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紫天の剣光  作者: 桃姫
第一章
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3話

 零士と会話した後、シルフィーは、六階、すなわち最上階にある支部長室にいた。今日は、桜子を除くAランク候補生の紹介を行うそうだ。誰に対する紹介かは、シルフィーは聞いていない。

「今日は、B支部とC支部の支部長が来てるので、染井さん以外のAランク候補生を紹介することにしたわ。染井さんは、代表候補生として、各支部に訪れているの除外しました」

 気になっていたことを説明されシルフィーは納得をした。この場に居るのは将美を除いて三人。シルフィー・ラ・マーズ、北園真白(きたぞのましろ)丹下織伸(たんげおりのぶ)。全員がAランク候補生である。総合評価においてある程度のばらつきはあるが、全員がB+もしくはB-である。

「それでは、お二方を、もう直、副支部長が連れてくるから待機するように」

 そう言って間もなく、副支部長が扉を開けた。

「支部長、お二方をお連れいたしました」

「そう、入ってもらってください」

 清美が、そう言うと、副支部長が開けたドアから二人の中年の男性が入ってきた。シルフィーは反射的に、先ほどの零士の言葉を思い出していた。

「丹下から順に自己紹介をしなさい」

「ハッ」

 敬礼をし、自己紹介を始める。

「自分は、丹下織伸と言います。どうかよろしくお願いします!」

「わたしは、北園真白です。よろしくお願いします」

 二人が自己紹介を終える。シルフィーは、密かに感じていた。あの二人の支部長が二人の自己紹介に不満を抱いているという感じを。ならば、自分が零士に教わったことが正しいとは限らないが、試しに言ってみようではないか。そう思い、口を開く。

「A支部、Aランク候補生のシルフィー・ラ・マーズと言います。どうぞよろしくお願いします」

 シルフィーは二人の支部長が自己紹介を聞いたとき、「ほぉう」と感嘆の声を漏らした気がした。

「ふむ、初めの印象としては、六十点、五十点、九十五点かな」

 渋めの顔と鋭い目つきをしているのとは裏腹に、優しい口調で支部長の一人が言った。

「そうだな。丹下君、君は、マーズ君との自己紹介のどこに差が出たか分かるかい?」

 織伸は、バツが悪そうな顔をして、しばらく考えて、答えを出す。

「口調でしょうか」

「残念だが、口調に関しては、皆大差なかった」

 織伸は、自分の何が悪かったかを考えるが分からないらしい。おそらく、自分の自己紹介が終えた安堵から、よく聞いていなかったのだろう。

「では、北園君は、分かるかい?」

「分かりません」

 潔いのはいいことだと言う表情で、優男風の支部長も頷いた。

「ふむ、では、我々も自己紹介をするとしよう」

 つまり、手本を見せるからよく見ておけと言うことだ。

「B支部、支部長のラッセル・グレーと言う者だ。他支部との協力を図ろうと思っている。君たちにも協力してもらえたらありがたい」

 渋めの顔と鋭い目つきをしている支部長が言った。

「C支部、支部長のミッカス・ランカーと言います。広く知られる名で言ったら、『白壁』かな」

 白壁と言うのは、ミッカスの二つ名である。二つ名は、栄誉ある結果を残したものにのみ与えられる。

「さて、今ので、分かったと思うが、マーズ君、改めて、どう言う点か言ってみてくれ」

「えっと、最初に何支部の、その後に何ランクの、そして、名前を言うと言うふうに自己紹介をしていた、と言うことでしょうか」

 零士に言われたことをそのまま言う。

「その通りだ。うん、君のような子がいい成長をする。染井君もそうだったが、きちんとしている子は、自己紹介もきちんとしているものだよ」

 そう言ってから、

「では、他の施設を案内してもらえますか。佐藤副支部長」

「分かりました」

 二人は、副支部長に案内され、部屋を出て行った。出て行ったのをしっかりと確認してから、織伸は言う。

「自己紹介にやり方なんてあんのかよ……」

「知らなかった」

 真白も同意する。そんな二人に対して将美が言う。

「まあ、やり方と言うより、その方が相手に印象が良いということよ」

 そして、シルフィーの方を向いて将美は聞く。

「それにしても、シルフィー、貴方、よく知っていたわね。上出来だったわよ」

 それに対して、シルフィーは、やや困り顔で答えた。

「い、いえ、これに関しては、先輩のおかげでして」

「先輩。その人の名前を教えてもらえる?」

 将美は聞いた。シルフィーは、ボソリと言う。

「む、紫雨先輩です」

「紫雨?まさか、紫雨零士?」

 将美は意外そうな顔をして、眉を寄せ聞いた。

「は、はい。紫雨先輩が『どこの所属と言うのを事前に教えておくと、向こうが相手との距離が計りやすくなって、初対面の人と話す時は、わりと有効だ。他支部の人間がいるところでは、最初に何支部の、その後に何ランクの、そして、名前を言うと、印象と評価がいいかもしれないな』と言っていたので」

 シルフィーの言葉を聞いた将美は、桜子の言葉が蘇っていた。

「『いずれ分かる』、ね……」

 桜子が零士の幼馴染である以上、シルフィーが聞いた話は、零士から桜子に教えられていたはずだ。そうなれば、桜子が、初対面の挨拶で、好印象の挨拶の仕方をしていたことも納得できる。まあ、桜子が零士にそれを教えていた、と言う方が、信憑性が高いのだが、桜子が事前に言っていた言葉を踏まえれば、零士がシルフィーと桜子に教えたという方が、納得が行くという話だ。

「『落ち零れ』ね~。本当、分からない奴」

 その呟きに、シルフィーは聞く。

「紫雨先輩は、何で『落ち零れ』と呼ばれているんでしょうか?」

 織伸は、顔をしかめてシルフィーに言う。

「知らないのか?総合評価がD+の奴は大概が自主脱退をするんだ。でも、あいつは、辞める気配はないうえに、授業はサボる。A支部の恥だよ」

 織伸の言葉に補足するように真白が付け足す。

「零士と言う名前の、『零』と『落ち零れ』の『零れ』を掛けて『落ち零れ』って呼ばれてる」

 シルフィーは真白の言葉に「そうなのか」と思った一方、違和感を覚える。D評価と言うことは、全てにおいて、D+かD-の評価を得ていることになる。だとするなら、彼の肉体は、鍛えられすぎている。ぶつかった時に触れたあの肉体は、明らかに横にいる織伸よりも鍛えられている。

(先輩は、実力を隠している……?それは、体力評価だけ?それとも)

 シルフィーは思わず考えてしまう。彼は、本気を出していないのではないかと。しかし、理由が分からない。地位や名誉を欲するのは人間として当然のことながら、この世界では、実力を抑えて生きていけるほど甘くは無い。つまり、豊も名誉も、命すらもいらないと思っているのだろうか。いや、だとしたら、そもそも「ネメシス」に来ないだろう。では、本気を出していないのか。思考がグルグルと同じところで回っている。

「まあ、その話はおいておきましょう。これで、本日は解散にします。ご苦労様」


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