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紫天の剣光  作者: 桃姫
第二章
15/57

15話

 支部長室を訪れた三人の前にいたのは、A支部支部長の清水将美と副支部長の佐藤直典だった。

「よく来てくれたわね」

 将美の激励の言葉。

「私は、A支部支部長、清水将美よ。こちらが、副支部長」

「副支部長の佐藤直典だ。君たち、交換派遣人員には、期待しているよ」

 交換派遣では、相手の支部の偵察もあるが、こちらが送った人間が、弱かったら、相手がこちらを下に見ることもあるために、それなりの戦力を他支部に提供することになる。A支部からは、丹下織伸と北園真白が派遣された。桜子に関しては、体が弱いことを理由に、長期間、実家を離れられないと言う事情で拒否。長距離担当のシルフィーは、他支部に送っても、活躍の場がないため、この二人となった。

「B支部Aランク候補生の橘璃桜です。清水支部長ははじめまして、副支部長は、お久しぶりです」

「B支部Aランク候補生神道扇です」

「同じく、赤羽獅音だ」

 三人の自己紹介。それに対して、直典は、目ざとく反応をする。

「神道、と言うと、君は、あの、神道の家の者かね」

 神道。それには、それなりの知名度がある。ただ、「漆黒の剣天」や「夢見櫓の女王」などの、Sランクほどの知名度はない。しかし、直典は、かつての戦友に「神道」の人間がいた。

「どの、かは分かりませんが、私は、神道の家の人間です」

 素っ気無く返す扇。直典は、暫し、考え、もう一度問う。

「すまない、聞き方が悪かった。君は、あの、神道正嗣の血縁者かね」

 それに対して、扇は、頬を引きつらせる。聞きたくない名を聞いたからだ。

「あんな人、家の恥です」

 吐き捨てるように言った。それは、非常に、怒りに震えているように見えた。

「まあまあ、とりあえず、三人には、特殊寮第一棟を使用してもらいます。ああっと、また、案内を紫雨にやらせるのは、そちらも嫌でしょうから、別の人をつけるわ」

「いえ、彼で構いませんが?」

「いえ、まあ、橘さんなら分かると思うけれど、彼は、D+なのよ。そんな人を案内につけたくはないの、こちらとしては」

 その言葉に、璃桜は、思案する。

(D+?彼は、偽っていない。けれど、彼は、嘘をついていますね。「橘さんなら分かると思うけれど、」と言う言葉。それは、この人は、支部長だけれど、彼の魔力量を知らない。それは、彼自身が言っていないから。だとしたら、彼は、支部長に報告していないことになる。それは、おかしい。おかしいのです。なら、彼は、魔力が使える?いえ、早合点は、いけませんね。この辺は、詩春さんに相談すればいいでしょう)

 思考を止め、璃桜は、将美に言う。

「では、案内を呼んでもらえますか?」

             ◇◇◇◇

 その夜。璃桜は、無線で連絡を取っていた。

「詩春さんですか?」

「ええ、久しぶり、璃桜ちゃん」

 無線の向こうから、しっとりとした艶やかな声が聞こえる。璃桜は、久しぶりに聞いたその声に笑った。

「ええ、久しぶりですね。お元気そうで何よりです」

「うふふ、私が、貴方より、元気でないことなんて滅多にないと思うけど?」

 その通りで、言い返す言葉もない璃桜。すると、無線の向こうの声が問いかけてくる。

「それで、どうかしたのかしら?用もないのに無線を使わないでしょ?璃桜ちゃん?」

 璃桜は、少し押し黙ってから、口を開いた。

「ええ。実は、相談があって連絡を入れました」

「相談?恋のお悩みかしら?」

「いいえ」

 即答で、きっぱりと言い切る璃桜。

「私が相談したいのは、一人の青年のことなんです」

「やっぱり恋の悩みなんじゃないの?」

「しつこいです」

 璃桜は、語る。

「私は、今、交換派遣で極東支部にいるんです。そこで、一人の青年に出会いました。その青年のオーラは、おそらく、貴方に匹敵します。そんな彼のランクはD+。つまりCランク候補生ですおかしいと思って聞いたら、『魔力は持っているが、それを自由に使えない』と言ったのです。おかしいと思いませんか。まあ、そこだけなら、まだ、納得できました。ですが、その後、支部長室で支部長は、『橘さんなら分かると思うけれど、彼は、D+なのよ』と言いました。それを聞いて、彼の言い分がおかしいと思いました。詩春さんは、どう思います?」

