24話
「お前等、何をしている!」
突然の怒声に、厄魔も火榮も雷華も風華も林華も山華も清華も笑みが消えた。そして、厄魔には、「風林火陰山雷」、全員の顔が青ざめたのが分かった。
現れたのは十七歳程度の少年。だが、少年とは思えない気迫を持っていた。
「父上」
父上と言う言葉を聞いて厄魔は信じられない、と思った。父、と言うことは、彼女らの生みの親でも、作った人間でも、とっくに爺さんどころか、死んでいてもおかしくない年齢だ。
「お前等、何をしているんだ。儂の子だろう。儂に従え。跪け」
それは、まるで王を演じているようだった。誰も従わない。当たり前だ。あれは、絶対君主を気取るただの人形。
「儂は、世界最巧の人形師、黒減桃悟郎だぞ!なんだ!その目は!」
怒声、罵声。わめく様子は、まるで、子供。
「お前は、もう、父上ではない。すっかり変わってしまった」
林華が言う。
「お前は、ただの人形だ」
その言葉に、桃悟郎……いや、桃悟郎の成れの果ては、怒鳴る。
「何を言っている!儂こそ、黒減桃悟郎だ!」
風華が告げる。
「貴方は、ただの人形。それも悪質な、記憶と技術だけを告いでしまった、優しい心の陥落した壊れた人形ね」
火榮、炎華が言う。
「もう、お前の中に、優しさは無いのかもしれない。あたし達を作り上げた優しき父は、もう、お前の中には無いのかもしれない。そう思っちゃうんだよ」
雷華も言う。
「確かに貴方は父上でしたわ。でも、今なら分かります。今の貴方は、ただの木偶」
山華も言った。
「俺達じゃ、お前を殺せない。でも、お前は、もう壊れてる。父上でもなんでもない。例え、破壊できない設定になっていたとしても関係ない。ただ、俺達の前から姿を消してくれ」
清華が告げる。
「貴方は、人形になった時、生きようと努力をしていた。でも、今は、永遠と言うものを得て、努力を止めた。だから、貴方は、生きる術を失った」
娘六人全員からの言葉に、桃悟郎の成れの果ては、体としては、どこも欠損していないはずなのに、揺ら揺らと、壊れたように動く。
「わ、儂が、壊れて、いる、か。ハッ、ハハッ!」
そして狂ったように笑い出す。
「はははははははははっはははははははっははははははっははははは!」
そして、厄魔を見る。
「儂に無くて、お前にあるものは、なんだろうな。ふん、それが、優しさ、と言う奴なのかも知れんな」
そう言って、座り込んだ。
「清華。お前に笑みを浮かばせた、奴によろしく頼む」
そして、言った。
「さあ、儂を殺せ」
厄魔にそう言った。だが、厄魔は、言う。
「残念だな。俺は、人は殺さない主義だ」
厄魔の言葉に笑う。
「儂は、壊れているのだろう?機械として壊れている。そして、人間ではない」
だが、厄魔は言う。
「お前は、人間だよ。壊れていたって。いつだってやり直せる。だから、」
「フッ、それが、優しさか」
そう言った瞬間。山地の置くから、真っ白い、眩い光が巻き上がり、飛んで来た。厄魔の前を横切り、桃悟郎の成れの果てを消し飛ばす。
「フッ、ハハッ。復讐、か。ハハッ、最後に、お前達の顔を見れて、よかった」
その言葉を最後に、全てが消し飛ぶ。
「なっ、なんだよ。これ」
確かに今、桃悟郎だった存在は「復讐」、と言った。それは、誰が。
「誰だよ!今のはなんなんだよ!」
厄魔の叫び声と、六人の娘の悲痛の鳴き声が、消し飛んだ山地にこだました。
◇◇◇◇
「これで、よかったのかしら……。ねぇ、紅音さん」
そう呟いて、冷たい赤い色の目をした女性は、魔装太刀を担ぐ。女性の目の前には、大きく削れた山地。これは、女性の放った一撃によるものだ。
「敵討ち、と言うか、復讐、ね」
空虚な笑みを浮かべて、女性は、その場を去っていく。
「言いのか?それにどうするんだ、あの六機は」
不意に声をかけてきたのは、金髪の青年。
「レオン。あんた、いたの?」
「ネオン。俺は、お前の監視役もしているんだぜ?」
青年は、再度問う。
「それで、かの六機は?」
「いいのよ。あの子達は。罪があるのは黒減桃悟郎だけ。紅音を裏切った桃悟郎だけなのよ。だから、他の子は、いいの。彼女達に罪は無い」
青年は、笑う。
「フッ、いいねぇ。オレ、お前のそう言うところが好きだぜ」
「そう?私は、あんたのそう言うところが大嫌いよ」
二人は、歩きながら、どこへとも無く消えた。
◇◇◇◇
厄魔達は、それから数時間、そこから動けなかった。しかし、あらかた落ち着いた頃に、B支部の面々がやってきた。
「お、おい、厄魔か!」
「椎名じゃないか!心配してたんだぞ!」
山地が吹き飛んだという情報を受けてやってきた仲間たちだった。
「で、その子達は犠牲者か?」
その子達、とは、六人の「風林火陰山雷」のことである。
「ああ。まあ、犠牲者でもあるな」
そして、加害者でもあった。二人だけだが。
「その子達は、どうするんだ?とりあえずは、支部に連れてくだろうけど。その後。家とかがあっても、この有様じゃ吹っ飛んでるだろうし」
