表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/11

第三話

 俺たちは、今、仕留めたキングワイルドボアを運んでいるところだった。ただでさえでかいのだ。まるまる運ぶとなると相当な労力となる。



 まあ、そのまま運んだらだがな。



 中年へと差し迫ったおっさんにとって荷物運びは大変だ。翌日には、耐え難い程の筋肉痛に悩まされてしまうことになってしまう。


 そこで、俺が考え付いたのが、この折り畳み式荷車だ。普段はリュックに入れられるし、何より帰りは馬がいなくても楽だ。簡単に荷物が運べる。


 まあ、そんなにおっきくないやつだから今回のキングワイルドボアは乗っけると少し肉が地面について運びずらかったが、無いよりは簡単に運べるようになった。しっかり紐で縛ったため、落ちることはないはずだ。


 軽く地面に触れてるせいで、いつも以上に疲れたが、頭に乗ってるリルと遊びつつひたすら歩く。


 確かに、道中は中々長かったが、どうにか町へとたどり着くことができた。



 未だに頭の上に乗ってはしゃいでるリルを適当にあしらいつつ、ギルドに向かうことにする。



 まぐれにしてもAランクをクリアしたんだ。報酬金はかなりでるだろう。酒にしようか、タバコにしようか。いや、駄目親父には戻るまい。自重せねば。


 しかし、最近、食費がかなり高かったからな。なんてったって、リルはかなり食べる。やはり、多めに食料を買おう。食料の需要と供給が追い付いてなかったからな。第一、そろそろ俺も食わねばならん。


 いや、待てよ。そいやぁリルになんか買ってやるのもいい。中々安定した収入も得られず、その日暮らしだったからな。だから、リルにはなんも買ってやれなかった。大切な幼少期に遊ばないことは大変なことだ。リルには子供らしいことを一切してやれなかったしな。やっぱり、今回はリルになにか買おう。


 そんな、適当なことを考えながらギルドに入る。



 ギルドは、押し戸だ。いつものように、何の気なしに入る。瞬間、空気が変わったのが分かった。全員が一斉に俺を見る。

 いや、正確には後ろだろう。

確かに、おっさんがイノシシ引きずって来たら目につくからな。ましてや、Aランクの魔獣だ。気にするなっていうほうが無理な話だ。頭に乗ってたリルもびっくりしちゃって俺の頭にギュッとしがみついてきた。



 ごめんなさい、リルさん。おっさん最近髪抜けはじめて来てるんですよ。もうちょっと、丁寧に扱ってください。



 場違いな心配しながらも、早く俺の髪n…リルを怯えさせないためにさっさと受付に行くことにした。


 場所は当然巨乳のねーちゃんの所だ。貧乳はいらん。異論は認めん。


 「Aランククエスト、キングワイルドボアの討伐クリアだ。引き換えに報酬金をくれ。」



 「か、畏まりました!直ちに検査に参りたいと思います!」



 そういって慌てたようにこっち側に回ってくるねーちゃん。こらこら、そんなに走ると胸が…ゲフンゲフン。


 そうして、キングワイルドボアのもとえたどり着くとなんと、両手を広げて、うぅぅん、うぅぅん、と言いながら持ち上げようし始めた。


 この娘、アホの子だな。一瞬でわかった。俺ですら少し動かすので限界だったんだ。そんな細腕じゃ絶対動かせないだろう。第一荷車に載せてるのに何故気づかない。


 あ、毛で埋もれてるから見えないのか。

 ようやく、理解に至るが、それでもこの巨体を何故持ち上げようとするのかがわからない。



 客観的にみても、やはり、イノシシに抱き着く巨乳のねーちゃんは滑稽だ。皆もクスクス笑っている。



 自分が笑われてるのが分かったのかねーちゃんの顔がみるみる真っ赤になっていってるのが分かる。


 なんか、こう羞恥に抗う女の子ってなんか込み上げてくるものがあるな。


 少しだけ萌えた俺は、手伝ってやることにした。


 普段は出さないほどの年上という色気を出しつつ、(好きなだけ笑え)未だに悪戦苦闘してるねーちゃんの肩をガシリと掴んで、声をかける。


 「お嬢さん、女の子はそんなことしなくていい。俺が運んでやるから少しどけな。」


 「ひゃ、ひゃあ。ご、ごめんなさい。あ、あたしどんくさくて。」


 バッと音が聞こえそうな程の勢いで振り返ったねーちゃんはその言葉からは、考えられないほどの速さで後退りをする。

 あっこけた。


 ワタワタと手を顔の前で動かして焦りながらもペコペコお辞儀をする彼女は、紳士である俺にとっては眼福である。



 だが、声をかけただけなのにそんなに後ずさらなくても良いじゃないか。カッコいい兄ちゃんじゃなくておっさんで悪かったですね。



 そうさ、そうさ。何時だって世の中は不平等さ。ちょっと、声をかけたくらいで、ガチでキモがられてる。おっさんはそんな存在。さっきまでのウッフンなテンションもアッハンと下がったのが自分でも分かった。二度とこんなことしない。俺の天使はリルだけなんだ。そう心に思いながらもイノシシを持ち上げるのではなく紐で引っ張る。

