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第15回 命を懸けた時間稼ぎ

袁術の宛城攻略は目前となりました。

果たして見事落城となるのか。

第15回 命を懸けた時間稼ぎ


<地図> 

                河北(冀州)

_____黄河______________           

長安   洛陽   陳留(兗州) 東郡(兗州)   


  南陽(荊州)  潁川(豫州)     下邳(徐州)

  

  襄陽(荊州)    汝南(豫州) 寿春(揚州) 

_____長江_____________                               

                  曲阿(揚州)



 紀霊きれいを大将、橋蕤きょうずいを副将として先鋒隊二万がえん城の城内に続く秘密の抜け道へと向かっていく。

 残りの兵の半分を城の包囲に回した。あくまでも攻城戦の構えを見せるためだ。

 こちらは外様とざま黄蓋こうがい朱治しゅちに任せている。

 譜代の雷薄らいはく陳蘭ちんらんを本陣に残した。三万の兵がいる。旗本はいつものように陳紀ちんきが率いていた。


 隙のない布陣だ。


 仮に張繍ちょうしゅうが城から打って出てきても十分に防ぐことができる。騎兵の突撃をこらえ、そのまま黄蓋らが包囲し、壊滅させることもできる手はずになっていた。


 先鋒隊が上手く城内に入り込めれば、それすらなく楽に城を落とすこともできる。


 南からの劉表の援軍には曹操そうそうの嫡男・曹昂そうこうを当てたが、劉表軍はまだまだ遠い。城が落ちたことを知ればそのまま退くだろう。


 そしてこの宛城を拠点として次はさらに西の長安ちょうあんの都を攻める。


 俺は忙しさと疲労から幕舎でうたた寝を始めていた。

 動きがあれば注進が入ることになっている。

 そこまではゆっくり休んでおくことにしよう。俺はぼんやりした頭でそんなことを考えていた。


 しばらくして最初の注進が入った。

「抜け道は罠にございました。紀霊様、橋蕤様の両将は待ち伏せに遭い、戦闘中にございます。半数は罠にかかり負傷したとのこと」


 やはり罠だったか。

 しかしこの犠牲はやむを得ないものである。

 当然考えられることであったからだ。と、なると裏道にも罠は仕掛けられているだろう。


 次の注進が入った。

「抜け道は罠でしたが、力で押せば城内に潜入できるとの紀霊様からの言付けにございます」

「よし、陳蘭に一万を付け、抜け道の先鋒に加勢せよ。先鋒を一端退かせて休ませるように。負傷者を収容せよ」

「承知いたしました」


 城内に入って門を開けてしまえば城は落ちるのだ。


 さらに三番目の注進が入る。

「城内より張繍兵三万打って出てきました。現在は黄蓋・朱治の両将が防いでおります」


 こちらもやはり打ってきた。騎兵の強い味を出すためには出陣するしかない。

 その動きを事前に察知して、本陣に突撃させるのを防ぐとは黄蓋も朱治もさすがは歴戦んの勇であった。


 「よし、雷薄に一万をつけて加勢させる。兵の数ではこちらが上だ。臆せず戦うよう指示せよ」

「一切承知いたしました」


 これで本陣は一万を残すのみとなった。状況によってはこの一万も動かさねばならないかもしれない。

 危険は覚悟のうえだ。

ここが正念場なのだ。ここで勝てば長安への道は開ける。


 四番目の注進は吉兆であった。

「先鋒並びに陳蘭様、城内侵入まであと一息とのことです」

「おお、そうか。いいぞ」


 五番目の注進も吉。

「出撃した張繍の騎馬隊、城内に撤退いたしました。黄蓋様、敵の副将の首を討ちましてございます」

「そうか見事防いだか。よし。黄蓋の武功素晴らしきものと伝えよ」

「はい。承知いたしました」


 しかし六番目の注進から流れが変わってきた

「左将軍様、えん城に籠る張繍ちょうしゅうより降伏の使者が来たとのことです」

「降伏だと。使者を通せ。張繍の首と引き換えならば兵の降伏をゆるしてやろう」

「そ、それが、降伏の使者がこの本陣ではなく、曹昂様の陣に向かいましてございます」

「なに?ははっは、本陣がどこかわからぬとはとんだ使者だの。まあいい、こちらに連れてまいれ」

