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紫天の剣光  作者: 桃姫
第三章
29/57

29話

 発端はいつだったのだろう。最近なのか。それとも、もっとずっと前から始まっていたのか。それは誰にも分からない。ただ、ソレは、着実に動いていた。地中深くに眠っていたソレは、動き出す。地が揺れ、轟く。世界を揺らすほどのソレが現れた。海は波立ち、津波が起こる。

 ソレの名は「巨震兵(きょしんへい)」。かつて、この世に現れた伝説級の幽賊害蟲の異常種だ。まだ、「黎明の王」が現役だった頃に現れ、そして、行方不明になっていた。ソレが、突如現れた。海を分かち現れたソレに対して、一番近いのはA支部だった。

 アリスら、C支部の交換派遣から数日の後に、その情報がA支部にもたらされた。無論、警戒レベルは「赤」。もっとも危険だ。

 そう、ソレは、曰く、他の異常種とは比べもにならない。三体の伝説級の異常種と称される怪物だ。

 三体の伝説級の異常種とは、世界で始めて害蟲の侵攻が始まった時に、多くの命を奪った「破壊魔」。歩くたびに地を揺らし、巨大なその存在に皆が恐怖する「巨震兵」。そして、世界を喰らうと言われる最強にして最凶の害蟲。「黎明の王」が撃ち滅ぼしたと言う「世喰らい」。それぞれ、人智の及ばない強さを持つと言われている。そんな中の一体が迫っていると言うその状況。慌てずにいられるか。いや、いられない。現段階でA支部にいる最凶戦力で「巨震兵」を迎え撃つことになった。

 「怒りの顕現者(グラム)」・清水将美。「先駆者の賢人」・佐藤直典。努力の天才・染井桜子。魔装砲・シルフィー・ラ・マーズ。オーラを見れる者・橘璃桜。武道の名門出身・赤羽獅音。かの神道の娘・神道扇。「風林火陰山雷」・黒減清華。自称「この世の美を集約した者」・アリス・ミラージュ。最強の騎士・熾神裕騎。

 この面々は、A支部で認識している最強メンバーである。だが、もう一人、最強の戦力がいる。しかし、彼は、参加していない。

「突然のことで困惑しているでしょう?あたしもよ!だけど、時間が無いわ。『巨震兵』はすぐそこまで迫ってる。この面子で、迎え撃つしかないの」

 将美の言葉に、シルフィーはあたふたと慌てるが、他の面々は、流石と言ったところか、あまり動揺は無い様に見える。

「今回の作戦は、かなり危険だ。下手すれば、命を落とす。しかし、A支部と隣接する街を守るには、君達の力が必要だ」

 直典の言葉に、桜子が頷いた。

「分かっています。ですが、今回の敵は『伝説級』。流石に、この人数では分が悪すぎます。そこで、提案があります」

 桜子の提案とは何か、皆、静かなって、聞く準備ができた。

「赤羽さんの剣技の仕様を許可していただきたいのです」

 桜子の言葉に、それを知らない将美、直典、裕騎が不思議そうな顔をする。アリスは知っていたのか、困惑が全く顔に出ていない。

「剣技?それは、どのような」

「最強の剣術、『叢雲流』です。普段使うには、あまりにも強力すぎて、『非殺傷コーティング』すら抜けるので、『漆黒の剣天』に言われ、使用を禁止してきました。ですが、今回の相手になら、それほどの技術を使わないと確実に倒せません」

 将美は息を呑む。それほどに強力なものがあるのか、と。だが、獅音としては、許可してもらえたところで役に立たない、と思っていた。

「ええ、許可します。赤羽さん、よろしくお願いね」

 将美は希望の光が見えた、と言うような顔をしていた。だから、獅音は先に言っておこうと思った。

「許可はありがたいですが、あたしの一撃じゃあ、絶対に倒せない」

 その一言で、状況は一変。将美は、肩を落とす。

「あたしは、不完全だし、魔力量も少ない。あいつの一撃に比べたら柔なもんだよ。それに、あたしは、奥義を一つも継いで無い。できるのは緋剣、蒼剣、翠剣、黄剣の四つだけ」

 その「あいつ」とは、零士のことを指している。

「魔装砲もそこまで効き目を示さないでしょうし、シルフィーじゃ連発ができないわね」

 将美の指摘に、シルフィーは、縮こまる。それは確かに事実だった。前回の時もかなりの疲労で、しばらく動けなかった。

「と、なると決定打を持つのは、誰もいない、と言うことじゃないのかい?」

 アリスの言葉は、核心を突いていた。

「貴方は、何か無いのですか?C支部でも選りすぐりなんでしょう?」

 扇がアリスに言う。ただ、アリスは、笑みを浮かべた。

「僕かい?僕にも奥の手くらいはあるさ。だけれど、今は使えない」

 アリスの飄々とした態度に、何か喰えないものを感じ、扇は警戒心を強める。だが、今は味方同士で警戒しあっている場合ではない。そのことは扇も分かっていた。

「兄さんが向かってるらしいが、間に合うかどうかが微妙だし」

 裕騎が呟く。それに目ざとく反応したのが、桜子。

「兄さん、とは?」

 桜子の問いに、裕騎は、「あ、ああ」と動揺しながらも答える。

「兄さんは、『天燐の神鑓者』だ。今は、偶然、B支部に居たそうだから、こっちに向かってる。何でも『風林火山』を見に行ったとか言ってた」

 それは朗報だった。Sランクが救援に来てくれるのだ。

「ついでに『風林火山』の持ち主も戦力として連れて行くから待ってろって言ってたけど」

 裕騎の言葉に、清華が驚く。

「わたしの姉妹が来るということは、厄魔も来るってこと。まあ、戦力になるのは確か」

 清華の言葉に、再び希望が見え始める。そこに、璃桜が次いで言う。

「詩春さん……『夢見櫓の女王』も救援に呼びました。C支部に向かっていた途中だったので、引き返して、こちらに向かっているそうです。丁度、B支部から向かっている面々と、同じ頃には合流できると思います」

 希望の光は明るさを増す。しかし、それはすぐさま消されてしまう。地鳴りがし、地面が揺れた。支部のあちらこちらから悲鳴が上がる。

「動き出したようだ!」

 直典の言葉で皆に緊張が走る。二人のSランクが来るまで、早くて数十分。遅くて数時間。このままでは、来る前に、潰される。

「仕方ないわね!時間稼ぎするわよ!なるべくこちらに近づかせないようにして、一定の距離を保ちましょう!」

 将美の指示に、皆が武装を持つ。そして、動き出した。


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