第五話:おふざけ道中
今回も主人公をいじり続けてしまいました。なんかはまったわ(笑)
「爆弾だと?」
俺の体の中に……政府がいつでも起爆可能な爆弾だって?
「千尋、言っておくが俺はまだ仕掛けられてないぞ?」
「ふーん?どうしてそう言えるのかな?」
「だって俺はまだ手術とか受けたことないし」
スレイブは国家への反乱を防ぐため、体内に爆弾が仕掛けられる。確かに恐ろしい。
だがそれには爆弾を仕掛ける手術が必要なはずだ。俺はこの世で生をうけてから一度も手術を受けたことがない。
体が無駄に丈夫なのだ。まあ流石に車に撥ねられても軽い打撲で済んだときは、自分で自分の体が気持ち悪いと思ったが………。
話が逸れた。とにかく、俺の体内にまだ爆弾は仕掛けられてない。
だがこの任務が放棄出来ないのは同じだろう。何故なら、パートナーの千尋には爆弾が仕掛けられているからだ。
千尋には悪いと思うが、爆弾が仕掛けられていないというだけで心境的に楽になった。俺はまだ国の命令に絶対服従せざるを得ないわけではないのだ。
だが安心感に浸っていられたのはごく短い時間だった。それは一つのことに気付いたからだった。そうだ、千尋は……千尋には爆弾が仕掛けられている。それなのに俺は気遣いの一つもなしに、一人で安心していたのだ。
千尋の顔を見てみた。
だが予想されたものとは違う表情をしていた。
絶望でもない。悲しみにくれているわけでもない。嫉妬の念でもない。
千尋は無表情だった。
ただ、その目からは憐れみのようなものが感じられた。
「千尋?」
思わず声をかけると、普通にこちらを向く。瞳はそのままに。
千尋は少し逡巡するような顔を見せたあと「どうせ今隠していても後にはばれるだろうしね……」と独り言を言った後、千尋は口を開いた。
「大河、安心してるところ悪いんだけど……それは有り得ないんだよ」
「は?」
こいつ、何を言って──
「君にも爆弾は仕掛けられている。確実に……ね」
「……何でそう言い切れるんだよ?さっき言ったろ?俺はまだそんな手術は──」
「受けてる。絶対に」
「だから受けてねえって!」
つい怒鳴ってしまった。慌てて口をつぐむ。
今の怒りは、俺自身のことを千尋が勝手に否定していたから……だけではない。
やはり怖いのだ。国の奴隷となるのが。自由を奪われることが。
爆弾を仕掛けられているということは、それに直結する。だから何としても否定したかった。
俺は今だけは神に頼んだ。
お願いします、どうか爆弾は仕掛けられていませんように……と。
千尋は今の俺の怒声にビクッと反応していた。やはり驚かせてしまったのだろう。いくら性格が男っぽくても、女の子なのだから……。
千尋は俯き気味になって、言った。
「じゃあ……大河が政府に必ずしも従わなくてもいいと仮定するよ?」
「……ああ」
正直、今だに俺の言葉を信じない千尋に苛立ちが募っていた。そのため、返事は大分ぶっきらぼうになってしまっている。だが、次の千尋の言葉は予想外だった。
千尋は上目遣いでこちらを見詰めて言った。
「そしたら、大河は僕のことを見捨てて行っちゃうの?」
「………!」
慌てて目を逸らしてしまった。
ヤバい、何だ今の……?
可愛すぎんだよ畜生!これで冷たい言葉をはける奴なんているのか?
少なくとも俺には無理です。
「………ない」
「……え?」
「それだけはない、絶対に。望むなら一生千尋に付き添ってもいい!」
………あれ?なんか俺、余計な一言まで付け加えなかったか?
記憶をさっきのところまで遡る。
先程ノ状況ヲ、再現シマス。
『そしたら、大河は僕のことを見捨てて行っちゃうの?』
『それだけはない、絶対に。望むなら一生千尋に付き添ってもいい!』
…………。
………………。
脳内処理ガ追イツキマセン。
シバラクオ待チ下サイ。
「─────────」
「大河?オーイ大河ー?」
処理ガ完了シマシタ。
結論:千尋ニ『プロポーズ』ヲシタ
………………。
「 」
「大河!?何か口から白いもわもわしたものが出てるよ!?
まずいんじゃないの!?」
「…………ハッ」
千尋にガクガク揺さ振られて意識を取り戻した。
「あ………戻った?」
「……ああ、何とか」
何か渡っちゃいけない川を渡りかけていた気がする。だがさっき言ってしまったことは覚えている。
ヤバい、かなりヤバい。凄く大変なことをしでかしてしまった。
正直、さっきの出来事はコンクリートに詰めて東京湾に沈めたい気分だ。だが千尋は平然としている。ということは特に何もなかったというわけだ。つまり、俺の気のせいだったんだ。幻想だったんだ。良かった良かっ───
「いやー、それにしてもあんなこと言われたの初めてだったよ」
「ノォォーーーーー!!」
やっぱりか!分かってたよ!
「ウンウン、『望むなら一生千尋に付き添ってもいい!』か~。どうしよっかな~?」
ニヤニヤとこちらを見ながら俺の恥ずかしい台詞をリピートする千尋。
「えっと……その、違うんだ!いや、違わないんだけど違うんだ」
「大河、混乱し過ぎて良く分からなくなってる。まあ分かるけど」
千尋も悪ふざけをしただけだ。そんなに引っ張らないでくれた。
「さて、おふざけはここまでにして………もうそろそろだよ?」
「………え?」
俺は唖然としていた。
何故なら俺達がいるのは──
「都会じゃねえか……」
高層ビルが立ち並び、車がビュンビュン通る。そんな都会だったからだ。
やばいな、もうすでに追いつかれかけている。
誰かネタをくれ!