 「では行きましょうか。案内をお願いします。」


 「は、はい。分かりました。では、こちらに付いて来てください。」


 「ああ、分かった。」



 確かに、キモがられてるかもしれない。だけど、それでも紳士的に振る舞う。それが、かっこいい。



 …負け惜しみ的な考えを脳内で再生しつつ、ねーちゃんの案内に付いていくことにした。






受付嬢視点

*******************



 「あっ、あのう……。あたし、シェラって言います。」



 「シェラさんか。よろしく。俺は、ガゼルだ。」



 「リルは、リルラだよぉ!」



 ガゼルさん逹と一緒に廊下を歩く。あたしは、それだけで緊張で喋れなくなりそうだった。


 ガゼルさんは最近有名になってきた人だ。フラッと現れては、適当にクエストをクリアしていく。確かにランクは低いものばっかだったけど数が多かったし、成功率も高かった。何でも、噂では、幼子の食費を賄う為にやっているんだとか。でも、今会ってみて分かった。やっぱり噂は本当だったんだ。




 とっても優しい人だと思う。最近の食料の値段の高さは異常だ。人一人増えただけでもかなりの負担となる。ましてや、妖精族となると段違いだ。長命種である彼らは、幼い時に栄養を一気にためる性質がある。そうやってその後の余生を伸ばしていくのだそうだ。



 そういえば、今年の食料の値段が高いのは、理由があったんだっけ。なんだか、今年は1000年ぶりの暗月の年らしい。だから、動物も少ないし、日照時間も足りないんだって。


 あ、暗月の年っていうのは、龍が蘇る年っていうことらしいよ。大昔の占い師さんが予言してたみたい。まぁ、龍なんて空想上の生き物だから出ないと思うけどね。馬鹿馬鹿しいよ。



 だけど、そのせいか、最近の魔獣は危ないんだって。腹を空かせた魔獣は攻撃的になる。そんな、魔獣は本当に危ない。だから、最近の冒険者は、中々魔獣に手を出せないみたい。 だから、今回、ガゼルさんがキングワイルドボアをギルドに運んで来た時、ギルドの皆、固まっちゃったんだと思う。あたしもびっくりした。


 しかも、凄いのはそこだけじゃない。体調3メートルは超してそうなキングワイルドボアを、縄一本のみで引きずってきたんだもん。どんだけ凄い筋肉なんだろう。そんなの見せつけられたら、そりゃぁびっくりするよ。



 その後すぐに、ガゼルさんがこっちに来たときは、スッゴくびっくりした。あたしは普段からどんくさくて、仕事も遅いからギルドの皆からはいい笑われもの。そんな、あたしの所に来ちゃうんだからとっても焦っちゃった。今回は絶対に失敗しないって思ってたのに。

 さらに悪いことに、テンパっちゃって、キングワイルドボアを一人で持ち上げようとしちゃったり、尻餅着いたり、また皆に笑われちゃった。あぁ恥ずかしい。



 ここでいつもならあたしを馬鹿にするヤジが飛んでくるんだけど、今日は違ったんだ。ガゼルさんがあたしのこと助けてくれました。普段なら、意地悪な冒険者さん達がダメなあたしのことを馬鹿にしてゲラゲラ笑っていくんだよ。酷いよね。なんか、あたしの反応が面白いらしいけど、やられるこっちにしてみれば大迷惑だよ。だから、毎回言い返そうと思うんだけど、恥ずかしくて、なんも言えなくなっちゃう。



 やっぱし、男の人は優しさだよね。ぶっきらぼうな口調な癖にしっかりと面倒見てくれる。そんな、包容力のある男性ってスッゴい良いと思う。ガゼルさんかっこいいなぁ。


 目が合っちゃって、ついつい、顔を赤くしちゃってまた、テンパっちゃったけど、そんなあたしを見ても苦笑して見ないふりをしてくれたのは、ガゼルさんみたいな大人な男の人にしか出来ないことだとおもう。



 「ガ、ガゼルさんは何がお好きなんですか?」


 「えぇっとね、リルは、おいちゃんが作った料理が大好きです!」


 「じゃあ、俺はリルが俺の料理を食べてる瞬間が好き!」


 「え、えぇっとね、じゃあ、今日のリルはいっぱい食べたいと思います。」


 「じゃあ、今日はリルが大好きなゴーヤのマヨネーズ焼きいちご風味ご飯にしたいと思います!」


 「やったぁ!」



 二人でキャッキャやってる様子は、本当に親子みたい。忙しないあたしでもこんな風に喋れるかな?でも、ガゼルさんならなんでも聞いてくれそうだよね。




 ふとあたしは、気付かれないようにさらりとガゼルさんの筋肉張った背中に触ってみる。





 ……やっぱ触れませんでした。



 前に注意を向けすぎたみたい。運んでいたキングワイルドボアに背中をキスされてしまった。


 ……凄い質量感。


 まだまだ、忙しなくて、自分に自信がないあたしだけどもっとガゼルさんとお近づきになりたいな。 そんな、ガゼルさんにとって傍迷惑なことを考えながら案内した。心はウキウキです。



 次は、もっと普通にしゃべれますように!

第三話にしてやっと判明したおっさんの本名。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