表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
17/130

第17回 袁家と周家

孫堅・周瑜らが決死の出撃をします。

第17回 袁家と周家


 先祖代々、周家と袁家の関わりは深い。共に三公を輩出する家柄で、自然と結びつきが強くなっていった。


 袁家は三公(司徒・司空・太尉)すべてを歴任した袁湯えんゆの代に至って絶世を極め、その子、袁逢えんほう袁隗えんかいも父の後を継ぎ三公の職に就いた。

 袁術えんじゅつ袁紹えんしょうは袁逢の子である。


 周家も周瑜しゅうゆの従父である周忠が三公のひとつ太尉を務めている。


 周瑜は周家の本家筋では無い。

 しかし周家の本家は周瑜に絶大な期待をかけていた。

 周家本家は初め、孫堅そんけんという氏素性の定かでは無い男の下で戦に出すことをひどく渋った。

 十五歳の周瑜本人が毎日のように本家に出向き、説得をしたのである。

 最終的には、本家から援助は惜しまないという確約を取り付けている。


 周瑜は周家の豊富な人脈を活用し、都である洛陽の情報収集に努めた。

 己を知り、敵を知ることが一番だと考えたからである。


 中央の官僚社会は腐りきっていた。

 十二代皇帝の霊帝が官位を売りに出していたような時代である。

 人格や徳などはまるで関係なく、銭を持っている者が高位に進む。曹操そうそうの父である曹嵩そうすうは一億銭を払い大鴻臚たいこうろという位を購入していたし、袁隗は短期間で二度も司徒を就任し、その後上位の太傅となっていた。


 霊帝が崩御した後、外戚と宦官が虐殺され、董卓とうたくが台頭すると、悪しき習慣は大きく改革されることとなる。

 官位の売買は廃止、能力のある者、志のある者が重く用いられることとなった。それまで宦官に排斥されてきた孝廉こうれん出身の「清流派の官僚」たちが次々と中央の高官、地方の太守などに任命されたのである。


 董卓の恩に懸命に応えようとする者が大多数であったが、独裁的な董卓の政治に異を唱えて反董卓連合を組織する者たちも現れた。

 この時、裏で糸をひいていたとされる袁隗は三族まで処刑されている。


 都には袁隗を慕う者が多くいて、この件によって董卓は憎むべき標的となった。特に袁隗の師弟たちは都に隠れ住んで反乱を画策し、積極的に外部の地方と連携をとるようになっていった。


 袁隗亡き後、都にあって反董卓の第一人者は司空である楊彪ようひょうとなった。

 この楊彪は袁隗の兄である袁逢の娘(袁術の妹)を妻に娶っている。

 袁家に並ぶとも劣らない名家である楊家を優遇した董卓であったが、長安ちょうあん遷都に真っ向から異を唱える楊彪に対し、司空の官位を剥奪している。

 

 罷免されたとはいえ、楊彪の中央の政界における影響力は計り知れないものがあり、潜伏する反乱分子の柱石を担っていた。


 周瑜が目を付けていたのがここである。周瑜は本家の力を借りて楊彪と連携を取ることができるようになった。


 董卓軍の細かな状況、反乱分子の情報が周家本家に伝わり、それが周瑜の下に届けられた。


 様々な情報から周瑜は董卓がすぐに洛陽らくようから西の長安に遷都することを確信していた。


 汜水関の軍勢はそのための時間稼ぎであることも見抜いていた。


 敵は劣勢になっても董卓本軍からの後詰は無い。


 表の看板だけが見事であり、中身は空っぽ。それが汜水関を守る董卓軍の正体だった。


 蓮根も同様に中身が空である。

 周瑜が諸将を前に孫堅そんけんに対し進言した時、董卓の軍を「蓮根」と称したのはそのためである。

 

 しかし、西の董卓の本拠地を落とすことは容易なことではない。精強な騎馬隊は西に温存されているし、地の利も董卓にある。

 そこまで行くと反董卓連合軍は兵糧の輸送も困難になる。

 現状のまとまりでは洛陽を抜いた後で組織は瓦解するだろう。


 この戦いで勝機を見出すのは非常に難しい。 


 だが、宮廷では新帝を中心に反董卓の傾向が強くなってきている。例え長安への遷都に成功しようと董卓の寿命はそう長くはないだろう。


 董卓もまた自滅の道を進むのだ。


 そうなればこの後、董卓との戦争で功績のあった者は必ず重く用いられることになる。


 袁家の人脈は広い。


 袁隗が死のうが、袁逢が死のうが、培ってきた名声と信頼は廃れることはないだろう。


 孫堅に袁術に従うよう勧めたのは、何を隠そう周瑜であった。

 袁術は袁紹とは違い袁逢の正妻の子であり、嫡男の兄が董卓に殺された以上この乱が収まれば正式にそのすべてを受け継ぐことになるはずだ。


 袁術旗下にあって最大の手柄をあげることができれば孫堅の夢は充分に叶えることができるのである。


 名実共に孫堅は長江以南を支配することができるようになるのだ。


 中入りの作戦を逆手に取られ、胡軫こしん軍の伏兵に敗れ、敗走することだけは周瑜の予想外であった。周瑜の頭の中でも、汜水関を放棄してこちらを迎え撃ってくるとは思ってもいなかったのだ。