おそらく桃悟郎が暮らしていたと思われる場所は、吹き飛んでいることだろう。だから、彼女達には、これから行く場所が無い。
「いや、この子達は、俺が面倒を見るよ」
厄魔は、そう言った。
「はぁ?面倒見るったって、同年代の女子五人同時に引き取って大丈夫なのかよ。火榮さん入れて六人だろ?無理だって」
確かに、厄魔には難しい話だ。だが、厄魔は、彼女達を救いたかった。主を失った五人の女の子達。
「お前等、どうしたい?」
厄魔の問いに、火榮を含めた面々は、皆、「ありがたい」と言った。しかし、清華だけは、違った。
「わたしは、……。一人、お人好しに心当たりがあるので。そちらに行く。気にしないで」
桃悟郎が言っていた「奴」のことだろうと、厄魔は分かった。
「うん、そうか。好きにしていいよ、清華。……ってあれ、俺、何て呼べばいいんだ?」
「好きなように読んでくれよ」
山華が言う。
「あっ、そう?だったら、火榮以外は、『華』の付く名で呼ばせてもらうよ。こいつは、今更呼び方変えるのが面倒だけど、お前等は、そっちの名の方が、父親から貰った本名っぽくていいだろ?」
そう言って笑う厄魔。皆が頬を染めてしまうほどに人のいい、格好のよい笑みだった。
「お~い、そっち、話しついたか?こっちは、生存者なし、原因不明ってことになった。害蟲の仕業かどうかも考えて、しばらく様子見だな」
「こっちは、一人以外、俺んところに来るので決定だ」
それを告げたとたん、仲間が激怒する。
「おい!何で、お前は、そんなにモテるんだよ!火榮さんだけでも十分うらやましいのに、四人も増えるって?!」
「別にいいじゃねぇか。行こうぜ、お前等」
六人を引き連れて厄魔がB支部へと向かった。魔装機に付け加えた、後付の車両に乗り、支部へと向かう。
「あ~あ、これで厄魔の二つ名が『剛力の人形使い』から『風林火山雷の人形使い』に変わるかもね」
火榮ののんきな言葉を聞きながら、七人で支部まで楽しく話をした。
◇◇◇◇
B支部、支部長室にて。ラッセル・グレーと、厄魔と六人の魔装人形と、が対峙していた。
「それでは、話を聞こう。椎名君。君の口から、今回の一件を詳しく教えてくれ。後で報告書を書くことになるだろうが、口でも説明を貰いたいのだ。悪いな」
「いいえ、では、説明させていただきます。今回の発端は、自分の元に、一通の手紙が来たことです。『密使』を名乗る者からでした。『B支部の重要な案件で、緊急な話がある』と言うものでした。なので、指定された場所に、誰にも口外せずに、向かい、そこで、彼女達に出会いました」
そう言いながら、五人、火榮も入れて六人を見る。
「彼女達は何者かね?」
「はい、彼女達は、『ナハト』に『魔力増幅機能』を積んだ、世界最巧の魔装人形、『風林火山』シリーズの魔装人形です」
その言葉に、ラッセルは思わず目を見開いた。驚いたからだ。いくら精巧とは言え、人間との区別が全く付かなかったからだ。まあ、基本的に魔装人形は、人に似せられて作られているので、第一期のものならまだしも、二期以降の機体では、基本的に素人目には、人間と区別は付かないのだが。それとは違う。感情の起伏や表情には、人間そのものを感じた。それ故に、ラッセルは驚いた。
「本当に人形なのかね。それに、六体居るようだが、どの子が『風林火山』なのかね?」
その問いに、厄魔は、丁寧に答えた。
「左から風華こと『風蘭』。林華こと『林々』。『火榮』。清華こと『陰清』。山華こと『山蔵』。雷華こと『雷霆』。『風林火陰山雷』。六名、全て『魔力増幅機能』を積んでいます。また、人と同じく、本物の血も、本物の心臓も、本物の魂もある、人と全く同じ存在です」
「そうか。ふむ、人間と、同じか」
ラッセルは、何度か頷くと、言った。
「では、彼女達を、B支部の隊員として認めよう。部屋は、足りないので、椎名君と同室になるが構わないかね?」
その言葉に、皆頭を下げた。
「ありがとうございます!」
「何、構わないさ。戦力が増えることは、我々の支部の発展に繋がるのでな」
そして、厄魔は、一つだけ、と付け足す。
「清華は、別の支部に会いたい奴が居るそうです。交換派遣にもう三名送ったことを承知の上でお願いいたします。彼女を、A支部に派遣してくださりませんか?」
そのお願いについて、ラッセルは、清華の方を見た。
「ふむ、君の会いたい人物とは誰かね?」
それに対し、清華は、少し戸惑いながら答える。
「『漆黒の剣天』です」
「?!『漆黒の剣天』が、今、A支部に居るのかね?」
「ええ。今は、『漆黒の剣天』と『夢見櫓の女王』が、あの支部に居ます。わたしは、彼に、色々と教えてもらった。だから、わたしは」
その言葉を聞いて、ラッセルは、頷く。
「よかろう。今回は特別だ。君達の入隊申請が通り次第、君をA支部に追加派遣しよう」
「ありがとうございます!」
再び厄魔は頭を下げた。
「よかったな、清華」
厄魔の笑顔に、少し魅せられながらも、その笑顔を零士と被らせてしまう清華だった。




