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紫天の剣光  作者: 桃姫
第二章
18/57

18話

 零士の過去を聞いて一番動揺を見せたのは獅音だった。音音をよく知るがゆえに、驚きを隠せない。

「お前、人、なのか?」

 思わず口から出た言葉。

「あ?失礼だな。一応、人間さ」

「いや、悪い。音音叔母上が見込みを見出す人間がいるとは思えなくてな」

 それは、獅音の本音だった。彼女は、音音の性格をよく知っていた。だから、本来なら、見ず知らずの子供を拾って、育成なんて信じられなかった。彼女は、良家の血統こそ、最強を作り上げられると言う持論を持っていたのだ。

「お前、いったい?」

「俺は、俺。ただの人間だよ。まあ、もっとも、あいつ曰く俺の力はただの力じゃないそうだが」

 そんな風に、零士は軽く言いながら、「ムラクモ」を握った。そして、そのまま屋上を後にしようと、後を振り返ったところで零士の動きがピタリと止まった。

「詩春、か」

 その呟きに、璃桜が慌てる。そして、ドアが開く。厚いドアの向こうから、白銀の髪をなびかせる美しい女性が現れた。

「零士ちゃん、久しぶり」

 にっこりと上っ面だけの笑みを浮かべた彼女こそ「夢見櫓の女王」、白城詩春。Sランクだ。人類の最高到達点とされる至高の位置に行き着いた零士に並ぶ存在。未だ、女性でSランクになったのは彼女だけだ。それも、十代と言う異例の若さで。いや、それに関しては、最年少の零士もいるし、詩春とほぼ同い年の「天燐の神鑓者」がいるから、あまり凄いとは思えなくある。しかし、それは、今のSランク達が異常なだけである。十代で、Bランクになれたら十分な出世だ。人生のエリートになれたといっても過言ではないほどなのだ。まあ、その分、戦場へ出て、命を危険に晒すことになるのだが。それを、十代でSランクとなれば、その時点で自分の人生は愚か、その一族が、一生安全に暮らせるだけの稼ぎも名誉も力も手に入れることができるのだ。

 白城詩春。現在、十九歳。その年齢にして、魔装砲を全力で二十三発連射できるほどの魔力量を保持する。そして、その美貌は、天女と称されるほどである。しかし、誰も、彼女の本来の力を見たことがない。「夢見櫓」。その実態を知るものがいない。謎の力なのだ。

「久しぶりだな。テメェのその面見るたび、嫌なことしか思い出せねぇけど」

 零士の嫌味に、詩春は、歩くたび揺れる大きな胸を揺らしながら笑った。

「ウフフッ、そう?嫌なことって何のこと?」

 わざとらしく笑う彼女とは反対に、眉を寄せいらついた様子の零士。

「テメェに害蟲の群れん中に突っ込まれたこととか、ハイヒールで踏みつけられたりとか、俺の寝てる布団の上にダイブされたりとか、……そういえば、鞭で思いっきり引っ叩かれたこともあったな」

