけれど、そんなことは、微塵も気にしなかった。音音に言いつけられたこともあったが、それすら、頭の隅に追いやって、走り抜ける。零士の考えがただしければ、キラ、とはあの人のことだ。そして、この声は、――。

 遠方、されど先ほどよりはよほど近づいたところで、破裂音がする。

「王深か!」

 零士は、旧知の仲間を心強く感じつつ、背中にかけた「ムラクモ」をいつでも抜けるようにしていた。

 そして、声も強くなる。

(少し痛かった。でも、これでも殺せない。早く、早く!殺してくれ!!!キラ!!!!)

 その脳が弾けるかと思うほどの声で、確信する。この声の主は、「巨震兵」だ。そして、「巨震兵」が、何かを殺せないのではない。何かが「巨震兵」を殺せないのだ。そして、その何かが、桜子たち。そう、桜子たちでは、あれを殺せない。

「間に合えよ!」

(来てくれるって言ったじゃないか、キラ!殺してくれるって言ったじゃないか!)

 怒り狂っている「巨震兵」。零士は、「ムラクモ」を抜いた。

 見えてきた彼女達。すぐ近くまで迫るが、彼女達は気づかない。圧倒的恐怖が、目の前にあるから。彼女達へ向けて、振り下ろされていく足。地を揺らすほどの一撃を、このままだと、自分達が、喰らってしまう。その恐怖に、何もかもが考えられない。


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