28話
零士は、支部長室にいた。理由は分からないが、呼び出されたのだ。
「紫雨!貴方、案内役なのに、支部長室に案内してこなかったでしょ!」
支部長室に入るなり将美の怒声が飛んでくる。そういえば、案内と言う役割をすっかり忘れてしまっていた零士だ。まあ、二人が勝手に行ってしまったのだが、A支部を見回った後、支部長室に来たそうだった。
「こちらの二人をきちんと案内してくるように言ったでしょ!」
そして、そこに居る二人。
「C支部特別対策班のアリス・ミラージュさんと熾神裕騎君。彼らは、貴方とは比べ物にならないくらい有能な人材なんだから」
将美の言葉に、零士は、全然耳を傾けていない。零士が聞いていたのは、アリス・ミラージュと言う名だけだった。アリス。その名と「ミラージュ」。そこに引っかかりを覚えていた。銀髪の美しい少女の名、アリス・ミラージュ。今の言葉で言うなら「蜃気楼」を意味する「ミラージュ」と言う言葉。そして、「ミラージュ」、「ミラー」、カガミ。カガミの国のアリス。つまり、偽名。
「なるほど、喰えない奴」
そして、結局、寮までの案内をするように言いつけられた。その道中。
「それで、どうだろう。あの話は受けてもらえるかい?受けてもらえるなら、今君が気づいたことの真実も話そうと思うんだけれど」
一瞬で、偽名を見抜いたことを見抜いた彼女。零士が戦慄を覚えるほどの人材。確実にAランクを超えている。少なくとも、知能では。身体捌きでも。
「いや、断る」
「そうかい?まあ、僕の名前程度の餌では、了承を貰えないことは分かっていたけれど」
そう言って笑うアリス。
「そもそも、何で、俺なんだよ」
零士の言葉に、裕騎も言う。
「そうだ。コイツである必要性はないだろ!」
裕騎は正直、零士にとって鬱陶しいが、それを零士は口に出さなかった。そして、アリスは、零士の問いに答える。
「君の名前には、色が入っているだろう?」
そう言われて、零士は、そう言えばそうだな、と思った。
「『紫雨』と言う『フソウ』特有の名前には、普通『村雨』を使うんだよ。なのに、君の名前は、あえて『紫雨』が使われている」
「それがなんだ?」
零士は、確かに、珍しいのかも知れないが、所詮それだけだった。だからどうだと言うのだ。
「君には話しておこう。色と『フソウ』と魔力の話を」
◇◇◇◇
扶桑の国。そこがそう呼ばれる前、そこでは、神託を得て、占いによって国を統治していた。邪馬台国。その地を収めた神聖なる「ミコ」を「ヒミコ」と呼んだ。適当な字を当てるなら「緋巫女」。緋色の巫女だ。その「緋巫女」を初め、扶桑の国を制するものは、代々、不思議な力があったと言う。
魔力の発見こそ、大陸の西側にある国だったが、「フソウ」には、多くの魔力伝達物質があった。そして、それを使って古から、「蟲」に似た存在と対峙してきたと思われている。それが「アヤカシ」や「ようかい」、「カイイ」と呼ばれる存在である。巫女は、石を使い、それを持って滅してきた。それこそ、魔力伝達物質に、魔力を注ぎ、倒してきたのである。
そして、その巫女の血を引く者達は、名に「色」を与えられた。
フソウには、昔から、そう言った「蟲」と戦う力があった。だからこそ、Sランクになる者には「フソウ」の言葉を名に持つものが多いのだ。
◇◇◇◇
そんな話を長々と語る。
「僕は昔から大変興味があったからね。フソウの文献を読み漁ったよ。必死に言葉を勉強してね」
アリスは笑う。どこか、遠くを見ているかのような目。
「そして、この色を名に持つ者の子孫が今で言う君の『紫雨』や『夢見櫓の女王』の『白城』、武道の名門『赤羽』、有名な人形師がいた『黒減』などなんだよ」
知っている名が多く、零士は、驚く。
「それで?だからって、俺が強いってわけじゃねぇだろ?」
「いいや、分かっているんだよ。そうだね。裕騎、君は少し飲み物を買ってきてくれないかい?」
「ん?ああ。いいけど」
話半分でボーっとしていた裕騎は、飲み物を買いに出かけた。
「それで、君の正体だったね」
これは、あえて、裕騎に席を外させたのだろう。零士の秘密に対する配慮だろう。
「君は、『漆黒の剣天』だね?まあ、僕らは、君の事を『紫天の剣光』と呼んでいるけれど。そんなことはどうでもいい。君は、Sランクだ」
「お前も、Sランクだろう?ただし、Sランクに認定されていない。俺の感覚でSランク相当と判断しただけだがな。それに名前も偽名」
アリスは、ただ、笑うだけだった。
「それにしても『紫天の剣光』か。ハッ、そんな名で呼ばれることはたぶん無いだろうぜ」
そうやって鼻で笑う零士だったが、アリスは、笑顔で言う。
「いずれ分かるよ。君が、『紫天の剣光』と呼ばれる日が遠くないと言うことが」
アリスの意味深な発言を追及しようとしたが、そこで裕騎が帰って来た。




