仮想彼氏・只今・戦闘中 第7回 新たな彼氏の中身
是非・第1回から第6回までもお読み下さい。DIG クリエイティブ アワード 2012投稿作品!!
「――で何なんだよ?お前」
口を開いたのは、大剣を構えた戦士風のキャラクター。
腰を深く落とし、いつ相手が斬りかかってこようとも迎撃できる構えだ。
「お前の得体が知れんせいで、あの女を強引に拘束する他なくなってしまっただろうが。一体、どうやって俺たちに介入した?なぜ、このデータを所持している?」
それに対峙するのは、日本刀持った偉丈夫。表情はなく、戦士の言葉に少しも反応を示さない。
「だんまりか。それもいいだろう……。だがな、ここまで踏み込んだオメーの存在は邪魔だ。意図はわからんが消させてもらうぞ、パトリックもどき」
戦士は装備していた剣を解除し、新たな武器にコンバートする。それはメリケンサックのような形の武器であった。
今まで動かなかった男、パトリックはその武器を見たとたん嬉々とした表情を見せた。
「兄ちゃん、それって直でくるやつだろ?違法武器ってやつだ」
普段のパトリックとは思えない、笑い方、言葉遣い。きっとこの様子をれいこが見たら卒倒するに違いない。
「お前、違法武器の存在を知っているとは。ますます危険!そして気味が悪い!」
「そんなに面白いもんをゲームマスターだけに使わせるのはもったいないだろ?しかし、アンタたちも入手していたとはね。もう少しの間泳がせといても良かったんだが、気が変わった」
パトリックも装備を解いた。しかし、別の武器を使う気配はない。
「ああ?装備を解いてどうしようってんだ。観念したのか、それとも策があるのか?」
パトリックは微笑して戦士を見た。
「知らんわけじゃねぇだろ?違法武器っつーのはデータの壁を超えて、実体に触れることができる武器のこった」
「何を言い出すか。つまらん問答をするつもりはない! 貴様が抵抗しないのであれば、早々に片付けさせてもらうぞ、ハッキング野郎!」
戦士は拳を握ってボクシングのような構えをとり、恐ろしい速度でパトリックとの距離を一気に詰める。対して、パトリックは構えもせず突っ立ったままだ。
「他愛もないな。アゴを砕いてそれで終わりよ!」
ふところ深くまで詰め寄った戦士の拳は、パトリックの顔の真下から垂直に打ち上げられる。目にもとまらぬスピードのアッパー。さらに拳には違法武器のメリケンサックがはめてあるのだ。
「ヒュゥゥゥゥゥ。遅いなぁ」
戦士は目を疑った。
彼のアッパーは確実にアゴを捉えたはずだった。少なくともアゴの数センチ手前までは、拳は確実にクリーンヒットの軌道を走っていた。
だが、パトリックはその拳をガードしようとせず、ましてや体の力を抜いた。そして後方へ体重移動をさせ、驚くべきことに拳の軌道を数ミリのところで見切り、スウェーで躱していたのだ。
「面白いことを教えてやる。違法武器とは別に実体に触れる服があるんだぜ。そいつを使えば、相手に悟られる事無く命を狙えたりもするんだ」
拳を振り抜き、体勢が崩れてしまった戦士は何とか防御の構えをとろうとするが、パトリックがすかさず絡みつき隙を与えない。
「俺が鎧の下に着込んでいるシャツはそいつなんだよ」
パトリックの腕が戦士の頭の胴体の間に繰り出される。それは正確に首を捉え巻き付いた。
「カッ――――!?」
巻き付いた腕は、戦士の実体。つまりプレイヤー本人の首を確かに締め上げている。
「こんな殺し方をされるとは思わなかったか? クク、俺に喧嘩売ったのが運の尽きだったな」
次第に戦士の抵抗は弱まり、力の入らなくなった腕は地面に崩れ落ちた。
戦士は動かなくなったが、首は時間をかけて念入りに締めた。動かなくなって1分弱、ようやくパトリックは拘束を解いた。
「ふー。ラドクリフの野郎も馬鹿だな。この程度の野郎で俺を消せると思ったのか、って奴は俺だと知らないんだった。そうだよな、俺相手ならアイツ直々やって来るはずだしな」
パトリックは屈みこんで、死体の指にハマったままのメリケンサックを外した。
「コイツはもらっておこう……。さぁて、また恋愛ごっこを頑張る時間かな。全く面倒だなぁ、あのクソ女。勝手に捕まりやがって。助けに行く手間が増えたじゃねぇかよ。――まあいい。ラドクリフの奴がデータのパトリックを殺してくれたおかげで俺も動きやすくなった。少々の手間には目を瞑るか」
そう呟いて、パトリックはログアウトした。
皆さんすいません!
見事に話をこじらせましたw
どうにか面白い方向に持っていってくださいよ!w