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紫天の剣光  作者: 桃姫
第一章
11/57

11話

 そんな二人の支部長とは、真逆で、伝令を送られてきたA支部はてんてこ舞いだった。それもそのはず。将美がA支部の支部長に就任したのは、数年前、と言ってもつい最近のことだ。それ故に、五年前の害蟲の強襲の時は、将美はまだ、就任前。その頃は、先代支部長の清水元次がこの支部を指揮していた。だから、将美にとって初めての経験となる戦い。害蟲の群れが迫ってくる。オレンジが最初の戦いなど、思ってもいなかった。祖父、元次から継いだ魔装武装と一般人にしては、突出した能力。全てにおいてAを取る秀才。ただ、秀才であって、鬼才でも奇才でもなかった。だから、決して、彼女はSまで届かない。それでも、彼女は、十分に強い。だが、オレンジともなれば、Aランクが五人は欲しい。桜子は、もうAランクにカウントしてもいいレベルだが、他の候補生達は論外。直典も昔ならまだしも、今となっては、Bランクを維持するのがやっとである。つまり、戦力としてカウントできる秀才は二人だけだ。この状況では、他の支部からの救援を待ったほうが良いが、B支部が伝令を送った時点で、B支部、C支部ともに救援を送らないことが確定している。今から他の支部に連絡しても間に合わないのは確実だろう。だとするならば、二人の支部長は、オレンジでも何とかできると踏んでいる、と直典は思っていた。ただ、展望台からその害蟲の群れを見るまでは、のことだが。

「あ、あれは、何て量だ!」

 直典の声に、皆震え上がった。この支部にいる指導員はほとんどがB。Cのものもいる。そして、候補生達。だが、実践の少ないA支部だ。前線で命を張れるのは、B支部に査察に行ったときに戦闘を経験している桜子や直典のような元前線指揮官ぐらいのものだろう。将美ですら、あの群れに腰が引けてしまっている。まず、Aランク候補生が展望台に集められる。将美は、己の魔装大剣を調節しに行っているため、直典が指揮を執っている。

 やってきたシルフィーや真白、織伸は、顔が青い。まあ、無理もないことだ。このような生死の境に直面することになるとは、大半の人間が、常日頃思っていないことだ。

「すまないな。君たちには、候補生達を指揮してもらおう。ただ、シルフィー・ラ・マーズ君。君だけは、前線をカバーしてもらいたい」

 シルフィーは、意外な指名にお退きの声を上げる。

「ふぇっ……」

 声が出ないようだ。

「大丈夫だ。支部内から、害蟲に向けて魔装砲を放ってもらうだけだ。あれは、Sランク級の魔力がないと使用規制がかかってしまう。君にしか頼めないんだ」

 魔装砲とは、魔装銃のような魔力の籠もった弾をぶつけるものとは違い、魔力そのものを収束して放つ。そのため、高圧縮された魔力の威力は、まるでビーム兵器が如く。相手をいとも簡単に貫くことができる。人間なら、たやすく消し屑にできるほど。だが、それ故に、大量に魔力を消費してしまう。そこで、魔力を測る機械が魔装砲の内部に搭載されその魔力キャパスティがS-からS+であることを確認しないと放てないようになっている。ただ、そんな使い勝手の悪い兵器は使い手が滅多にいない。だからこそ、シルフィーのような人間は重宝される。あくまでBランクだ。Sだと有名すぎて引っ張りだこだが、Bランクだと、その支部でこっそりと重大な戦力として扱っていけるのだ。重宝されないわけがない。Sランクは、常にあちらこちら支部をたらい回しにされて、一箇所に留めて置けない。常駐型の確実性のある人材が揃っているのは嬉しいに決まっている。