 詩春は、うふふと笑う。

「あ~。そうね。まあ、貴方の着眼点は間違いではないし、おそらく、その青年は、魔力は私と同等。知識は、年の功で私が少し上。体力とか戦闘面だったら、彼が圧倒的に上、かしら」

 その僅かな言葉から、璃桜は、推理する。並外れた観察眼で。

「お知り合いですか?『彼』と言う表現を使ったので、そうではないかと、思いましたが?」

「ふふっ、目ざといわね。そうよ。知り合いよ」

 詩春の言葉で、璃桜が、驚きを隠せなくなる。詩春とは、白城詩春(しらきしはる)。通称で言うと「夢見櫓の女王」である。璃桜と彼女は、従姉妹同士だ。

「貴方の知り合いともなれば、さぞ、凄い人なんですね」

「う~ん。凄いかどうかは、貴方しだい?と言うより、零士ちゃんしだいかしら?」

 零士ちゃんと言う表現を使った時点で、詩春の言っているのが、確実に、紫雨零士であることを確認した。

「紫雨零士は、いったい、何者なんです?」

「零士ちゃんは、かつて、私や王深君と肩を並べて戦った英雄の一人」

 その言葉に、璃桜は、息を呑む。

「『漆黒の剣天』。『黎明の王の再来』とも呼ばれてたかな?」

 璃桜は、戦慄した。零士が「漆黒の剣天」である事を微塵も気づかなかった自分に驚いていた。そう、「漆黒の剣天」は、多くの地域で戦っていたが、主に戦闘していたのは、極東側だった。それに、十二で引退して五年。大体同い年であることは分かっていた。さらに、詩春に幾度か話を聞いていた。それにも関わらず、気づかなかった。

「紫雨零士は、なぜ、それを隠していたんでしょうか?」

「それは、まあ、色々とあったんだけど。そうね。貴方に似てると言ったら分かる?」

「私と、ですか?」

「うん。そう。貴方は、兄を。彼は妹を。そんな風に、害蟲に家族を殺されたの。目の前で、ね。その時、彼はもう、戦っていた。だから、彼の心の傷は、誰よりも大きかったわ。それで、彼は、戦うことを止めたの。妹を救えない自分には、誰も救えないって、ね」

 璃桜は絶句する。それと同時に親近感が沸く。

「では、彼にも、何か、特殊な力が?」

「いえ、ないわ。彼は、持ち前の魔力と、剣だけで戦うの。師匠の名前は、何て言ったかしら。そう、確か、赤羽、何とかさん」

 赤羽、と聞いて璃桜は思い出す。獅音に彼が何かを聞こうとしていたことを。

「まさか、彼も『叢雲流』を?」

「どこで、その流派を?もう、断絶したと思っていたけれど」

 詩春は驚いていた。

「私の同僚に、赤羽獅音と言う人が居まして、彼女は、自分で、拙い剣術を使うと言っていました。叔母が『叢雲流』と言う流派を使え、自分は軽く齧った程度、らしいですけど」

 それを聞いた詩春は、思い至る。

「おそらく、零士ちゃんの師匠である人こそ、その獅音ちゃんの叔母さんね。ああ、でも、当人達には言わないほうがいいかも知れないわね。それに、零士ちゃんの素性もばらしちゃダメよ。一応、Sランクの人間は、重要機密事項になるんだから、素性も能力も極秘よ」

「分かってますよ。詩春さんと同じ扱いですもん」

 璃桜は、笑いながら無線を切った。


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