31話
再び、「巨震兵」の足が持ち上がる。そして、落ちようとしていた。桜子は、泣きそうな気持ちになった。零士が、来てくれない。希望が、来ない。どの位、祈っていたのだろうか。そして、次、「巨震兵」の足が地に落ちれば、再び、天地がひっくり返る。そうなれば、地面が無事で済むかどうか、分からない。少しずつ地割れも起き始めている。
そして、足は、地面に落ちた。
その様に思った。誰もが。
しかし、揺れない。天地がひっくり返るほどの揺れが訪れない。
よく見れば、足は、まだ宙に浮いているようだ。一体、何が起こったのか。桜子は、目を疑った。二人の少女が、足を宙で蹴り返した。そのせいで、まだ、宙に浮いているらしい。赤い髪と茶色い髪の二人。そして、スッと、いつからそこに居たのか、桜子の目の前に清華が居た。
「すみません。雷華……、姉妹に移動速度が早いものが居るので、早く運んでくるように、連絡していて遅れたの。大丈夫?」
桜子は戦慄した。あれが、有名な「風林火山」シリーズの魔装人形か、と。そして、その強度と破壊力に。攻撃が微塵も通らなかった「巨震兵」の足を蹴り上げるだなんてまねに。
そして、蹴り上げた二人の周りに、もう二人の少女。
「彼女達が『風林火山』」
清華の言葉。桜子は、人数の会わない違和感を覚えるが、そんな些細なことよりも、目の前の、敵のことだ。零士は、まだ、来ていない。
「清華、お前も、来い!」
遠くからの声。声を発した本人は、気づけば、近くに居た。金色の髪の少女に背負われた黒髪黒目の好青年。どこか、零士に似た雰囲気を持つ、そんな青年。
「了解、厄魔」
厄魔。どこかで聞いた事のある名前。そう言えば、前に零士と「夢見櫓の女王」がそんな名前を話していた気がした。桜子は、揃ってきた人員に、希望の光を見れた。桜子は、再び剣を握る。眼前の敵を改めて見上げる。
(零士。早く、来て)
そう思いながら、できる限り、やってみようと、仲間の元に駆け出す。
「全員、一回集合。早く!」
◇◇◇◇
零士は、気を失いそうなほどの声によろめいていた。動けない。頭が働かない。それほどまでに重く圧し掛かる声。誰かを呼ぶ魂の叫び。
(キラ。どこに居るんだよ、キラ!)
ずっと、そう呼んでいる。キラを呼んでいる。誰なんだ、キラとは。零士は、全然舞う回らない頭で必死に考える。だが、分からない。
(キラ、聞いているのかな。キラ)
呼びかけ。キラは返事をしないらしい。
零士は、よろめきながら、ある部屋に倒れこむ。資料室だ。慌しく、皆が動く支部内だったが、ここは、静かだった。
(ねぇ、キラ。ダメだ。こんなんじゃダメだよ。こんなんじゃ、殺せない)
何に、言った?零士の頭は、スッと冴える。「殺せない」と言った。それは、何が、何を、殺せない。普通に考えれば、呼びかけている彼が、何かを、殺せない。だが、違う気がした。零士は、なぜか、違う気がしたのだ。
「なんだよ。違和感って言うのか。なんつーか、引っかかる」
零士は、何か、予感めいたものを感じ取った。
「キラ、ね」
(キラ、早く。どこに居るんだい。早く、早く来てくれよ)
先ほどから、呼びかけられているキラは、一向に姿を見せないようだ。そして、零士は、資料室の本を一冊、手に取った。その本のタイトルは、――「黄の黎明」――。ページを開いて最初の言葉。
「黄羅へ捧ぐ」
何かが、零士の中で繋がった気がした。