「わ、分かりました。で、できる限り、尽くします」

 緊張と焦りと恐怖で、上手く言葉が出ない。そして、直典は、桜子に言葉を向けた。

「そして、染井君。君には、」

「理解しています、副支部長。私は、前線を駆けるつもりです」

 その言葉には、強い意志が宿っていた。

「そうか。こちらとしてはありがたい」

 そう言って、小型無線を桜子とシルフィーに差し出す。

「戦場の状況を理解するための無線だ。持っていてくれ」

 そう言って渡されたものを受け取る二人。だが、桜子は、貰ってから暫し考えた。

「申し訳ないですけど、もう一つ貸してもらえませんか?」

「ああ、それは構わないが、どうして?」

 桜子は一瞬、本当の理由を言おうか迷ったが、上辺の理由を告げた。

「前線で戦うと敵からの攻撃や思いもよらぬ事態で、無線を壊すことや落とすことがあります。さほど重くない子の無線でしたら予備を持っておいたほうがいいかと」

 それを聞いて、直典は、考えるような仕草をしてからもう一つ桜子に渡した。

「ふむ、何に使うかは、分からないが、君のことだ。悪事には使うまい」

 それは桜子の理由を上辺のものとして受け取ったから出た台詞だ。

「黙認、感謝します。では、私は、行きます」

 自分の武装「ミストルティン」を抱え、足早に出て行った。その後姿は、戦場に向かう一人の戦士の様だった。

「シルフィー・ラ・マーズ君。君もこの上、屋上に向かってもらいたい。そこから、狙ってくれ」

「は、はい!」

 シルフィーは、慌しく魔装砲を持ち上げ、落としそうになりながら、屋上へと向かう。階段の一歩一歩を踏みしめながら、緊張と恐怖を胸に秘める。

 屋上からは既に、害蟲の蠢く様子が見えた。恐怖に足が竦み、手に持つ魔装砲を取り落としそうになる。涙も鼻水も出そうになり、尿意がないのに漏れてしまいそうになる。そんなのを全て無理矢理押さえ込むと、シルフィーは、魔装砲を、構えて屋上にしゃがみこんだ。そして、狙撃をする様に寝転がる。上体だけ起こして、照準を定める。

「シルフィー、聞こえる?」

 将美からの無線が入る。

「はい、聞こえます」

「牽制に一発ぶっ放して頂戴!」

 将美からの命令で、シルフィーは、なるべく、照準を絞らず、広範囲のそれも相手の手前を狙う。まだ、誰も出撃していない今なら、仲間が被害を喰うこともない。

「一発目、撃ちます!」

 引きがねを引き、体中から力が抜ける感覚が訪れ、そして、高圧縮された魔力そのものが害蟲を直撃する。

「当たりました!」

 シルフィーの言葉に、将美からの返事が来る。

「よくやったわ。次の指示まで、魔力を溜めておきなさい!」

 シルフィーは、力が抜けて、今の自分の態勢や格好を気にできる状態ではない。だが、傍から見れば、それは酷い有様だっただろう。汗で全身が濡れ、スカートは捲れた状態のままで、力なく荒い息遣いで倒れている。魔力を大幅に使うと言うことは、同時に、精神力と体力を大幅に持っていかれると言うことだ。並みの人間じゃ耐えられないだろう。魔力がSである彼女でさえ、この有様なのだから。

「こ、これは、かなり、きつい、です」

 シルフィーは、途絶えがちの声で、そう呟く。

             ◇◇◇◇

 桜子は、前線に躍り出た。魔装銃剣を剣の形にして害蟲と対峙していた。強い。純粋にそう思っていた。恐怖は感じない。否、感じているが押し殺す。戦えと、まるで、自分を洗脳するように何度も心の中で呟く。

「セイヤァアアア!」

 気合と根性だけで重たい魔装銃剣を片手で振り回す。害蟲の硬い甲羅が、桜子の重い一撃を受け止める。

「ハァア!」

 それを無理矢理、決して重くはない桜子の体重で、無理矢理押し込む。害蟲は、奇妙な悲鳴とともに、両断される。

「染井さん!無茶よ!」

 将美からのそんな声を無視して攻撃を止めない桜子。当然だ。もはや桜子の意識に将美の声は入っていない。

 桜子は、突き進む。ひたすらに。

「染井さん!うしろ!」

 その将美の声に、桜子は、かろうじて反応した。意識の外に出していた声だったが、鮮明に「うしろ!」と言う声だけが頭に入った。まるで五年前のあの時を思い出すように。ただ、あの時と違って、零士が、側にいない。死を覚悟した桜子。

――ギュォオン!

 そんな何かが貫通する音とともに、眩い魔力そのものを感知する。

「シルフィー?ナイスアシストよ。助かったわ」

 将美が呼びかけるが、無線の向こうから返事は返ってこない。

「染井さん!これに懲りたら、単独で無茶は、」

「ええ。大丈夫。大丈夫です。もう、私は、身を引きます」

 すこし涙ぐんでいた理由を、将美は、恐怖だと勘違いする。桜子が泣いていたのは、先ほどの魔装砲を放ったのが誰なのかが分かったからだ。


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