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紫天の剣光  作者: 桃姫
第二章
22/57

22話

 かつて、扶桑(フソウ)の有能な人形師・黒減(こくげん)桃悟郎(とうごろう)は、幽賊害蟲の出現に当たって、独逸国で魔装人形の開発に携わった。その頃、桃悟郎には、六人の娘がいた。そして、桃悟郎には分かっていた。これから先、幽賊害蟲が繁殖すれば、桃悟郎自身も、六人の娘も死んでしまうことが。ならば、死なない体にすればいい。

 そうして、「風林火陰山雷」と言う六体の最巧の魔装人形が生まれた。魔力伝達回路に沿うように張られた血管。魔力収束回路と対になるように心臓が埋められ、そして、魂を吹き込まれた。

 黒減六姉妹は、六体の魔装人形へと生まれ変わった。そして、桃悟郎は、自身をも魔装人形へと変えた。

 六人の娘は、風華、林華、炎華、清華、山華、雷華と行った。風林火山は、それぞれになぞらえ、つけられた異名だと言う。

 そのことを知るのは、今となっては、黒減桃悟郎と、その知り合い赤羽紅音(くおん)の子孫である音音とその弟子の零士を除いて他にいない。

              ◇◇◇◇

 それを口にした零士。そして、わなわなと震える「陰清」……、いや、清華。

「聞いたのが随分前過ぎて、全然思い出せなかったけどな。俺が音音に拾われてすぐのことだったから、もう、いつかもわかんねぇや」

 笑う零士。対称的に、暗く、泣きそうな清華。詩春が口を挟む。

「じゃ、じゃあ、この子達は、本物の人間そのものなの?」

「まあ、言ってみればそうだな。人間。人間を永遠の人形にしたってところか。だが、まあ、今となってはもう無理だろうぜ。西のほうは、蟲どもに最初に滅茶苦茶にされたはずだからな。こいつらを作った施設も機械も、もうぶっ壊れている。それに、今の黒減桃悟郎に、こいつらは作れない。あれは、人間だったからできたことだ。音、手触り、感触、それら全てを使わずして、人を人形にはできない」

「そう。今の父上にわたし達を作ることはできない。でも、永遠に一緒にいることはできる。そして、そのために、わたし達は、主と言う呪縛を断ち切らねばならない」

 だから、そのために、持ち主を次々に殺して行った、と言う清華。だが、零士は、苛立ちを見せ、言う。

「それが、幸せか?」

「父上といることのみが、わたしの幸せ」

「そりゃ、お前は幸せかも知れねぇ。ずっと、他人の下に行かずに、主を持たなかったんだからよ。いや、違ぇな。お前の場合、桃悟郎が主なんだからよ。あいつらの主を殺すのは、テメェの親父を殺すのと同義なんじゃねぇの?それをやられて、テメェは幸せか?」

 零士の問いかけに、押し黙る清華。そして、零士が畳み掛ける。

「だったら、テメェは、何をしなきゃなんねぇんだ?間違ってるのは誰だ?それを考えろよ」

 零士の言葉に清華はこくりと、一度頷いた。そして、二本の短刀をしまうと、言った。

「『漆黒の剣天』。貴方は、選ばれた者、かもしれない」

 選ばれた者。その言葉に、零士は、疑問符を浮かべる。

「選ばれた者は、生き残り、選ばれなかった者は死んでいく。だから、父上は、生きている、とおっしゃっていた。貴方も、きっと選ばれた人間」

 その言葉に、零士は、言い返す。

「生き残るのは、神に選ばれたかどうかじゃねぇよ。生きようと努力したかしねぇかだ。テメェの親父は、生き残るために、自分を人形にした。そりゃ、生きたいと思ったからじゃねぇの。神に選ばれたかどうかじゃねぇだろ。自分で生きたいと思って、努力できる奴が生きるんだよ。そして、そんな奴が身近にいたら、そいつも生き残れる。守ってもらえるんだ。だから、俺は、守るために、俺自身も生き抜こうとしている。だからこそ生きてんじゃねぇの」

 零士の言葉に清華は、笑っていた。

「そんなふうに考えられる、それは、貴方のいいところ。わたしは、試してみたい。どこまで聞いてもらえるか分からないけど。父上に、言ってみる」

 零士は、そうか、頑張れよ、そんな言葉をかけようとしたが、止めた。そして、笑みを浮かべ、清華を見送った。

              ◇◇◇◇

 清華は、駆けた。清華は誰にも気づかれることなく、A支部に侵入できる。そして、定期的に出る魔装空挺に乗り込む。それは、誰にも気づくことはできない。気づいたとしたら、オーラの見れる璃桜か、耳がいい零士だけ。璃桜は、特殊寮の第一棟にいた。零士は、第三棟。どちらも魔装空挺から大きく離れているし、零士は、送り出した張本人、止める必要はない。璃桜も、A支部を詳しく知っているわけではないから不審に思っても、仕様かと思うだろう。

 清華は、魔装空挺に乗ると、無線を取り出し、桃悟郎へと連絡をした。

「父上。作戦失敗」

「ああ、そうか。それは想定の範囲内だ。こちらに戻ってくれ。今、火榮と戦闘中だ」

 火榮との戦闘。その言葉に、零士の言葉を思い出す清華。

「やはり、抵抗したの」

「やはり、とは?」

 清華は、零士の言った「あいつらの主を殺すのは、テメェの親父を殺すのと同義なんじゃねぇの?それをやられて、テメェは幸せか?」と言う問いを思い出した。

「何でも……。それより、他の方は」

 清華の問いに、桃悟郎は暗い声で答える。

「誰も動かん。今は、『雷霆』だけで対処している」

 清華は、零士の言葉が正しいのだと、分かった。

「なぜ、誰も動かん!」

 桃悟郎の怒鳴り声に清華は、焦らずに答える。

「それは、主が大事だから、では?」

「主?!主よりも父である儂だろう!なぜ、そんな存在に拘る必要がある!」

 桃悟郎の大きな声は、魔装空挺の貨物室に響く。

「さあ、それは、わたしにはなんとも。ただ……」

「ただ、なんだ?!」

「『漆黒の剣天』曰く、『あいつらの主を殺すのは、テメェの親父を殺すのと同義なんじゃねぇの?』と」

 桃悟郎は、笑う。

「なんだ『陰清』。『漆黒の剣天』にほだされたのか?」

 それに、清華は、淡々と答える。

「彼からは、凡人とは違う何かを感じざるを得ません。それこそ、父上が言う、選ばれた者であるような」

「選ばれた者、か。確かに奴はそうだ。選ばれたのだよ、神に」

 ただ、清華は続ける。

「彼は、こう言いました。『生き残るのは、神に選ばれたかどうかじゃねぇよ。生きようと努力したかしねぇかだ。テメェの親父は、生き残るために、自分を人形にした。そりゃ、生きたいと思ったからじゃねぇの。神に選ばれたかどうかじゃねぇだろ。自分で生きたいと思って、努力できる奴が生きるんだよ。そして、そんな奴が身近にいたら、そいつも生き残れる。守ってもらえるんだ。だから、俺は、守るために、俺自身も生き抜こうとしている。だからこそ生きてんじゃねぇの』と。わたしは、彼を信頼し、彼の言葉は、信じられると思います」

 桃悟郎は言った。

「努力で報われないものもいる。だから、儂は、人でなくなった」

「それもまた、努力である、と言うこと」

 清華の言葉に、桃悟郎は、少し唸り、そして、

「とりあえず、お前は戻ってこい」

 そう言って無線が切られたのだった。清華の瞳から一筋、涙が零れた……様に見えた。


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