30話
「私が牽制します!」
シルフィーが屋上から魔装砲を撃ち込む。しかし「巨震兵」は微動もしない。分かっていたが、絶望的な状況だ。
「聞かないわね!赤羽さん!」
「分かってる!」
獅音が、魔装大剣に魔力を注ぎこむ。たいした威力にはならないだろうが、試しに、ありったけの魔力を魔装大剣にねじ込んだ。魔力収束回路が、唸りを上げるように、振動し、濃紺の光を放つ。
「叢雲流・翠剣『翠深守』!」
そのねじ込んだ魔力を全て、剣の先から放射し、剣を媒体に、魔力の大剣を作り出す。そして、それを「巨震兵」にぶつける。
放射された高圧力の魔力だが、巨大な人型とも言える「巨震兵」には、大して刺さらない。白く巨大な人のシルエットをした怪物と言えば、「巨震兵」の姿が伝わるだろうか。そのような怪物に対して、獅音の攻撃は、人を切ろうとする蟷螂のようなものだ。普通の害蟲が、人が少し首を上げれば見えるのに大して、「巨震兵」は、首を上げて、上を見たところで、到底上まで見切れない。そう例えるならば、巨人が攻めてきたようなものだ。
「ダメだ、大してダメージを与えられていない!」
そのとき「巨震兵」の足が浮いた。そして、落ちる。
――ズゥドォオン!
凄まじい音と共に、地面が大きく揺れる。とても立っていられないほどに大きく揺れ、地面がひっくり返ったかのような錯覚すら覚える。
それは「巨震兵」がただ、一歩、歩いただけなのだ。まさしく化け物。地を震えさせる巨大なモノ。
璃桜は、震え上がる。なぜならば、「巨震兵」の中心にあるソレは、まるで、魔力を凝縮したかの様な眩い光を持っていたからだ。そして、ソレが時々蠢く。まるで、意志を持つかのように、何かを求め、動く。
桜子は、璃桜の様子の異常に気づいていたが、指示が出せずにいた。「巨震兵」の圧倒的大きさに、怯え、そして、思考が回らない。それは、誰もがそうだった。シルフィーも魔装砲の二発目を撃てずにいる。誰もが動けなかった。扇は、怯んで武装を落としているし、清華は、先ほどから見当たらない。どこに居るかも分からない。一体どうすればいいのか。そして、桜子は、切に願う。
(零士、早く、早く来て……!)
その願いは、届くのだろうか。ただ、「巨震兵」は、呆然と立ち尽くしている。先ほどから、一歩も動かない。一体、どうしたと言うのか。
アリスと裕騎は、怯えていないが、動かない。なぜだろう。今のこの現状は、一体どう言うことだろう。桜子は、分からないが、ただ、この何も動かない、この状況で、ただ、ただ、祈った。
(零士!)
◇◇◇◇
慌しく右往左往、老若男女問わず、バタバタと支部内を駆け回る。そんな状況の中、ただ一人、ふらふらとしている人物がいた。零士だ。傍から見ても、具合が悪いのが分かるほどだ。零士が、具合を悪くしているのには、わけがあった。先ほどから、脳内に、何度も声が響く。けたたましいサイレンよりも、支部内の人の騒ぎ声よりも、強く、強く、声が脳に何度も、何度も、何度も、何度も、響く。
(キラ。キラ。どこに居るんだい。キラ)
キラ、と何度も声が響く。声の主は、キラと言う何かを探しているらしい。
(約束、覚えてるよね。キラ)
約束をしたらしい。キラ。人か、動物か、はたまた、蟲か。それが何かは分からない。零士は思う、しかし、誰の声なのだろうか、と。
(キラ、どこだい?覚えていないのかい)
そして、この声は、なぜ、自分にだけ聞こえているのか、と。分からなかった。零士にだけ聞こえて、他の人に聞こえない理由。零士は、魔力が高い以外、特殊な能力を持たないただの人間だ。璃桜のようにオーラを見ることはできない。それに、Sランクの「零の一」の様な、特殊な体質も無い。それゆえに、この声が聞こえる理由が分からなかった。
「誰なんだよ。おい」
ただ、零士のぼやいた声に、返すものはいない。そのとき、脳裏に一瞬、別の声が響いた気がした。
(零士、早く、早く来て……!零士!)
とくん、とくんと、零士の鼓動が早まる。そうだ、知らない声なんて、相手にしている場合じゃない。
(キラ。どこに居るの、キラ)
(助けてよ、零士。零士!)
零士は、支部内を駆け抜ける。己の、武装を手にするために。
「今行くから、待ってろよ」
そんな独り言を呟きながら、零士は、全力で疾走した。