 胡軫軍が反転してこちらを迎え撃ってきたと知った時、汜水関は連合軍本隊の中入りによって落ちると確信した。


 これで孫堅軍が手柄をたてる機会を失ったと愕然とした。


 しかし、どのような策略を用いたのか、董卓軍の汜水関を守る五千の騎馬隊は反董卓連合七万の軍を撃退した。

 撃退したのは呂布りょふという男だそうだ。

 都からの情報ではまったく触れられていなかった。

 無名の将。

 ただ、そのお陰で孫堅軍は再度、洛陽一番乗りの機会を得た。


 籠城中、あらゆる可能性を考え、何度も筋道を構築し直し、周瑜の出した答えは奇襲だった。

 それも敵が退却を決めた絶妙なタイミングでだ。

 

 遷都の決まっている董卓軍は必ず洛陽を捨てる。


 問題はそれがいつなのかということだけだ。


 周瑜はそれが袁術の陽城到着だと睨んでいた。


 当然ながら袁術の軍には董卓の脅威となりえる力など無い。

 兵力は孫堅軍と合わせて三万から四万。

 弱兵である。

 しかし、袁術の効果はそれで測ることはできないのだ。袁家筆頭である袁術の接近は必ず都の反乱分子に連動する。他の諸侯がいくら迫っても董卓は焦ることはないだろうが、袁術だけは違う。


 袁家の力は、歴代のまつりごとを担ってきた名家たちの力だ。


 董卓は感じている。


 いくら皇帝をすげ替えようが、反抗的な官僚を処刑しようが、精強な軍勢を率いようが、変えられない流れが国にはある。

 董卓が恐れているのはその歴史の圧力だ。

 傍から見ていてもわからぬ深さ、流れの激しさに対し、董卓は打つ手を無くしているのだ。


 袁術が陽城に着陣した時、それがすなわち洛陽が火の海と化す合図となり、董卓軍すべてが西へ撤退する時となる。


 周瑜はそれを手勢を使って演じようとした。

 袁術軍に対し、張繍ちょうしゅうの功名な罠が仕掛けられており、陽城に着くのがいつになるかわからなかったからだ。

 だからこそ強引に胡軫軍退却の狼煙をあげようと周瑜は画策した。

 董卓軍から見つけやすい場所に配下の董襲を袁術からの輸送部隊のていで配置したのである。


 実際、紀霊や趙雲らの袁術軍の援軍は到着し、胡軫軍は包囲を解いて退却することになった。


 ここで奇襲を行えば、圧倒的な損害を与えることができる。

 そして一気に汜水関を抜き、洛陽に到達できるのだ。

 この戦争はそこで終わるだろう。董卓軍と連合軍の両軍から停戦の使者が行き交うこととなる。


 この奇襲に成功すれば夢を実現させることができる。


 

 周瑜が丘を見上げた。


 無人の丘から一筋の滝の流れのように騎馬隊が砂埃をあげてこちらに向かってきた。


 (華雄かゆうか……やはり来たか。)


 退却が決まってもなお、孫堅軍撃退を目論んで息を潜めていたのだ。


 孫堅軍はちょうど北門の囲いを破り、胡軫追撃の構えとなっていた。

 まともに華雄の突撃を受ける格好だ。


 すべてはこの一撃を乗り切れられるかどうかにかかっている。


 精強無比の騎馬隊の逆落としに対し、気力だけで剣を振るおうとする孫堅軍。

 肉体の限界などとっくに通り過ぎている。

 勝ち目は確かに薄い。

 しかし、今、ここで華雄の軍を破らなければ胡軫の本陣には手が届かず、汜水関はその軍勢によって固められるだろう。

 孫堅軍は何もできず関の向こうで燃え盛る都をただ茫然と見守るしかなくなるのだ。


 勝てば変えられる。


 この一撃を耐えられればいいのだ。


 

 無論、何も策が無い訳ではない。


次回こそ華雄騎馬隊VS孫堅・周瑜歩兵隊VS趙雲・関羽・張飛騎馬隊です!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