第八話:任務中の悪ふざけ
今現在、「テストなんて嫌だ。テストなんて無くなってしまえ」とぼやき続けて、母親から変な目で見られている人里桐です。
もうやだ………。
「………」
「…ん……よし!出来た」
「ギャッ!ギャギャギャギャー!」
数秒後、手足を縛られて転がされている哀れな小鬼の姿があった。小鬼は抗議の声(?)と思われるものをあげるが、当然無意味だった。
「なあ……千尋」
「何?」
俺は今自分の中で渦巻いている疑問を尋ねる。
「さっきのやつ……なんだ?」
「ん?何のこと?」
「とぼけるなよ。さっきお前が凄い跳躍力で小鬼を捕らえたやつだよ」
千尋はしばらく黙ると、ぽつりと言った。
「………そりゃ聞かれるか」
「当たり前だ、陸上の選手なんかよりよっぽど跳んでたぞ?
お前、ここに来るまで陸上界の期待のエースとかだったのか?」
千尋はそれを聞くと、一瞬キョトンとした表情になった。その直後────
「あはははははははははははははははははははははははは!
ちょww大河wマジww」
大爆笑し始めた。
「おい、俺は真面目に──」
「あははははははははははははは!」
~5分後~
千尋は一通り笑い終えたらしい。ようやく普通に喋れるようになった。
「あー……面白ヒッかったー」
「笑いすぎてしゃっくりが出るほど面白かったですかね?」
「だって大河ヒッの言ったヒッことがあまヒッりにも検討違いで……ヒッ……」
「悪かったなあ……」
怒りでこめかみをヒクヒクさせながら、俺は呟いた。
「ああー……さっきの身体能力が異常に上がった件はまた後ででいいかな?話すと長くなるんで」
千尋が口調を真面目にして言ってきたので、頷いてとりあえず了承との意を示しておく。
それを見た千尋は縛り付けられたまま放置されている小鬼に向き直って言った。
「さてと……お前の仲間はどこだ!」
(え……まさか鬼に人語は伝わるのか?)
千尋があまりに堂々と叫んだので、俺が[本気:疑惑=3:7]くらいで小鬼を見ていると、小鬼はなんと返事を──
「ギャギャー!」
しなかった。
「…………」
「…………」
「さて、こいつで仲間をおびき出そう!」
「なかったことにするな」
「………いつも思うんだ。分かってくれれば楽なのにって」
「結局ただの想像だろうが」
「でもその後また思うんだ、『よく考えると、そこまで変わんなくない?』って」
「今のくだり全否定かよ!」
「さて、こいつで仲間をおびき出そう!」
「そろそろ殴っていいか?」
「返り討ちにしてやろう!」
「ごめんなさい」
ボケとツッコミの応酬が終わり、千尋の眼に再び真剣な色が燈る。
「鬼ってのは人語を解せる程ではないけど、頭は普通の類人猿と同等かそれ以上いい」
「それが何か関係あるのか?」
「うん、つまり……仲間がピンチだと分かれば、助けに来るくらいには頭が働くんだよ」
「なるほど……」
そこで一旦言葉を止めて、小鬼の方をみる。小鬼は俺の視線に気付くと「ギャギャー!」と声を上げる。
「こいつは人質ならぬ鬼質ってわけか……」
「その通り」
「そんで集まって来た鬼を一網打尽か」
「イェス」
「それらをふまえて一つ聞きたいんだが」
「?」
「その小鬼達をどうするつもりなんだ?」
依頼書には『殲滅』と書いてあった。それはつまり………。
「さあ大河、手伝って。この小鬼を木から吊すから」
「………ああ」
千尋は質問に答えなかった。
~~~~~~~~~~
「………」
「…ん……よし!出来た」
「ギャッ!ギャギャギャギャー!」
なんだか激しくデジャヴュったするが気のせいだろう。だいたい、今はそんなことを気にしている余裕はない。
「ありがとう大河。終わったよ」
「…………」
「………大河?」
「…オ……オウ!大丈夫ダ、問題ナイ。
今スグ降ロシテヤル」
「そのネタ古くない?そして何で片言?
というか僕、そんなに重かった?」
「ソゲナコトアラヘン」
「何故に方言に切り替えた?
あと、片言だと大変嘘っぽく聞こえるんだけど」
別に千尋が重かったわけではない。むしろ、小柄なせいか軽かった。
俺がさっきから気にしているのはその点ではない。
(どうして|こいつ(千尋)は男子に肩車されてるのに平気なんだよ!)
要するに、肩車しているのだ。千尋を。
どうしてこうなったか、答えは簡単。
千尋はさっきこう言った、『この小鬼を木から吊すから』と。
そうすると方法は二つある。
一つは、木に登って吊す。
もう一つは直接枝に吊す。
木登りが出来そうな木がなかったので、俺達はもう一つの方を選択したのだ。最初は俺が踏み台になろうと思ったのだが、千尋が俺に悪いからと言って取りやめになった。
じゃあどうするか。千尋を台にするのは問題外だ。すると自然とこうなったのだ。
今になって思う、無理して登っておけばよかったと。
「大河、そろそろ降ろして」
「ヨシ、分カッタ!」
片言は緊張と煩悩が入り混じりまくっている結果だ。
ゆっくりとしゃがんで、千尋が降りたのを確認したときは、ほうっとため息をついてしまった。
「ギャギャー!」
鬼は叫んでいるが、これをどうこうするつもりはなかった。
「僕……そんなに重かったかなあ……」
千尋が横でそうぼやいている。これを聞いた俺は、あらぬ勘違いをさせないように、ちゃんと言っておくことにした。
「千尋、このため息はお前が重かったからじゃない。これはお前の太────」
ここでそのまま「太ももがムニムニと当たっていて、それで発生する性欲を頑張って抑えていたからなんだ」と言ったら「この変態が!」と言われて殴られるに決まっている。俺はそこで方向転換した。人間は学習する生き物なのだ。
「お前に欲情しただけなんだ!」
さらに終わった気がする。よく考えないで発言したことを今更後悔した。
ゾンッ
何かおぞましい気配を千尋から感じたところで意識は途切れた。
~~~~~~~~~~
「さあ、ここら辺の木陰で鬼の出現を待とう!」
何があったんだろう。よく思い出せない。
時計(俺に支給されていたものの一つ)を見る限り、時間は30分しか経っていない。なのに全身の間接が一度外れたかのような不快な痛みがある。全身に打撲傷があるかのような鈍い痛みもある。
本当に何があったんだろう。見る限り何も変わっていないのに、致命的な何かが終わってしまった気がする……。
俺が空白の30分に首を傾げていると、千尋がとんとんと肩を叩いてきた。
「来たよ」
次回からようやく戦闘シーンに入ります。
戦闘描写を書いているとどうしてもグダグダになっちゃうんですよね。
さて、どうしたものか………。