表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
124/130

第16回 偽兵

兗州の夏侯淵ら諸将VS呂布軍の激突が始まります。

第16回 偽兵


<地図> 

                河北(冀州)

_____黄河_______________           

長安   洛陽   陳留(兗州) 東郡(兗州)   


  南陽(荊州)  潁川(豫州)     下邳(徐州)

  

  襄陽(荊州)    汝南(豫州) 寿春(揚州) 

_____長江_______________                              

                   曲阿(揚州)



 兗州えんしゅう済陰せいいん


 袁術えんじゅつ軍十万が、曹操そうそうの同盟破棄によって本拠地の寿春じゅしゅんへの撤退をしている頃、兗州では曹操軍と張邈ちょうばく呂布りょふ連合軍との決戦が近づいていた。

 

 城攻めを嫌う呂布は、曹操軍が張邈の拠点である陳留ちんりゅう郡を攻めるのを待ち構えていた。

 一方、鄄城けんじょう夏侯淵かこうえんら諸将は、籠城策をとらず、打って出ることを選択していた。

 両陣の思惑がピタリとはまり、済陰せいいんの東部にある定陶ていとうという場所で対陣することになる。


 呂布軍二万。

 対して曹操軍四万。倍の兵力である。


 しかし、陳留からは張邈の弟の張超ちょうちょうが率いる兵三万も近づいていた。

 

 合流すれば張邈・呂布軍は五万となり、兵力で上回ることになる。



 「まさかこうも安易に打って出てくるとは思わなかったな」

巨躯を赤兎馬に任せながら呂布がそう陳宮ちんきゅうに話かけた。

 陳宮は軍師たる軽装をひるがえしながら、馬を操り、その馬首を西に向ける。

「何か策があるはずだ。野戦で勝てるとは思ってはいまい。あちらには程昱ていいくという知恵者もいる。必ず何か策を弄してくる」


 呂布も同じく西を眺めた。


「陳留にか?張邈の陣に埋伏でも仕掛けたか」

「あり得る話だ。問題は曹操がどこにいるかだろう。この定陶にいるのか、陳留に伏兵として駆けている可能性もある。もしくは豫州よしゅう潁川えいせん

「決戦を前に潁川で尻込みしているおとこでもあるまい」


 陳宮は少なからず焦りを感じながら、

「いくら密偵を放っても曹操の居場所がつかめない。曹操は必ず最も重要な場所にいるはずだ」

「ここではないのか」

「わからぬ……」

「攻めてみればわかることだ。張遼ちょうりょうの騎兵二千を仕掛けてみるか」

「そうだな。うかつに全軍で動くと危険かもしれないな。曹操の存在がつかめるまでは慎重にいったほうがよさそうだ」


 呂布は迷っている陳宮を見るのが珍しく、微笑みながら、伝令に指示を与えた。


 すぐに馬蹄が轟き、張遼の二千騎が対陣する曹操軍に突っかかっていく。


 曹操軍の陣形は方陣。守りの陣だ。

 馬柵も幾重にも置かれていた。騎馬隊を自由にさせない工夫だった。


 曹操軍の前陣は二陣で並列していた。

 八千の歩兵を率いる楽進がくしんと同じく八千の于禁うきん


 張遼は東の于禁の陣に近づいた。


 動きはない。


 立てられた馬柵に、鉤のような金具のついた縄をかけて倒す。

 すると于禁軍から矢が飛んできた。

 張遼はすぐに馬首をめぐらし一端退く、すぐに反転し、また馬柵を倒す。


 五重に敷かれた馬柵の二枚があっという間に剥がされた。


 于禁軍からの弓勢はあまり強くなく、張遼軍で傷を負うものはほとんどいなかった。


 西の楽進の陣も、中央の夏侯淵の陣一万も静寂を保っている。


 呂布は退却の鐘を鳴らす。


 張遼は一兵も損なわずに戻ってきた。もはや張遼の騎兵の統率力は呂布に匹敵するといってもいい。


 「どうだ、公台こうだい(陳宮の字)。何かわかったか」

「弓勢が弱い。突撃を待っているかのようだ。何か備えがあるのだろう。落とし穴か…。後詰の曹仁そうじん曹洪そうこうの兵も動きがないな」

 

 陳宮はそう呟きながら頭をひねった。

 曹操の意図がまるでわからない。このまま全軍の突撃を受ければ、例え方陣を敷こうが呂布の突撃は止められず陣は崩壊する。

 誰にでもわかる話だった。


 「偽兵かもしれないな。鄄城の民衆に装備をさせて立たせているだけかもしれぬ。であればこの弓勢も納得できる」

「本隊はどこだ」

「おそらくは西の裏道を通って陳留に向かっているのだろう。先に張邈殿の陣を潰す算段かもしれぬ」

「であれば、鄄城は今はからというわけか」

そう呂布が問うと、陳宮は伝令に向かい、

「張邈殿の陣に至急伝えよ。伏兵に備えよと」

と指示を下した。


 「あれが偽兵かどうかは全軍で突っ込めばわかることだ。あれこれ悩む必要はあるまい」

「いや、奉先ほうせん(呂布の字)よ、それはまだにした方がよい。斥候が曹操の居場所を探している。もし陳留に向かっているのであればそれもよし。挟撃が可能だ。ここにいるのであればそれもよし。突撃で討てるだろう。しかし別の場所にいるのであれば話は別だ。他に策略があるに違いない。私はこの兗州の地をくまなく調査したが、この定陶ほど騎馬隊が動きやすい場所はない。明らかに我が軍が有利な地形。ここで決戦するなど万に一つも考えられぬ。曹操はそんな戦はせぬ」


 呂布の旗下の兵たちは突撃したがっていた。

 迷っているのは軍師である陳宮だけだった。


 そのとき、斥候から報告がきた。

「鄄城より陳留に向けて出陣した騎兵隊を見つけました。数にして七千あまり。率いるのは曹操だと思われます」

「なんだと、曹操を見たのか」

陳宮が斥候に詰め寄った。

「曹操本陣の旗、曹操の甲冑姿を見ました」

「それでは本物の曹操かわからぬ」


 次の斥候が矢継ぎ早に、

「鄄城から出撃した騎兵、虎彪騎こひょうきと判明しました」

「曹操旗本の精鋭だな……」

 陳宮の目が輝く。


 さらに斥候が来て、

「裏道より歩兵1万、騎馬隊に続き、陳留を目指して進軍しています」

「そうか、一万も……そうなると目前の方陣、ほとんどが民、百姓の類。偽兵に違いない」

 「突撃すればわかる話だ」

呂布はさらりとそう云った。


 「……いや、今から追えばちょうど張邈殿の陣と挟撃できる。奉先、曹操を追おう」

陳宮が自信をもってそう叫んだ。


兗州の戦いはまだまだ続きます。

次回は両軍さらに衝突するのか。

乞うご期待!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