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紫天の剣光  作者: 桃姫
第一章
10/57

10話

 支部長達の見学も終わり、二人の支部長は、魔装空挺でそれぞれの支部へ帰ることになった。魔装空挺とは、巨大な魔力収束回路を船体の中心に積むことで、昨今の燃料不足を解決した画期的な移動方法だ。常に数人で魔力を注ぎこまないといけないが、それでも、燃料を消費せずに、害蟲の多い地上を避けて、長距離移動できるため、支部間の移動に用いられている。

 A支部からなら大体数時間で帰れるだろう。そう思い、ラッセルもミッカスも椅子に座った。そして、まずB支部に向かう。その途中。ラッセルは、地上を見て、思わず声を漏らす。

「なんだ、あれは……」

 その声を聞き、ミッカスが何事かと窓から下を見る。

「……」

 絶句した。声すら出なかった。下の光景は、それほどまでに、異常なものだった。

 地面に蠢く黒い害蟲の群れ。轟々と唸りを上げ、地鳴りを起こしながら、どこかへと向かう群れ。それは、まるで戦争へと向かう軍隊。

「あれは、あれはなんだ」

 ただし、ラッセルが声を上げたのは、その所為ではなかった。その軍隊とも言える害蟲を率いている害蟲の所為だ。「統率個体」のレベルを超えていた。

「まっ、まさか、異常種!」

 やっと出たミッカスの声で、船内にどよめきが伝わる。

「ああ。そうだろう。間違いない」

 そして、ラッセルは思い出す。D支部崩落時の「沈暗黒」と言う異常種。確か十年ほど前にD支部が害蟲に襲われた時に、統率していた異常種がそう言う名称をつけられたはず。

「あのまま向かうとどこへ……と言うまでもない、か」

 ラッセルの言葉通り、自分達とは逆の方向へ向かっていく群れ。それは、そのまま進めば、A支部があることを示していた。蟲達の速度から考えて、一日もあれば、あの群れは、A支部に到達するだろう。

「魔装爆弾を投下しろ!」

 ラッセルの指示に、船員が慌しく投下の準備を始めた。魔装爆弾とは、魔力の籠もった爆弾のことである。魔力で火力を爆散させ、広範囲に高い威力の爆発を起こすものだ。こう言ったものの開発で、魔力の無い者でも害蟲と戦えるようになったのは、つい最近のことだ。

「魔装爆弾、投下します!」

 合図と共に、無数の大型爆撃が始まる。もし、下に人がいた場合、その人を巻き込んでしまうが、今いるのは、どの支部からも離れた地帯。人が居る可能性は薄い。そう思ったラッセルは、近場の山を見て目が点になる。人が居る。まだ幼い。爆発に巻き込まれない位置だが、あのままでは、害蟲に潰されてしまう。

「ミッカス君!」

 思わず、焦りから同期のよしみでの昔の呼び方をしてしまうラッセル。ミッカスのほうが若い印象があるが、ほとんど同い年で、かつて、同じ支部で、共に文武を競い合った仲である。その呼び方に、ミッカスは即座に反応した。

「あれか!分かった!」

 ミッカスは、跳ねる。魔装機に飛び乗り、切り立った山へ急ぐ。魔装機は、魔装空挺の簡易版だ。三人乗りの魔装空挺と言えば分かりやすいか。操縦者が魔力を注ぐことで、エネルギー消費を抑えてジェットエンジンで飛行する。

「頼むぞ!ミッカス君!」

「伊達に『白壁』なんて言われてないよ!」

 大声で言いながら、最高速で人の位置へ向かった。

「君たち!大丈夫かい!」

 肌が浅黒い。そんな少女が二人。その奥では、同じく浅黒い肌をしている男女が倒れている。いや、死んでいる。

「遅かったか」

 奥歯を噛み締めながら、二人の少女に話しかける。年は大差なさそうだが、姉妹だろうか、とミッカスが考える。四、五歳だと思われる二人。

「大丈夫かい?」

 ミッカスの問いに首を横に振る二人。ミッカスは、今にも泣きじゃくりそうな二人を抱きかかえ、両親と思われる男女の方へ向かった。やはりもう、助からない。男性は、完全に息絶えている。しかし、女性は、かろうじて、息があるようだ。