「そ、それが、もう用なしと言い残し城に戻りましてございます」

「用なしとはどういうことだ。降伏の使者ではないのか」

「はい。情報が錯そうしておりまして、しばらくお待ちください」


 何か腑に落ちない心地である。

 何か重大なことを見落としてはいないだろうか。


 六番目の注進が着いた。

「張繍は降伏致しました」

「わしは降伏を許してはおらぬ。張繍の首が条件だ」

「それが、曹昂様が降伏をお許しになられました」

「なんだと。ど、どういうことだ」

「はい。張繍軍はすべて、曹操軍に降るとのこと」

「曹操に降る?曹操に降るは俺に……袁術軍に降るも同じではないか」

「張繍の意図、どういうことかわかりません」

「使者をこちらに回せ。直接俺が話をする」

「承知いたしました」


 七番目に訪れたのは、曹昂の護衛役として付けられていた曹操の甥の曹安民そうあんみんであった。

 「何用で参った。曹昂は今、どこにいるのじゃ」

「はい。左将軍様。曹昂様は宛城に入られました」

「なんだと。俺の許しもなく勝手に敵城に入ったのか」

「お借りした二万の兵をお返しいたします。今後、宛城の城主は曹昂様でございます。申し訳ございませぬが、ここから先、西には一歩たりとも進ませませぬ」

「裏切ったのか」

「長安にいる献帝けんていの御身を守るためでございます。もしこの宛城が落ちれば、長安にいる李傕と郭汜は手を結びましょう。もしかするとさらに献帝の御身を西へと移すことにもなりかねませぬ」

「こざかしい。この袁術をたばかったな」

「曹操様よりの伝言にございます。同盟はこれをもって破棄といたします。大人しく寿春に帰るのならば手出しはしませぬが、あくまでも戦われるとなりましたら、潁川えいせんからも援軍が来ることになっております。そうなれば挟撃されて左将軍様の軍は全滅する憂き目にございます。ここは何も抵抗せずに寿春へ御引き返しください」

「張繍が降れば、李傕と郭汜が団結するのは同じこと。一体何を考えておるのじゃ」

「御使者の役目これまでにござる」


 曹安民はそう云うと立ち上がった。


 何か尋常ではないことを考えている目をしていた。


 「この者の首を刎ねよ。首を刎ねて宛城に送り届けよ」

俺は旗本頭の陳紀にそう命じた。

 曹安民は抵抗をしなかった。むしろ安堵の表情を浮かべている。


 曹安民が幕舎の外に連れて行かれたのち、また伝令が届いた。

 八番目の注進は主簿の閻象えんしょうからであった。

「いけません。いけませんな。潁川えいせんより夏候惇かこうとん軍二万、こちらに向かっているとのことです」


 ここにきて完全に図られたことに気が付いた。

 劉表の援軍が遅いのはこの機会を待っていたのだ。

 張繍、曹操、劉表が戦場に揃うことを。


 「先鋒の紀霊に伝えよ我が軍はこれより撤退する。退却の鐘を鳴らせ」

 

 俺は悔しさで唇を噛み締めながらそう命じた。

 口元から血が流れ、床に落ちる。


 本陣があわただしく動き始めた。

 曹安民の話が真実とすれば追撃はこない。夏候惇との戦闘も避けられるだろう。

 

 俺は曹安民の首を刎ねたことを少し後悔していた。

 もしかすると追撃はあるかもしれない。曹安民は曹操の甥なのだ。



 しかしその心配は杞憂であり、宛城の囲みを解いて退却していく袁術軍に対する追撃はなかった。


 潁川の夏候惇も大人しく自城に戻った。劉表の援軍も同じである。


 状況は以前に戻ったといってもいい。


 汝南じょなんを通過し、寿春まで戻ったところで、また伝令が届けられた。


 宛城を乗っ取った曹昂が殺されたという報であった。警護役の典韋も同様である。

 劉曄りゅうようの生死は不明。

 詳しい経緯も不明である。

 

 しかし、宛城は再び張繍のものとなった。


 俺は再度、宛城への進軍を整えたが、この遅れが最終的に献帝けんてい救出の致命的な遅れとなることになるのである。


 そして、献帝救出は完全に曹操の手にゆだねられることになった。曹操は嫡男の命に代えて、その時間を作ったのだ。


 俺はこのときその事実を知らなかった……。


曹操なき兗州の攻防。

曹操軍は呂布の猛攻をいかに防ぐのか。

次回乞うご期待。

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