 それを聞いた詩春を除いた女性陣(特に扇)は引いていた。詩春は、ニコニコと笑う。

「何言ってるの?ご褒美、でしょ?」

 それは、本気の声だった。

「ウフフフ」

 「女王」、と言うのは、こう言ったところからも来ている。

「どのへんがだよ!しかも何で俺だけにやるんだよ!」

「王深君は、何やっても反応してくんないんだもん」

 プクッと頬を膨らませる詩春。

「王深君てば、純愛ちゃんだからね~。その点、零士ちゃんは、何やっても反応してくれるし……」

 ニタァと心からの笑みを漏らす詩春。それは、苛める事を快楽とするサディストの笑いだった。無論、零士はマゾヒストではないので、喜んではいない。

「最高の人材(おもちゃ)よ」

 その言葉に、零士は反論する。

「誰がおもちゃだ!つーか、テメェ、昔っから人のことをおもちゃにしやがって」

 零士と詩春の喧嘩は、どこか、信頼と深い絆があるように見える。

「あら、普段は私がおもちゃにしているけれど、夜のベッドでは、零士ちゃんが私をおもちゃにしていたわよね?」

「何意味わかんねぇこと言ってんだよ!」

 だんだんと、話がおかしな方向へと向いていく。

「あら、夜のベッドをともにしたことが何度もあったでしょう?それとも、忘れちゃった?」

「あ?確かに、同じベッドで寝たことはあるがよ」

 それは、五年以上前。いや、六年近く前になるだろう。そのころの零士は、十歳程度。そう言った間違いは起こらない。

「そう言えば、だけど、璃桜ちゃん」

「な、なんですか?」

 突然振られた話題の矛先に、璃桜は、慌てて対応する。

「いえ、ねぇ。話は、この間の無線での会話の冒頭に戻るけれど」

 璃桜は思い出す。先日の会話の導入部「恋愛相談?」と言う部分を。

「も、戻らなくていいです!あれは、そちらから振ってきた話題でしょう。忘れてください!」

 璃桜の怒声に、他の者は皆呆気に取られていた。しかし、璃桜はそれを気にしている余裕はなかった。

「そうかしら。まあ、あのときの話題も、あながち、的外れではなかったでしょ?」

「ま、まあ、そうですけど」

 璃桜の挙動不審さに、桜子は、何があったのかが気になった。

「いったい、何事なんですか?」

「ま、まあ、その、なんでもない、と言いますか……」

 詩春が笑う。これは、からかっている時の笑みだ。

「まあ、そうね。何でもないと言えば、なんでもない、かしらね」

 詩春の言葉で、璃桜の慌てっぷりが一段落したところで零士が聞く。

「なあ、何で詩春がここまで出向いてきたんだ?俺達をからかうためってわけじゃねぇだろう」

「ええ。まあ、用があったのだけれど……。璃桜ちゃん。貴方たちと一緒に来る予定だった()は?」

 彼とは、誰のことか、と璃桜は一瞬考えるも、すぐに答えが出た。

「彼と言うと、椎名君ですか」

「そう、椎名君。椎名厄魔君。彼を探していたんだけれど、こっちに来てないのよね?」

 初めて聞く名だったため、零士も桜子もシルフィーも首を傾げていた。

「厄魔って、あいつ、だって、『相棒』の調節のために支部に残ったはずだぜ」

 獅音がそう言うが、詩春は、首を横に振る。

「その相棒と厄魔君が揃って消えたからこっちに来たんじゃない」

「まあ、彼が行動する時は、常にあの子を連れていますからね」

 相棒と言う意味が分からないのか、零士は、考えていた。そして、ある結論を出す。

「相棒って、人形か?」

 人形。正式名称・魔装人形。中心に「魔力収束回路」を持ち、それ故に、動くことのできる人形兵器。自立型と操作型、自立操作型の三種類に分かれる。それも、かなり高価で、一体買うのに、支部半分を建築できるほどの途方もない額をつぎ込むことになる。さらに、戦場に出すため、壊れやすく、金額と釣り合わないため廃れたものだ。

「ええ。よく分かりましたね。椎名君は、B支部で唯一の人形使いです。本人の資質はBランク候補生ですけど、彼の相棒を入れたらBランクかAランク相当でしょう」

 璃桜の補足に零士は驚いた。

「人形でそれほど上がるのか?」

 人形を持っていたところで、本人の資質が低ければあまり意味のないことだ。人形に収束させる魔力量が低ければ、たいした性能は期待できない。

「彼の相棒は、世界に四機しかない『魔力増幅機能』が積んである最高の人形なんです」

 「魔力増幅機能」とは、魔装人形の秘匿機構であるナハトに積んである機能の一つで、魔装大剣や魔装太刀のような武装に用いることができない特殊なものである。ナハトは、どこかにあった国の言葉で「夜」を意味し、構造を秘匿しているからそう言う名称になったらしい。四つの魔力増幅機能付きナハトを開発したのは、「フソウ」の人間だが、開発を助力した国がそのナハトと言う言葉のある国であった。作品名「風林火山」と呼ばれているらしい。ただ、まことしやかな噂ではあるが、「魔力増幅機能」を積んでいるのは六機だとも言われていて、その真偽は不明だ。それほどの人形を持っていれば、ランクがそれだけ上がってもおかしくはない。