「大丈夫ですか?」

「……わ、わた、しは、もう。……長、く、ない……で……す。ど、どうか、その、子たちを……」

 言葉が途絶えた。もう、死んでしまっている。ミッカスは考える。子供を託すことができて、安堵して、逝けたのだろうか。

「何度見ても、嫌なものだよ。人が逝ってしまうと言うことは」

 子供二人を抱きかかえたまま、魔装機に乗り込み、発信する。そして、近場で、害蟲に魔爆弾を投下していた魔装空挺に乗り込む。

「ミッカス君!」

「ラッセル先輩。子供二人を救出してきたよ。でも、この子等の両親は……」

 ミッカスの言葉に、ラッセルは「そうか」と小さく低く唸った。

「悔しいな。やはり、我々は、どこまでも無力だ」

 ラッセルの言葉は、ミッカスも思っていたことだった。

「この二人。連れ帰って、秘書にするよ」

 ミッカスは、言った。それに対して、ラッセルは頷く。

「ああ、それがいい。幸いだったのが、まだ幼いことだ」

 幼ければ、覚えていないだろう。それは、大変幸運なことだ。物心がつきすぎてからだと、正直、つらいだろう。

「爆弾の投下、終了しました。大分減りましたが、依然、A支部に向かっています。しかし、魔装爆弾が尽きてしまい」

「よくやった、ご苦労だった」

 ラッセルは労いの言葉に船員は、敬礼をし、持ち場へ戻った。

「あとは、A支部で何とかしてもらうしかないだろう。あそこには『怒りの顕現者』も染井君もいるからな。それに、紫雨零士と言う少年も」

 ラッセルの呟きに、ミッカスは同意した。

「A支部は堅牢だし、まあ、何とかなるだろうね。それにしても、久しぶりに先輩に『ミッカス君』なんて呼ばれたよ」

「先輩と呼ぶ割には慕う心がないのは相変わらずだな。まあ、君に『先輩』と呼ばれるのも久しぶりだ」

 そんな言葉を交わしながら、二人は、再び席についた。まるで先ほどまでの戦いが嘘だったかのような雰囲気。助けられた二人の少女は、医務室で寝ていることだろう。

「さて、支部の方に連絡を入れなくてはならないな」

 ラッセルは、無線を取り出すと、自分の支部、B支部に連絡を入れた。

「聞こえるか。こちらラッセル・グレーだ。B支部連絡班、聞こえているか」

「感度良好です。こちらB支部連絡班Bランク候補生のシーゲス。支部長、どうかされましたか」

 ラッセルの声に無線の向こうで応答したのは、一人の少年。

「シーゲス・ファランツェ君。至急、A支部に伝令を願いたい。内容は『幽賊害蟲の発生』だ」

「発生?!分かりました。至急伝令を飛ばします。脅威は、」

 シーゲスの言葉にラッセルは、数秒考え、答えた。

「オレンジだ。警戒レベルオレンジ」

 オレンジとは、警戒レベルの中でも二番目に危険なものだ。下からグリーン、ブルー、オレンジ、レッドと順に警戒レベルが上がっていく。

「オレンジ。準危険ですか?」

「ああ、我々が対処する前であればレッドだった。注意事項として『異常種』が居ることを伝えておいてくれ」

 その言葉に、無線の向こうで息を呑むのが分かった。

「了承しました。しかし、それほどの事態となれば、我々から仲間を派遣したほうがよいのでは?」

 それは、B支部から派遣したほうが良いと言う意見でもあった。

「いや、それには及ばないだろう。ふむ、まあ、橘君が行く前でよかったと思うべきか、橘君の本気を見れなくて残念と思うべきなのか」

「交換派遣員、ですね」

 無線の向こうの返事に、「うむ」と頷いてから、話を戻す。

「では、伝令を頼んだぞ」

「はい!」

 力強い返事に安心し、ラッセルは、無線を切る。

「それにしても、本当に向かわせなくて大丈夫だろうか?」

 ミッカスが聞いてくる。

「だったら君のところの『C支部特別対策班』を遣せばよかったんじゃないのかね?」

 ラッセルの反論に、ミッカスは「うっ」と返す言葉も無いようだった。

「どうせ、交換派遣に、あの問題児君をだすんだろう?」

「問題児……あれは、そんな生易しい子ではないですよ。底知れない、心の裡が読めない、そんな子だよ。頭の中で常に何かを企んでいる。まあ、だからこそ、心強くもあるんだが。あの子の騎士……熾神(さかがみ)君も、底知れない雰囲気と鋭さを隠し持っている。紫雨零士君が、全てを包み隠す性格なら、あの二人は、全てを隠蔽する性格だよ。自分のことを隠すためなら、何でもしそうで恐ろしい。まったくもって、おそらく、あの二人は、Aランク候補生どころか、Aランク、いや、あの子はもっと上かもしれない」

 ミッカスの長々と語るその二人に対しての嫌味と畏怖。

「それほどか。こちらは、橘君を送り出そうとしているのだが、それほどの人物が来るとすると、彼女も送っておくべきかもしれない」

 ラッセルの言葉にミッカスは驚く。

「あの橘君だけでも驚異的なのに、B支部には、まだ隠した切り札があるのかい?」

 ミッカスは興味深そうに言った。

「いや、あれは、切り札にできるような少年ではないのだが。まあ、彼の力は、それこそ、橘君に劣らないよ。いや、もしかしたら彼女以上の力を有しているのかも知れないな」

 ラッセルはそう呟くと、ふぅっと息を吐き出す。張り詰めていた空気も払拭する。

「まあ、余談だが、紫雨零士と言う少年。彼は、きっと、何かをやってくれるような気がするんだが」

「奇遇だよ。丁度、そう思っていたところさ」

 ラッセルとミッカスがそんな話を軽い口調で始める。すると、医務室の女医がやってきて、「二人が目を覚ましましたよ」と告げた。二人は、談笑をしながら医務室へ向かった。


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