「だが、いくら魔力増幅機能を積んだ人形でも、人形師としての腕がなきゃ」

「ああ、だが、それは杞憂だぜ。厄魔は、人形を操ることにかけちゃ天才だから」

 そもそも、魔装人形をどうやって操作するかと言うと、自立型は人形の判断。操作型は主人からの命令での判断になる。操作型は、反応が遅れるが、相手の攻撃を避けやすいので壊れる危険が少ない。自立型は、逆に、人形が判断を間違えると、すぐに壊れてしまう。

「いや、言い方が悪いな。あいつは、人心掌握とか、命令とか、指示とか、そう言うのが、ちょー得意なんだよ。だから、あいつの命令通りに動く人形は、傷一つ、汚れ一つ付きはしねぇ」

 獅音の言葉を聞いて零士は、感心する。その厄魔と言う少年の実力もそうだが、信頼感の強さにも感心していた。

「しかし、風林火山のどれを持っていたんだ?」

「あいつのは、確か、『火榮』って奴だ」

 火と言うことは、「攻撃型」だ。そもそも風林火山と呼ばれるシリーズには、一体一体違った特徴を持ち、全て揃えば、戦闘の極意を全て揃えた人形の軍が出来上がると言う話だ。

「火榮さんは、優秀でしたわ。そこらにいる屑みたいな男とは違って」

 扇がそんなことを言うが、誰もツッコまない。

「つーか、詩春。何で、その椎名厄魔って奴を探してたんだ?」

「ん~と、まあ、SPS?」

 シークレットパーソナルスペース。要するに関係は秘密と言うことだ。今の隠語は、Sランクの間での伝達に使われるものの一つ。

「そうか。だがよ。お前が追ってんのが、三年前のアレだったら、忠告しとくぜ。諦めな」

 その零士の言葉に詩春が目を丸くする。

「零士ちゃん、引退していたわりに詳しいじゃない」

 拗ねたような口調で言う詩春。それに対し、桜子たちは、わけが分からないようで首を傾げる。

「三年前ってなんのことなの?」

 零士に対する桜子の問いかけだ。零士は、笑う。

「黙秘だ。つーか、お前等には話せない内容だ」

「まっ、そうね。でも、アレに関しては、私か王深君だけの情報だと思ってたんだけど。どこから?」

 真剣な問いに、零士は、あしらう様に答える。

「ないしょだ。つーか、アレは、お前じゃどうやっても捕まえられねぇーよ。もしくはアレの主人ならいけなくもない、か」

「主人……?」

 何のことか分かっていなさそうな顔と口調に、零士は訝しげな表情をする。

「知らないのか?だったら何で『風林火山』の持ち主に接触しようとしたんだよ」

「前に、会っていたって情報があったからだけど、零士ちゃん。詳しく教えてちょうだい」

 拝むように手を合わせ願う詩春を見て零士は嫌そうな顔をするが、すぐに答える。

「ああ、まあ、話すのは吝かじゃないが」

 そう言って、桜子たちを見る。

「あいつらに聞かれるのは、お前としても俺としても色々まずいだろ?」

「あ~、うん。そうね。じゃあ、今から特殊寮第三棟を借りてくるから、そこで話しましょう」

 そう言って、ドアを開け、足早に階段を下って支部長室を目指す詩春。その後をゆっくりと着いていく零士。桜子たちは呆然と取り残されたのだった。


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